III. 一次検査
一次検査は、簡便な手法により海湾が健康か不健康かを評価する。
検査項目は「生態系の安定性」の指標となる項目と「物質循環の円滑さ」の指標となる項目で構成する。一次検査の検査項目を図III-1に、一次検査項目の概要を表III-1に示す。
「生態系の安定性」については“生物組成”、“生息空間”及び“生息環境”の3つの視点から以下の6つの検査項目で検査を行う。
「物質循環の円滑さ」については、“負荷”、“海水交換”、“基礎生産”、“堆積・分解”及び“除去”の5つの視点から7つの検査項目で検査を行う。
図III-1 健康診断項目
表III-1 一次検査項目の概要
  |
視点 |
番号 |
評価項目 |
調査方法 |
調査結果の見方 |
評価方法 |
【生態系の安定性】を示す項目 |
生物組成 |
生態-1 |
分類群毎の漁獲割合の推移 |
農林水産統計年報に基づき最近10年間の魚種別漁獲量を整理する。最近10年の平均値と最近3年間の平均値を整理し、分類群毎の漁獲割合を比較する。分類群は浮魚、底魚、底生生物、貝類、海藻類、海藻養殖とする。 |
漁獲割合の一番大きい分類群の割合の変化に着目する。 |
・最近10年間の平均値と最近3年間の平均値とを比較し、漁獲割合の一番大きい分類群の割合が20%以上変化していれば× |
生態-2 |
生物の出現状況 |
干潟や岩礁域等の沿岸域を目視及び聞き取り調査を行い、生物の生息をチェックする。 |
良好な環境を好む生物がどの程度生息しているのかに着目する。 |
・生物チェックシートに記載された生物が生息していなかったら× |
生息空間 |
生態-3 |
藻場・干潟面積の推移 |
環境省の自然環境保全基礎調査に基づき、藻場及び干潟の面積の推移を整理する。
面積についてのデータがない場合は、聞き取り調査を行う。 |
藻場・干潟の面積の変化に着目する。 |
・藻場・干潟のそれぞれの面積が20%以上減少していれば× |
生態-4 |
海岸線延長の推移 |
環境省の自然環境保全基礎調査に基づき、海岸線の形状(自然・人工)の推移を整理する。 |
海岸線の形状の変化に着目する。 |
・人工海岸が20%以上存在していれば× |
生息環境 |
生態-5 |
有害物質 |
公共用水域水質測定結果に基づき健康項目を整理する。
生物については、奇形等の異常個体、有害物質が原因で個体数が減少した種の報告例等を整理する。 |
水質基準等と照らし合わせる。
異常個体等の報告例の有無に着目する。 |
・最近5年間で(環境)基準値もしくは評価値を上回っていれば× |
・最近5年間で奇形等異常個体の報告例があれば× |
・最近5年間で有害物質が原因で個体数が減少もしくは姿を消した種の報告例があれば× |
生態-6 |
底層水の溶存酸素濃度 |
公共用水域水質測定結果及び浅海定線調査に基づき底層の溶存酸素濃度の経年変化を整理する。 |
溶存酸素濃度が3mL/L以下を貧酸素状態とし、貧酸素状態の頻度に着目する。 |
・貧酸素比率が最大で50%を超えていれば× |
【物質循環の円滑さ】を示す項目 |
負荷 |
物循-1 |
滞留時間と負荷に関する指標 |
湾内に流入する単位体積あたりの負荷量と海湾の平均滞留時間との関係を2次元のグラフ上で整理する。 |
C0というパラメータで適正な負荷量を判断するとともに、高負荷滞留型・低負荷交換型という海湾の特徴を捉える。 |
・各水質項目のC0が以下の基準値を越えていれば× |
海水交換 |
・COD 0.2mg/L、T-N 0.2mg/L、T-P 0.02mg/L |
物循-2 |
潮位振幅の推移 |
気象庁の潮位表などから検潮所における潮位デ一タを整理する。整理する項目は朔望平均の満潮位と干潮位でその差を持って潮位振幅とする。またそれらの経年変化を整理する。 |
潮位振幅の変化に着目する。 |
・潮位振幅の減少が10年間で5cm以上であれば× |
基礎生産 |
物循-3 |
透明度 |
公共用水域水質測定結果に基づき透明度の経年変化を整理する。 |
透明度の変化に着目する。 |
・最近10年間の平均値と最近3年間の平均値との差が±20cm以上であれば× |
  |
物循-4 |
プランクトンの異常発生 |
既存資料に基づき、赤潮の発生件数の経年変化を整理する。
赤潮調査を行っていない場合は、聞き取り調査を行う。 |
赤潮の発生の有無に着目する。 |
赤潮が発生していれば× |
堆積・分解 |
物循-5 |
底質環境 |
底質をコアサンプラーや採泥器で採集する。 |
性状や生物の有無を中心に底質の臭いや色にも着目する。 |
・底質の臭い及び色調に異常があれば× |
・生物がいなければ× |
  |
物循-6 |
底層水の溶存酸素濃度 |
公共用水域水質測定結果及び浅海定線調査に基づき底層の溶存酸素濃度の経年変化を整理する。 |
容存酸素濃度が0.5mg/L以下を無酸素状態とし、無酸素状態の頻度に着目する。 |
・無酸素比率が0でなければ×(無酸素水塊(溶存酸素濃度0.5mg/L以下)が出現していれば×) |
除去 |
物循-7 |
底生系魚介類の漁獲推移 |
農林水産統計年報に基づき最近10年間の底生系魚介類の漁獲量を整理する。整理する底生系魚介類は底魚、底生生物、貝類とする。 |
魚獲量の変化に着目する。 |
・最近10年間の平均漁獲量と最近3年間の平均漁獲量を比較して、20%以上変化していればX |