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3.2 ニ次検査
 有明海の一次検査の診断結果に基づき、二次検査を行う。二次検査は一次検査の診断結果を確認する再検査と“不健康”の原因を探るための精密検査とからなる。
 
3.2.1 再検査
 
(1) 分類群毎の漁獲割合の推移(生態−1)
 漁獲高の中でも、底生系漁獲高が大きく変動しており、そこに含まれる底魚、底生魚介類、貝類のうち、もっとも大きな変化を示していたのは貝類である。底生系魚種の漁獲高が大きく減少しているので、“健康”と診断することはできない。
 
(2) 生物の出現状況(生態−2)
 一次検査において、“不健康”であると診断が下された場合を想定し、生物の定量・定性調査の実施を仮定した。
 磯では、動・植物プランクトン、ベントス(マクロベントス・メガロベントス・付着生物)、海藻類の定量・定性調査を、砂浜ではマクロベントスの定量・定性調査を、干潟では付着藻類、ベントス(マクロベントス・メガロベントス・付着生物)の定量・定性調査を、人工護岸では動・植物プランクトン、ベントス(マクロベントス・メガロベントス・付着生物)、海藻類の定量・定性調査を、海底ではマクロベントスの定量・定性調査をそれぞれ実施する。
 専門家による上記定量・定性調査結果を一次検査に用いた生物チェックシートと照らし合わせ、一次検査の評価基準により健康・不健康の診断を行う。
 
(3) 藻場・干潟面積の推移(生態−3)
 消失干潟の海湾全域に対する影響割合について調べる。二次検査で示した(b)のグラフから判断すると、有明海は1%より大きい値を示しているので、消失干潟の影響割合は大きいと考えられ、“健康”と診断することはできない。
 藻場についても同様に判断すると、有明海は0.1%より大きい値を示しているので、消失藻場の影響割合は大きいと考えられ、こちらについても“健康”と診断することはできない。
 
(4) 海岸線延長の推移(生態−4)
 再検査においても「生態−1」が“健康”であると診断されなかったので、この項目についても“健康”であると診断することはできない。
 
(5) 有害物質(生態−5)
 基準値を越えたのは平成12年であるため、その後3年間を経過していない。したがって、ここでは“健康”であるとは診断できない。
 
(6) 底層水の溶存酸素濃度(生態−6)
 この項目は一次検査で“健康”であると診断されたため、二次検査は行わない。
 
(7) 滞留時間と負荷に関する指標(物循−1)
 この項目は一次検査で“健康”であると診断されたため、二次検査は行わない。
 
(8) 潮位振幅の推移(物循−2)
 一次検査で用いた潮位振幅の減少値をみると、有明海の口之津、長崎、枕崎では、湾奥の口之津が5.8cmであるのに対し、湾口に近い枕崎は3.2cmとなっている。この結果から、湾外においても潮位振幅の減少が見られるようだが、湾内にも振幅の原因が存在すると判断されるので、ここでは“健康”であると診断することはできない。
 
 
(9) 透明度(物循−3)
 有明海は一般的に富栄養化が進行した海域であるとは位置付けられていない。また、有明海の特徴として、低透明度は底泥粒子の巻きあがりによるものであるとされている。さらに、「物循−4」が“不健康”であると診断されているため、ここでは“健康”であるとの診断はできない。
 
(10) 赤潮の発生件数の推移(物循−4)
 有明海に発生する赤潮は主に珪藻赤潮であるが、冬季のノリ漁期と重なると漁業被害が生じる。また、他の海域と異なり、発生回数ものべ日数も増加する傾向にあり、赤潮による漁業被害が年々拡大する方向にあるため、ここでは“健康”という診断はできない。
 
(11) 底質環境(物循−5)
 一次検査“不健康”であると診断された場合は、現地調査によって底質の化学分析と生物調査を行う。調査項目はCOD、T-N、T-P、強熱減量、硫化物、粒度組成、底泥中の生物同定調査である。化学分析項目で高い値が検出されたときは、底質環境の悪化が明らかであるので、精密検査を行う。詳細な生物調査の結果においても、ごくわずかの貧毛類やヨツバネスピオなどの強内湾性汚濁指標種しか出現せず、粒度組成調査結果においてシルト分が大半を占める場合は、無生物化が進行していることが明らかであるので精密検査を行う。
 
