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2. 海湾における環境モニタリングの現状と課題
 国内外における現行の環境モニタリング事例を収集、整理した。国内の事例については、海湾における生態系の安定性や物質循環の円滑さを把握する際に利用可能な環境情報かどうか、また、それらの情報はどのような形で整備されているのかという視点で整理を行った。海外の事例については、既往文献及び学術レポート等を収集し、我が国における海湾の環境モニタリングに参考となる事例を抽出した。また、南仏及び北海沿岸等におけるモニタリングの実態を訪問調査し、生態系の変化が「海の健康度の指標の一つ」として着目されていること、潮間帯などの生物分布のモニタリングが地道に継続されており、生物調査が海の変化をとらえる上で重要な役割を担っていることが確認できた。国内の環境モニタリング事例の内容及び海外事例の調査報告は付属資料(3)及び(4)に示した。
2.1 国内の現状と課題
 
2.1.1 国内の現状
 国内の環境モニタリング調査については、調査結果が公表されているものと非公表のものとがあった。ここでは、主要海湾である東京湾、伊勢・三河湾、瀬戸内海、有明海を調査対象とし、調査結果が入手できた調査について、モニタリング名称、実施機関、概要・目的、調査測点、測定項目、調査年、調査頻度及び情報公開性について整理した。整理に用いた資料は以下のとおりである。現在行われている主要海湾の主なモニタリング調査の概要を表I-2に示す。詳細は付属資料(3)に示した。
 海湾でのモニタリング調査の特徴は以下のように整理できる。
・調査結果が公開されている調査と公開されていない調査がある。
・調査結果が公開されているものでも、印刷物等によって公表されている調査と、調査主体に問い合わせることにより公表となる調査とがある。
・大きく3つに分類できる。それは、海洋汚染調査及び公共用水域測定等のように環境省及び海上保安庁等の中央省庁が実施機関となって全国的に行っている調査、漁海況予報事業に関わる海洋調査のように自治体が実施機関となって行っている調査、大規模事業に伴って行っている調査である。
・調査地点は、沿岸域に多い。(付属資料のモニタリング調査地点図参照)
・調査項目は水質が多く、物理環境及び生物を対象とした調査は少ない。
・1970年以降に始まった調査が多い。
表I-2 主要海湾における主なモニタリング調査の概要
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※情報の公開制について、調査結果が印刷物等により公開されているものは”公表”、印刷物等によって公開されていないが問い合わせすることにより結果が分かるものは”非公表”とした。
 
 
参考資料
・海洋汚染調査報告第12号昭和59年調査結果、海上保安庁、昭和61年3月
・公共用水域及び地下水の水質測定結果、東京都環境保全局
・公共用水域水質測定結果及び地下水の水質測定結果、千葉県環境部
・神奈川県水質調査年表、神奈川県
・公共用水域等水質調査結果、愛知県
・公共用水域及び地下水の水質測定結果、三重県
・公共用水域の水質測定結果報告書、兵庫県
・公共用水域水質測定結果、岡山県
・公共用水域の水質測定結果、広島県
・大気の汚染・公共用水域の水質測定結果、徳島県
・大気汚染・水質汚濁調査結果、香川県
・公共用水域の水質測定結果、愛媛県
・公共用水域の水質測定結果、大分県
・公共用水域及び地下水の水質測定結果、佐賀県
・公共用水域水質測定結果、長崎県
・化学物質と環境、平成11年、環境庁環境保健部環境安全課
・平成6年度広域総合水質調査データ集(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)、平成8年3月、環境庁水質保全局
・千葉県浅海定線調査結果(沖合点)昭和45年〜57年、千葉県水産試験場(のり分場)
・昭和59年度漁況海予報事業結果報告書、昭和60年4月、神奈川県水産試験場
・平成2年度漁況海況予報事業結果報告書、平成3年3月、愛知県水産試験場
・瀬戸内海浅海定線調査 特殊項目測定資料 昭和52〜56年、昭和62年1月、水産庁南西海区水産研究所
・東京湾横断道路 環境保全へのとりくみ、平成6年7月、日本道路公団・東京湾横断道路株式会社
・東京湾アクアライン 開通後の環境保全へのとりくみ、平成12年3月、日本道路公団東京第二管理局
・中部新国際空港の漁業に関する調査報告書(平成5年度調査報告)、平成6年3月、社団法人 日本水産資源保護協会
・中部新国際空港の漁業に関する調査報告書(平成7年度調査報告)、平成8年3月、社団法人 日本水産資源保護協会
・中部新国際空港の漁業に関する調査報告書 平成7年度調査報告(4か年とりまとめ)、平成8年3月、社団法人 日本水産資源保護協会
・関西国際空港2期事業の実施に伴う環境監視計画、平成11年6月、関西国際空港株式会社・関西国際空港用地造成株式会社
 
 
2.1.2 現行の環境モニタリング調査の課題
 2.1.1で整理した国内の環境モニタリング調査の現状から、課題を整理した。
 海の健康状態を把握するためには、生態系及び物質循環について平面的及び鉛直的に捉える必要があるが、現行のモニタリング調査はこのような観点で調査が計画及び実施されていないことが分かった。
 
<現行の環境モニタリング調査の問題点>
・モニタリング調査が行われ始めたのが、高度経済成長期以後の、環境悪化が表面化し始めた1970年以降であり、環境悪化が始まる前の環境の状態を示す情報が無い。
(例) 海洋汚染調査:1972〜
  公共用水域水質測定:1971〜
  化学物質に関する環境調査(化学物質環境安全性総点検調査):1974〜
  非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査:1985〜
  指定化学物質等検討調査:1988〜
・調査項目は水質が中心であり、物理及び生物環境についての調査が非常に少ない。
 (例)海洋汚染調査、公共用水域水質測定、漁業海況予報事業に関わる海洋調査
・代表4海湾の環境特性を整理し、海の健康状態を把握する際に利用できるモニタリング調査結果は、透明度、クロロフィル、底質の強熱減量、有害物質といった程度である。
 ⇒生態系及び物質循環を把握する際に利用できる調査が少ない。
・調査水深が比較的表層に設定されており底層の情報が少なく、海湾の鉛直構造を捉えるための調査が行われていない。
・流入負荷を把握することが特に重要であるが、これが把握できる調査は行われておらず、既存資料でも統一性に欠け、人によって様々である。
・海域によるが、地点数が少ない。
 (例)周防灘(海洋汚染調査)、有明海(すべてのモニタリング)
・地点数が沿岸に集中しており、湾央の状態がわからない。
 (例)公共用水域水質測定
・調査頻度が少ない。
 (例)海洋汚染調査
   化学物質に関する環境調査
・資料収集に手間がかかるものや、一般公開されず、詳細が不明なものがある。
 (例)漁業海況予報事業に関わる海洋調査
   事業者レベルの環境モニタリング








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