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●巻頭言●
ふれあい事業に対する法人税課税は正当か
さわやか福祉財団理事長 堀田 力 No.42
ふれあいボランティア活動の実情と課税処分
 生活援助を核とするふれあい事業を有償ボランティアによって行っているNPO団体に対し、法人税を課するのは正当であろうか。そういう問題が、代表格の団体である流山ユー・アイネットはじめ、全国のいくつかの団体で起きている。
 実情をユー・アイネットの平成12年度でみると、ふれあい事業の活動時間は年間8031時間であり、その他に介護保険法に基づく居宅サービスと、流山市から委託された介護予防事業などを行っている。ふれあい事業は会員間の双方向で展開され、その会員数は841名で、その事業の剰余金は、約127万円である。
 ふれあい事業の収入の主たるものは、利用者の支払う謝礼金で、1時間800円であり、うち600円は援助者に支払われ、200円は、事務運営協力費としてユー・アイネットが受け取る。ここで認識しておくべき事実は、援助者が受け取る600円の性質であって、これは労働に対する報酬(サラリー)ではなく(だから、最低賃金以下の額である)、ボランティアとして提供してくれた援助行為と善意に対する謝礼の意を表す謝礼金(スタイペンド)である。全くの無償で継続的に援助を受けるのは心理的抵抗が強いため、謝意を表すための金額を支払うしきたりが生まれ、それが「有償ボランティア」と呼ばれて全国的に広まった。ユー・アイネットもその方式によっている。事務を運営するユー・アイネットの役員は、報酬も謝礼金も受け取っていない。
 このような人件費の節約によって生まれた剰余金に対し法人税が課せられたので、ユー・アイネットは、更正請求を経て、昨年12月28日松戸税務署に対し異議申し立てをした。この処分は、全国約1200の草の根型ふれあいボランティア団体に影響するので、さわやか福祉財団も、全面的にユー・アイネットを応援したいと考えている。
課税処分のボランティア活動への影響
 実は、団体がこのような課税処分を受けずにすませるのは、簡単である。援助者や事務担当者に相応の報酬を支払えば、剰余金はたちまち消えるからである。しかしながら、それではせっかく芽生えてきたボランティア活動が消滅してしまう。ふれあいボランティアは、家事などを援助することに意義があるのではなく、その活動を通じて、家族のような温かい心のふれあいをつくり出すところに意義がある。ところが、活動が報酬と対価関係にあるものとなると、効率や技能、熟練度などが問題とされ、精神的要素は後退してゆく。報酬を支払ったためボランティア精神が消え、活動が活気を失ってしまった例は、国内、国外を問わず随所に見受けられるのであって、援助者に報酬を支払うことは、ボランティアの自殺行為になるのである。
ふれあい事業は「収益事業」か
 法人税法は、非営利団体が、一定の「収益事業」(同法2条13号)を営む場合に、それによる所得に対して課税することとしている。その趣旨は、非営利団体は、所得を個人に分配しないのであるから井課税が原則なのであるが、営利法人が営むような収益事業を営むのに非課税にしておくと、事業の競争上不公平になるから、一定の収益事業による所得には課税するということである。
 この趣旨からすれば、法律にいう「収益事業」というのは、営利事業と基本的に同じ態様で収益を上げる事業をいうと解せられるのであるが、ふれあいボランティア活動を行う団体は、事業に従事する役職員に報酬を支払っておらず、この点において、営利事業と基本的に態様を異にする。そのような事業形態を採った結果、たまたま剰余金が出たとしても、これは、法律が想定している「収益事業」による収益とは到底言えない。
ふれあい事業は「請負事業」か
 非営利法人であっても課税される「収益事業」は33あり(法人税法施行令5条1項)、松戸税務署の主張は、ユー・アイネットのふれあい事業はそのうちの「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に当たるというのである。「請負」というのは、[1]一方がある仕事を完成することを約束し、[2]相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束することで成立する(民法632条)契約であって、建設工事がその典型であるが、家政婦の仕事も、派遣家政婦のすべき仕事が特定されているような場合にはこれに当たるであろう。しかしながら、ふれあい事業のサービスは、「ある仕事の完成」というようなものではなく、相手方の状況や気持ちに応じ、介助をしたり家事をしたり散歩に付き添ったり話をしたりと、サービスの内容は多種多様であって、特段の約束などなく臨機応変に行うものであり、一定の「仕事」とか、その「完成」とか、あるいは「事務処理」などという概念になじまない。従って、[1]の要件に該当しない。また、ふれあい事業の場合、すでに述べたように「報酬」は支払われないし、支払われる謝礼金も、「仕事の完成」に対して払われるものでなく、善意に対する感謝の気持ちを表すために支払われるものであるから、[2]の要件にも該当しない。
 要するに、ふれあいサービスは、愛情に基づいて行う家族間のサービスと同性質のものであって、営利事業と競合する性質のものではないのである。
 国税当局が、税収を上げることに専念する余り、国民の健全で有益な活動を阻害することのないよう、良識ある解釈を採られることを願っている。








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