(12) 底層水の溶存酸素濃度(物循−6)
 この項目は一次検査で“健康”であると診断されたため、二次検査は行わない。
 
(13) 底生系魚介類の漁獲推移(物循−7)
 この項目に関しての再検査はないので、精密検査を行う。
 
 
3.2.2 精密検査
(1) 生態系の安定性を示す項目
 一次検査および再検査において、生態系の安定性を示す項目が“不健康”であると診断された場合は、生態系を構成する生物組成に影響を与える生息環境と生息空間について詳細な調査を行う。
 
(A) 生物組成(生態−1)
 底生系魚種のうち貝類の漁獲高が減少していたので、「生息環境」、「生息空間」、「餌環境」、「漁業被害」について調査を行う。上記の調査項目のうち、「生息環境」については「生態−5」「生態−6」「物循−5」「物循−6」の検査結果を、「生息空間」については「生態−3」「生態−4」の検査結果を、「漁業被害」については「物循−4」の検査結果をそれぞれ参考にすることができる。調査にあたって、既存資料が利用できる場合はそれらを使用し、利用できないもしくは不足している場合は現地調査を実施する。
 漁獲割合を変動させた原因が、底生系漁獲高の減少である場合は、「物循−7」についても不健康であると評価されている可能性が高いので、本調査結果を「物循−7」の考察にも役立てることができる。
 
(B) 生物組成(生態−2)
 再検査において、“不健康”であると診断が下された場合を想定し、精密検査の実施を仮定した。
 再検査の定量・定性調査結果より、食性マトリクス表を作成する。その結果、表II-15に示すような結果(例)が得られたと想定する。表に示した例のように、生物が多様に出現し、それらの生物の食性においてもまんべんなく○がついていれば、その場における生態系は安定していると考えられるが、生物が多様に出現しない場合や、出現した生物の食性に著しい偏りが見られる場合、あるいは、ある1種類が異常増殖しているような場合には生態系の不安定であり、安定性を損なう問題が存在する可能性があると考えられる。
 “不健康”の原因を探る調査としては、「生息環境」、「生息空間」、「生物的要因による異常」について調査を行う。上記の調査項目のうち、「生息環境」については「生態−5」「生態−6」「物循−5」「物循−6」の検査結果を、「生息空間」については「生態−3」「生態−4」の検査結果をそれぞれ参考にすることができる。調査にあたって、既存資料が利用できる場合はそれらを使用し、利用できないもしくは不足している場合は現地調査を実施する。
 
表II-15(1) 食性マトリクス表(磯場の例)
生物分類 生物種名 餌量
栄
養
塩
懸濁物中の
有機物
堆積物中の
有機物
死
肉
付
着
藻
類
動物
プランクトン
植物
プランクトン
海
藻
小
動
物
植物プランクトン 植物プランクトンA ○                
植物プランクトンB ○                
植物プランクトンC ○                
動物プランクトン 動物プランクトンA             ○    
動物プランクトンB             ○    
動物プランクトンC             ○    
マクロベントス フジツボA   ○       ○ ○    
フジツボB   ○       ○ ○    
カサガイA         ○        
カサガイB         ○        
カサガイC         ○        
巻貝A   ○       ○ ○    
巻貝B         ○        
付着生物 巻貝C                 ○
巻貝D     ○ ○          
イソギンチャクA         ○        
イソギンチャクB           ○     ○
イソギンチャクC           ○     ○
メガロベントス ウニA               ○  
ウニB               ○  
節足動物A       ○          
カニA     ○ ○         ○
カニB     ○ ○         ○
カニC     ○ ○         ○
海藻 海藻A ○                
海藻B ○                
海藻C ○                
 
表II-15(2) 食性マトリクス表(砂浜の例)
生物分類   栄
養
塩
懸濁物中の
有機物
堆積物中の
有機物
死
肉
付
着
藻
類
動物
プランクトン
植物
プランクトン
海
藻
小
動
物
マクロベントス ヨコエビA   ○ ○       ○    
ヨコエビA   ○ ○       ○    
ヨコエビA   ○ ○       ○    
ハマトビムシA     ○ ○     ○    
ハマトビムシA     ○ ○     ○    
ハマトビムシA     ○ ○          
ハマダンゴムシA       ○          
ハマダンゴムシA       ○          
ハマダンゴムシA       ○          
二枚貝A   ○         ○    
二枚貝A   ○         ○    
巻貝A     ○            
巻貝B     ○            
巻貝C     ○            
 
