1. 調査の目的と全体構成
1-1 調査背景と目的
平成元年に策定された運輸政策審議会答申第10号(「大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画」)については、答申から既に12年あまりが経過し、目標年次である平成17年まで3年程度となっている。
この間各答申路線についてそれぞれ整備が進められてきたところであるが、全国的にも停滞傾向にある都市地域の活性化、益々深刻化する環境問題への対応、高齢者等移動制約者の社会参加機会確保といった観点などから、優れた都市基盤施設として都市鉄道網の整備に対する国民ニーズは一層の高まりをみせている。
他方、国及び地方自治体の財政事情は年々厳しさを増しており、上記のような社会的要請を踏まえつつも、効率的かつ効果的な交通体系整備を実施することが必要である。
本調査は、これらの社会情勢の変化や将来の近畿圏の都市構造のあり方、自家用自動車交通との適切な役割分担のあり方等も幅広く考慮しつつ、近畿圏の経済活力と質の高い市民生活を支える新しい高速交通体系のあり方について、新たに顕在化してきた課題等を踏まえ、総合的に調査・検討を行うものである。
1-2 調査の全体構成
(1) 調査フロー
調査の検討フローは次のとおりであり、調査内容の概要を示している。
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図1-2-1検討フロー
(2) 調査内容
a) 運輸政策審議会答申第10号の検証
運輸政策審議会答申第10号のフォローアップを行うことにより、答申において目指した整備課題の評価並びに答申未整備路線など残された課題についての整理を行う。
・ 答申第10号時の社会経済状況と将来展望:答申の総括を行うに当たって、その前提となった近畿圏の現状と将来展望について整理する。また、答申第10号の前提となっている、都市交通審議会答申第11、13号について、当時の社会情勢と答申の概要について整理する。
・ 答申第10号の整備目標と路線整備状況:答申の総括を行うに当たって、その前提となった近畿圏(答申10号当時は「大阪圏」)の鉄道網及び鉄道輸送サービスの課題を整理し、その課題に沿って答申10号時のねらい、進捗状況の整理を行う。
・ 答申第10号における将来予測と現状の比較分析:答申時に行われた将来需要予測結果と、現時点での交通需要とを比較しながら、答申時に想定された将来人口や開発計画、輸送需要の見通しについて、現時点での検証を行う。
・ 答申第10号が果たした役割と整備効果:答申に示された個別整備路線について、整備概要とねらい、進捗状況を整理する。また、未整備路線についてはその理由と課題について整理する。
・ 答申第10号の総括と残された課題:答申第10号において掲げられた整備課題についての総括を行い、達成されていない整備課題についての整理をとりまとめる。
b) 近畿圏における鉄道を中心とする交通の現状
本調査における今後の交通のあり方を考える上での前提として、社会経済状況の把握、鉄道・バス・自動車の各交通機関の需要動向や施設整備の状況などを整理する。また、国民の交通に対するニーズの変化や価値観の変化、社会情勢の変化などが交通需要に与える影響についての整理を行う。
あわせて社会・経済情勢を踏まえた今後の鉄道を中心とする交通体系の課題を体系的に整理、さらに地域別に分類することで、今後の近畿圏における交通体系の持つ課題とそれに対する関係主体の認識等についてのまとめを行う。
・ 社会・経済情勢の整理:常住・就業・従業の各人口指標についての動向(社会移動の推移、少子高齢化など)を整理する。また、商工業や観光などの経済活動や自治体財政などの経済情勢についても整理を行う。
・ 交通需要の動向・鉄道の概況:近畿圏における鉄道・バス・自動車の各交通機関の交通需要(手段分担率、OD交通量など)の整理を行い、合わせて自動車分担率、道路混雑の状況や鉄道路線混雑率、鉄道施設整備の状況など需要に影響を及ぼす各要因との関連についても分析を行う。
・ 空港・新幹線アクセスの状況:近畿圏への国内外からの玄関ロとなる空港並びに新幹線駅へのアクセス利便性を整理し、広域交通機関と都市内交通との連携の状況について考察する。
・ 自動車交通の概況(自家用車・バス):鉄道需要に大きな影響を及ぼしている自動車交通の状況について整理を行い、自動車交通増加の要因について考察を行う。またバス旅客の推移やバス旅客減少の要因についても考察を行う。
・ 交通に対する価値観の多様化:国民の鉄道やバスなど公共交通に対するニーズや価値観について、既存調査より把握する。
・ 東京圏と比較した交通の特性:人口や経済情勢、通勤通学形態などの社会情勢と交通需要の関係などを元に、近畿圏における交通需要の特性についての整理を行う。
・ 地域別交通課題の特徴:地域別に見た交通網の持つ具体的な課題を明確にし、これら交通上の課題に対する自治体、鉄道事業者の認識について整理する。
・ 鉄道に関わる投資の方向と需要見通し:各鉄道事業者に対するヒアリング・アンケート結果より、鉄道事業者の経営環境や投資計画ならびに今後の需要見通しに対する考え方について整理する。
c) 今後の近畿圏における鉄道整備の基本的な方向
各広域計画等上位計画に定められた近畿圏における今後の社会資本整備の位置づけ、並びに関係自治体の認識、さらに地球環境問題への対応など社会情勢の変化を踏まえ、今後の近畿圏における鉄道整備の基本的な方向性についてとりまとめる。
・ 国土計画等上位計画の概要:新全国総合開発計画(21世紀国土のグランドデザイン)など上位計画に定められた近畿圏における整備の方向性について整理する。
・ 自治体の長期計画にみる地域開発の動向と交通計画:各自治体に対するヒアリング・アンケート結果より、自治体の持つ長期計画並びに開発プロジェクト計画交通計画の考え方について整理する。
・ 近畿圏における広域交通計画:21世紀初頭における総合的な交通政策や社会資本整備の方向性について、運政審答申や広域計画等の他計画をもとに整理する。
・ 地球環境問題への対応:地球温暖化への対応のため二酸化炭素の削減が国際的にも求められており、その中で鉄道をはじめとする交通部門の環境問題への取り組みの必要性について整理する。
・ 今後の公共交通のあり方:それぞれの交通機関の持つ特性等を踏まえつつ、今後公共交通が担うべき役割や交通機関相互の連携のあり方等について整理する。さらに人口や経済環境等の将来動向と交通需要との関連について考察する。
・ 今後の鉄道整備の基本的な方向:公共交通に関する課題を「利用者から見た課題」「社会的に見た課題」「事業者から見た課題」の3つの視点から整理する。また、これまで検討してきた結果をもとに、近畿圏における鉄道整備の基本的な方向について、「ネットワーク機能の充実」「利用しやすさの向上」といったキーワードでとりまとめる。