ありがとうを循環する地域通貨 10
ゲームで体験してみませんか?
これまで地域通貨の事例をいくつかご紹介してきました。日本でも全国各地で地域通貨による「地域での助け合い」や「まちおこし」の取り組みが広まっていることが、おわかりいただけたでしょうか。
地域通貨の面白いところは、まず地域の人たちともっと顔見知りになれるということ。そしてさらには、お金ではない、時間や自分たちで決めた価値を自由に支払う、そんな楽しさもあるように思います。さわやか福祉財団では、地域通貨の中でも特に「時間」を基準としたものを「時間通貨」と総称しています。皆さんがよくご存じの「ふれあい切符」(時間預託)も、ボランティア活動を時間に置き換えるものですから、この「時間通貨」に当てはまります。「時間通貨と聞いて何だかとてもわくわくしました。お金を超えた助け合いっていいですね。もう少し詳しく知りたいです」。先日、ある会合で若い学生さんからこんな質問がありました。
そこで今回は、まず「時間通貨」に共通するサービス交換の意義について考えてみましょう。たとえばパソコンを教えるサービスと子守りをするサービス、あるいは小さい子どもが提供するサービスと知識・経験豊かな社会人が提供するサービス、どんな場合でも提供するサービス時間が同じ30分なら、同じ価値となります。すべての基準を「時間」としているからです。私たちが日常生活で物事の価値を判断している「円」の考え方を当てはめてはいません。お金を基準にしたサービスの交換に慣れている私たちにとって、何とも不可思議な感覚ではありますね。
地域での助け合いやボランティア活動は、本来市場経済の価値を付けられるものではありません。どれも同じだけ大切だということが、時間通貨(地域通貨)に置き換えてみると、かえってよく見えてくるかもしれません。
時間通貨を使った身近な助け合い―。ぜひ皆さんも関心を持った仲間と一緒に、遊び感覚で気軽に始めてみませんか。
「興味はあるけれど、何度も勉強会を開いたり、事務局をつくったり、運営の規則を考えたり、という話を聞くと、地域通貨って何だか難しそうだな」と思っていませんでしたか?そんなことはありません。あまり堅苦しく考えずに、何か助けてもらったときのお礼に時間通貨を相手に渡す、そんなことから、すぐにでも始められます。
「遊び感覚とは言っても、では、どうずればいいの?」という方のために、さわやか福祉財団では、地域通貨(時間通貨)のやりとりが体験できるゲーム集「ふれあいゲームキット」を作成しました。
ゲームの中の一つ「助けられ上手・助け上手体験ゲーム」は、「食事づくり」や「スポーツの指導」など50種類のカラフルなサービスカードがすでに用意されています。この中から、自分が日頃思っている「助けてほしいこと」のカードを5枚選び、参加者同士でカードを交換してください。ゲームだからこそ「助けてほしいこと」がお願いしやすいのです。「助けてほしいこと」があっても「助けてくれる人」が見つからなかったり、「助けてほしいこと」がなくて「助けてあげる人」ばかりいたのでは、カードは交換できません。このゲームでお互いの気持ちを交換していくことで、地域での助け合いについて、あるいは家庭の中のことでさえも、たくさん気付くことがあると思います。
時間通貨(地域通貨)は、日常言いにくい「ちょっと助けてほしい」のサインを発信するきっかけを作ってくれます。ぜひ皆さんも、自分たちの地域で、支え合いながら、楽しく暮らしていく方法を考えていきませんか。
この「助けられ上手・助け上手体験ゲーム」は、先着順で300セットまでご希望の方にお分けしています(送料着払い)。さわやか福祉財団の時間通貨担当までお気軽にお問い合わせください。(財団のホームページから簡易サービスカードも印刷できますのでぜひお試しください。
http://www.sawayakazaidan.or.jpから地域通貨画面を選択してください)
近隣助け合いのヒント
「助けて」と言えますか?
石井 利枝 5
(さわやか福祉財団 地域助け合い普及事業リーダー)
住民にとっての近隣助け合いとは?
長野県のある社会福祉協議会で住民の方々約1200人に「近隣助け合い」に関するアンケートを実施しています。質問は3つで、[1]「どんなことを助けてもらいたいですか」[2]「どんなことを助けてもらいましたか」[3]「あなたの近隣ではどんな助け合いが行われていますか」といった質問です。その結果、家事援助、介護、子守、買い物、ゴミ出し、送迎などの困ったときにできることで助け合い安心して暮らせるための近隣という答えと、見守り、おかずのおすそわけ、情報交換、花の株分け、趣味を教え合う、一緒に旅行、カラオケパーティーといった心の交流につながる、豊かにお互いが生き合う、生き生きと暮らせるための近隣という大きく2つの答えが返ってきました。回答の数から見ると豊かに生き合うための行為が特に多いということです。どうしてこのようになるのでしようか?
一般に近隣の助け合いというと「面倒くさい」といったイメージが大きく、まして田舎へ行くほど「大変」というイメージがあるにもかかわらず、これはいったいどういうことなのでしょうか?近隣が面倒くさいという背景には常に人がかかわっています。それだけ周りの目も多いということです。逆に言うと、それだけよその家のことは知っているということですから、あの人はどんな趣味で、今健康なのかよく知ってくれているということになるわけです。そうやって考えてみると、道で出会ったときに何気なくかわす言葉の中にそうした情報が生かされているということにつながってきます。
「あそこの温泉はいいらしい」とか「○○を食べると体にいいらしい」といったような会話となり、情報交換という近隣助け合いが営まれていることになります。プライバシーを守るということはもちろん大切ですが、知っていて知らない振りをしてくれることも相手のプライバシーを守っていることになります。
自分の家のことをある程度知られているということと、安心して暮らすということは裏腹な部分もあるということです。だからこういったアンケート結果になるのではないでしょうか。「安心して心豊かに住み慣れた地域で暮らしていきたい」とは誰もが願うことです。安心感と心の豊かさはお金だけで得られるものではなく、人とかかわり合う中で育まれていくものです。このアンケート結果のように住民にとって「近隣助け合い」とは豊かに生き合うためのものであるように、そうなれる関係づくりが大切です。そうなれる関係が「助けて」と言える間柄になれるのです。さぁ、皆さん一緒に豊かに生き合いましょう。