表II-15(3) 食性マトリクス表(干潟の例)
生物分類 生物種名 餌量
栄
養
塩
懸濁物中の
有機物
堆積物中の
有機物
死
肉
付
着
藻
類
動物
プランクトン
植物
プランクトン
海
藻
小
動
物
付着藻類 珪藻A ○                
珪藻B ○                
珪藻C ○                
マクロベントス 巻貝A     ○   ○        
巻貝B     ○   ○        
巻貝C     ○   ○        
二枚貝A   ○ ○       ○    
二枚貝B   ○ ○            
二枚貝C   ○ ○       ○    
二枚貝D     ○            
ゴカイA     ○            
付着生物 二枚貝A   ○         ○    
フジツボA   ○       ○ ○    
フジツボB   ○       ○ ○    
フジツボC   ○       ○ ○    
メガロベントス テッポウエビA     ○       ○    
シャコエビA     ○   ○   ○    
カニA     ○ ○ ○        
カニB     ○ ○ ○        
カニC     ○ ○ ○        
カニD     ○ ○ ○        
 
表II-15(4) 食性マトリクス表(人工護岸の例)
生物分類 生物種名 餌量
栄
養
塩
懸濁物中の
有機物
堆積物中の
有機物
死
肉
付
着
藻
類
動物
プランクトン
植物
プランクトン
海
藻
小
動
物
植物プランクトン 植物プランクトンA ○                
植物プランクトンB ○                
植物プランクトンC ○                
動物プランクトン 動物プランクトンA             ○    
動物プランクトンB             ○    
動物プランクトンC             ○    
マクロベントス フジツボA   ○       ○ ○    
フジツボB   ○       ○ ○    
カサガイA         ○        
巻貝A   ○       ○ ○    
付着生物 巻貝B         ○        
巻貝C                 ○
イソギンチャクA         ○        
メガロベントス ヒトデA     ○ ○          
ヒトデB                 ○
節足動物A       ○          
カニA     ○ ○         ○
カニB     ○ ○         ○
海藻 海藻A ○                
海藻B ○                
 
表II-15(5) 食性マトリクス表(海底の例)
生物分類 生物種名 餌量
栄
養
塩
懸濁物中の
有機物
堆積物中の
有機物
死
肉
付
着
藻
類
動物
プランクトン
植物
プランクトン
海
藻
小
動
物
マクロベントス 巻貝A       ○          
二枚貝A                 ○
二枚貝B   ○         ○    
二枚貝C   ○         ○    
二枚貝D   ○         ○    
ゴカイA     ○            
ゴカイB     ○            
ゴカイC     ○            
ゴカイD     ○            
ゴカイE     ○            
ゴカイF     ○            
ヒトデA     ○ ○          
クモヒトデA     ○            
ヨコエビA   ○         ○    
ヨコエビB   ○         ○    
エビA   ○ ○            
カニA   ○ ○            
カニB   ○ ○            
 
 
(C) 生息空間(生態−3、生態−4)
 干潟、藻場、海岸線延長全てにおいて“不健康”であったため、「人為的改変履歴」、「潮位振幅および平均水面」、「土砂供給量および侵食」、「藻類の生息空間」、「藻類の生息環境の変動」、「磯焼けや食害等」の調査を行う。
 上記の調査項目のうち、「潮位振幅の変動」については、「物循−2」の調査結果を用いることができる。
 
(D) 生息環境(生態−5、生態−6)
 不健康の判定原因となった物質(ダイオキシン)について、「海域および河川域の水・底質、生物における有害物質」調査を行う。また、「発生源」調査もあわせて行う。調査測点の配置は、基準値を上回っていた測点を含むように考慮する。
 底層の溶存酸素濃度については、一次検査で“健康”であると診断されたため、二次検査は行わない。
 
 
(2) 物質循環の円滑さを示す項目
 一次検査および再検査において、物質循環の円滑さを示す項目が“不健康”であると診断された場合は、海湾内の物質循環諸過程を調査し、物質収支としてとりまとめ、どの過程が物質循環の円滑さを阻害しているかについて検討する。
 
