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日本太鼓と学校教育−7
中学生を指導して
(財)日本太鼓連盟福島県支部幹事
標葉せんだん太鼓代表 横山 久勝
 
 最近になり、多くの学校から「日本太鼓の授業をやりたいので講師をやって欲しい」との連絡が、数多く来るようになりました。これも2002年からの和楽器授業に取り組むための準備かなと思われます。
 講師といっても、ただ身体だけ行って授業をやる訳にはいきません。80人を対象とすると太鼓40鼓の準備、それに太鼓の代わりに絨毯の切れ端を40枚、バチ80組、なかなか揃えるのが大変です。太鼓は、知り合いの団体から借り集め、バチは、ホームセンターから丸棒を買ってきて、定尺に切り落とし両端を丸めます。絨毯は、建設現場へ行って廃材をいただき30センチの丸に切り抜く、それだけでもなかなか大変な作業になります。
 大体、どこの学校でも2クラス2時間で授業をやるところが多いようです。最初の1時間目は、40人が太鼓、そして残りの40人が絨毯の切れ端をバチで打って授業を進めます。
 初めに、簡単に太鼓の歴史とか、太鼓は主にどんな時に使われてきたのか、そして今や和太鼓は日本の代表的な楽器であり、文化である事を説明します。「日本の文化は、礼に始まり、礼に終わる」改めて「大きな声で、挨拶をして始まりましょう」「それでは今日一日よろしくお願いします」まず私が大きな声で挨拶します。しかし、なかなか80人分の大きな声は返ってきません。「今日は挨拶の練習をしにきた訳ではありませんが、もう一度大きな声で挨拶しましょう」「今日一日よろしくお願いします」そうすると今度は、全員で「よろしくお願いします」の大きな声が返ってきます。バチの持ち方、構え方などを簡単に説明し、実際自分で打ってみせます。次に目一杯の力で一回太鼓を打ってください。セーノ、「ドン」あまりに大きな音に子供たちもビックリします。今度は基本的なリズムを3種類やり、次に私が作った簡単な曲を、教え始めます。譜面を渡し、いろいろと説明を始めると、譜面を見ただけでアレルギーを起こす子供も出てきて、雰囲気が非常に悪くなって来ます。粘り強く何度も何度も繰り返し一緒に打ちます。その内に段々と子供たちの目つきが変わってきて食い入るように私の手を見ながら太鼓を打ち始め、「ヤメー」と言っても、声が聞こえないのか、やめたくないのか夢中になって打ち続けています。そんな時には1、2分自由にやらせておきます。鉦を打って、とりあえず静かにして、もう一度初めから曲を打たせます。曲といっても1分位の短い曲なのですが最後まで間違わずに演奏できた子供たちは、特に女の子は、隣同士手を取り合って飛び跳ね、男の子も多少興奮気味で顔を真っ赤にし、低く拳を握り締め「やったぞ」と雰囲気を漂わせます。一時間という短い時間なので、これぐらいしかできませんが、今度は絨毯組と交代し、構え方等を簡単にチェックし、前回と同じことをやりますが、前の授業は絨毯を叩きながら見学していたので、曲の方は比較的早く打てるようになります。その後何度か交代しながら授業を終え、「ありがとうございました」。の挨拶で全ての授業を終えます。ジャージのズボンを腰骨の下まで下げた子が「先生、今度はいつ来てくれるんですか」「どこへ行けば太鼓を叩けるんですか」「高校受験が終わったら習いに行きます」いろんな声で子供たちに囲まれます。2時間前にはじめて逢った子供たちとはまったく別人のようです。
 そんな時、何の取り柄もなかった私が、和太鼓と出会い、子供たちから仮にも先生と呼ばれ、子供たちに感動を与え、「和太鼓に出会えて本当に良かった」と、心底思えるようになります。そして子供たちに何事かを教える喜び、感動、自分自身も子供たちから与えられる充実感、そんな思いで、太鼓を片付け帰路につきます。家に帰ってから今日の反省、そして次回の授業に向けての対策も心をときめかせながら、やることができます。
 和太鼓の持つ無限の可能性と、すばらしさを、少しでも子供たちに、これから伝えていければ幸いと思っています。
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(授業風景)








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