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エグゼクティブ・サマリー
 本研究において「オーシャン・ガバナンス」とは海洋に関する諸問題の統治・管理方法をいい、それは政府のみならず、地方共同体、産業、その他の「利害関係者」が関与するものである。これにはそれらが創り出した国内法・国際法、公法・私法、慣習・伝統・文化、制度・手続が絡む。このことは明らかに極端に複雑なシステムを生み出す。ここでは議論を3つの部分に大別するが、部分間の境界は幾分曖昧である。
 
 第1部では法制面の枠組みを論ずるが、この基礎は国連海洋法条約が与えたものである。この条約が調印の受け付けを1982年に開始した時は、全く包括的なものであった。海洋のすべての主要な利用を統治するものであった。多数の高度に革新的な概念と原理を導入したが、そのなかで最も重要なものは次のものであった。
 
・ 人類の共同財産の原理が国際海底区域の天然資源に適用され、この資源はどの国家、法人、自然人もこれを私物化することは不可能で、人類全体の利益のために管理する必要があり、環境の保護に意を用いつつ専ら平和目的に蓄える。
 
・ 海洋空間の諸問題は密接に相関連しており、全体としてこれに対応する必要がある。
 
 国連海洋法条約は全体の枠組みとなる条約で、そのなかにその他の国際法、特にUNEP(国連環境計画)と外交会議の推進する環境国際法、IMO(国際海事機関)とUNCTAD(国連貿易開発会議)の特に推進する海運法、FAO(国連食糧農業機関)と外交会議の推進する漁業法が含まれる。
 
 国際環境法は1982年以来、とりわけ1992年のリオの拡大地球サミット以来、未曾有の発展を遂げてきた。地球サミットでは多数の条約、協定、プログラムが生まれた。これらのすべてが海洋に関連する要素を含んでおり、いまや、海洋法条約との相互作用のなかでの検討が必要となっている。したがって全体的な法制面の枠組みは3つの主要部分に分けて検討することが可能である。(1) 1982年国連海洋法条約、(2) 条約が包摂するその他の国際法、(3) 1992年以降の条約、協定、計画の法制度と、現在、相互作用の関係にある海洋関連要素である。
 
 第2部は機構・制度面の枠組みを取り扱う。機構はこの半世紀の間に生まれた法令を実施するために必要とされる。海洋法条約は、それ自身で4つのグローバルな機構を創設した。
 
・ ジャマイカにある国際海底委員会。人類共同財産を管理する。
 
・ 国際海洋法裁判所。条約の実施と解釈に起因する紛争の平和的な解決にあたる。
 
・ 大陸棚の制限に関する委員会
 
・ 締結当事国会議
 
 5番目の機構は条約が定めているもののまだ実現していないもので、海洋科学技術の進歩のための地域センターで構成すべきものである。
 
 条約は、その他の漁業、海運、海洋科学調査などの主要な海洋利用のための新たな機構は設立してこなかった。これらの機構の統制と管理には「権能のある国際機構」すなわち特にそれぞれが独自の事務局と、部門としての権限を持つ国連専門機関が頼りである。このすでに複雑な制度にUNCED(国連環境開発委員会)条約規範の事務局と部門権限を加えることで、明らかになってくるのは、UNCLOS(国連海洋法条約)/UNCEDプロセスにより作られた機構のようにばらばらに細分化された機構的枠組みの中では「集中管理」の方向に動くことが極めて困難になったということである。国連総会のみが唯一、全員加入で、かつ広範であり部門間を貫く権限を持っているということで、幾分の統一と調和の機能を行使し得たはずであるが、総会は、この極めて厄介な課題に公正な裁きをするには時間がなかった。「諮問プロセス」(UNICPOLOS)の設立により、状況は大きく改善された。機構的な秩序が、国連環境環境開発委員会の報告(1987年)が創り出し、さらにとりわけアジェンダ21が念入りに仕上げたガイドラインに応えて進展しつつあり、秩序は地方共同体から国家政府を経由して地域的な海洋のレベルまで、さらに国連にまで至るものになっている。第2部はこの進展するシステムを概観し、その先の進展の予測も添える。
 
 第3部は締めくくりとして法令を有効に実施するために機構に必要なツールを取り扱う。なぜなら最良の法制面の枠組みが、最良の機構的枠組みを得ても、このツールなしでは有効な実施ができないからである。第3部で検証するツールは技術、財源、遵守と強制の手段である。
 
 技術「移転」と財源の問題は明らかに密接な相関関係にある。新たな追加的財源は、貧困国が条約と行動プログラムを効果的に実施するために必要な技術を取得する手助けとして必要である。本研究第3部は、従来の技術と今日の高度技術との基本的な差異に注目を集めようとするものである。今日の技術は情報と知識主導型であり「買う」ことはできず「習得する」必要がある。この達成に最も効果的な方法は研究開発における合弁事業である。この方法は、国際レベル、特に地域レベルでの研究開発投資の公的部門と民間部門の間の相乗効果を円滑化するための枠組みを提供する。
 
 「新たな追加的財源」を創る別の「革新的方法」がこの部では探られるが、そのなかには有名な「トービン税」すなわちノーベル賞受賞の経済学者James Tobinが1978年に提唱した概念の若干のバリエーションなどがある。テスト・ケースとして、本研究では旅行者と国際海底区域に敷設した光ファイバー・ケーブルへの軽微な課税を推奨する。指摘すべきは、企業部門の持つ膨大な資金的および政治的な権力と、国連システム(「主要グループ」)の意思決定プロセスに参加できる権利を考えるとき、この部門が、システムへの予測可能でかつ確かな財政貢献の一端を、今日ではほとんどの場合巨大企業よりも弱小な国家とちょうど同じように担うことを期待するのは、フェアといっても決して言い過ぎではない、ということである。
 
 最後のセクションでは法令遵守強制力の定めを扱う。規則はその背後にある強制力と同然とはよくいわれる。さらに、持続可能な発展は平和と安全保障なしにはとても達成できない。この部では、地域的な沿岸警備隊設立の考察などあらゆるレベルでの協力強化をとおして、地域的な遵守と執行手段を強化する方法を点検する。これはリオ宣言の原則25に従うもので、そこでは、平和、開発、環境保護は相互依存の関係にあり切り離すことはできないと述べている。








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