(A) 負荷と海水交換(物循−1、物循−2)
 滞留時間と負荷に関する指標(物循−1)に関しては、一次検査で“健康”であると診断されたため、二次検査は行わない。このことは、有明海の海水交換能力に対して河川起源の流入負荷量は過大ではない可能性を示唆している。
 潮位振幅の推移(物循−2)に関しては、再検査においても“健康”であるとは診断できなかったので、精密検査を行う。調査項目は、「海水交換能力」と「海湾の埋立て履歴」である。
 
(B) 基礎生産(物循−3、物循−4)
(i) 透明度の支配要因の特定と変動要因
 有明海は底泥の巻きあがりが激しい海湾であるため、鉱物由来の懸濁粒子であると考えられる。それを確かめるために、透明度と懸濁態有機物、透明度と懸濁粒子(SS)の相関関係を求め、支配要因を特定する。次に、支配要因の変動に関する既存資料を収集・整理する。有明海に関しては、懸濁粒子量(SS量)、底泥の巻きあがりの強さ等について調査を行う。十分なデータがない場合には、現地調査を行い、透明度の変動要因の調査を行う。
(ii) 各種要因との関係
 1件当りの発生日数や赤潮構成プランクトン種について調査を行う。また、赤潮発生時期の気象データの整理も行い、赤潮発生と気象要因の関係についても把握する。
(iii) 基礎生産力
 基礎生産力の変動に関する既存資料を収集・整理する。有明海に関しては、Chl-aや植物・動物プランクトン量の現地調査結果が不足しているので、現地調査を行う。
調査項目は、「光量子」、「植物プランクトン」、「動物プランクトン」、「Cbl-a濃度」、「栄養塩濃度」等の鉛直調査を行う。
 
(C) 堆積・分解(物循−5、物循−6)
 底質に化学的な異常が見られたときは、「流動調査」を実施し、環境悪化の原因が、底層海水の流動の停滞によるものかどうかを確かめる。また、「懸濁態有機物の沈降速度および堆積速度」と「底層における堆積物分解速度」を実施し、沈降量と分解量のバランスについても検討する。さらに、無生物化が問題となっている場合は、【生態系の安定性】の生物調査項目を参照し、調査を行う。
 底層の溶存酸素濃度については、一次検査で“健康”であると診断されたため、二次検査は行わない。
 
(D) 底生系魚介類の漁獲推移(物循−7)
 採藻および藻類養殖を含めた底生系魚介類の漁獲による除去量を窒素量に換算したものを表II-16に示す。
表II-16 底生系魚介類の漁獲による窒素除去量
  昭和55年 平成元年 平成10年
[1]底魚、底生生物、貝類 (ton N/y) 978.1 590.6 315.2
[2]採藻と藻類養殖 (ton N/y) 649.6 881.6 935.5
[3] ([1]と[2]の合計) (ton N/y) 1627.7 1472.2 1250.7
流入負荷量 (ton N/y) 18,213.5 17,082.0 12,227.5
流入負荷量に対する[1]の割合 (%) 5.4 3.5 2.6
流入負荷量に対する[3]の割合 (%) 8.9 8.6 10.2
 
 これによると、平成10年の底生系魚介類の漁獲による窒素除去量は昭和55年の約1/3に減少しており、採藻と藻類養殖の漁獲による除去量とあわせても10年で約200tonづつ除去量が減少している。流入負荷量に対する割合としては、藻類を除いたものでは昭和55年の5.4%に対して平成10年では2.6%に減少しており、海湾の海水交換能力が変化していないと仮定すると、除去されなくなった窒素は海湾内のどこかに蓄積されていると考えられる。藻類を含めた窒素除去量については、平成10年の流入負荷量が昭和55年、平成元年と比べて少ないので、結果的に除去割合が8%代から10.2%に増加しているが、有明海では藻類養殖において施肥を行っている場合があるので、この数値を単純に評価することはできない。
 底生系魚種のうち貝類の漁獲高が減少しているので、貝類の現存量減少要因の調査が必要な場合は、「生態−1」の調査項目に従って調査を行う。
 
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図II-38 ケーススタディ海湾の検査結果








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