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ふれあい活動奮戦記
NPO法人たすけあい佐賀(佐賀県)
市民の側がモノを言い、行動することで安心して暮らせる社会の仕組みを作っていきたい
 「年を取ってぼけたり、身体の自由がきかなくなっても、自分の家で暮らすような環境で普通の生活をしたい。誰もが願うそんな思いをを形にするために、2年半前に一戸建ての民家を改修した。宅老所「ながせ」を開設しましたが、振り返ってみると多くの方々との出会いがありました。特養にいたときは寝たきりで全介助、鼻に栄養チューブを付けていたのに、今では長い時間車いすに座っていても平気で、トイレで排尿もできるし、食事も自分で箸を使って食べられるようになった人。重度の痴呆で能面のように無表情だったのに笑顔が戻った人…。そうした姿を目の当たりにすると、おむつも、薬も、身体拘束も介護する側の都合。ゆったりした時の流れを感じながら、その人のペースで生活することの大切さを改めて感じますね。でも、そうした介護は小規模でなければムリ。だからこそマンパワーを充実させ、どんな症状の人にも対応できる宅老所をどんどん増やしていきたいんです」
 
 こう語るのは、設立8年目を迎えたNPO法人たすけあい佐賀で代表を務める西田京子さん。たった一人の利用から始まった「ながせ」も介護保険事業所になるとともに、日増しに利用者が増加。それに伴い、同会では咋年8月に2か所め、そして12月には3か所めの宅老所を開所させた。
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ニーズがあればたった一人のためでも活動を展開
 「たすけあい佐賀」の母体は、1994年5月に市民参加の助け合い組織として発足した「ふくし生協佐賀準備会」。立ち上げメンバーの中心になったのは、民間の知的障害者作業所の社会福祉法人化運動に取り組んできた約30名。西田さんもその一人だった。
 「私自身は、友人がこの作業所の運営に窮していたことから見るに見兼ねてボランティアとしてかかわるようになったんですが、市民主導で社会福祉法人化が達成されたことで、福祉というのは市民の側がモノを言わなければ何も変わらない。でも、言えば少しずつだけれども変えることができるということを実感しましてね。それで当初の目的も達成されたことだし、この運動で培ったノウハウやマンパワーを生かして、これからは自分たちのための福祉を考えていこうと、仲間とともに会を立ち上げることにしたんです」
 しかし当初はニーズがゼロ。週一回の勉強会のみを重ねる日々が続いたが、3か月ほどしたころから徐々に、さまざまな状況に置かれた人から援助を求める声が寄せられるようになってきた。「お産で上の子どもを見てくれる人がいないので、預かってほしい」「障害があるので一人ではどこへも出かけられない。外出を手伝ってもらいたい」「足が悪いので買い物もままならない。家事を手伝ってほしい」等々。そしてニーズがあれば、「困ったときはお互いさまなんだから」と、たった一人のためにでも活動メニューを立ち上げる。それをモットーにしてきた結果、支援対象は高齢者だけに止まらず、子育て中の家族や障害児者など幅広いものとなり、さらにその中身もたとえば子育て支援だけでも一般託児、出張託児、障害者託児、病児託児、学重保育と、多彩なプログラムが揃った。しかも、いずれの支援も24時間体制でのサービス展開である。
 こうした、かゆいところに手が届くようなサービスによって利用者も増えていき、99年7月にはN PO法人格も取得。その理由について西田さんは「どこの馬の骨ともわからないような任意団体では社会的信用がないため、助成金や寄付もいただけない。顔の見える団体になりたかったから」と語るが、さらなる飛躍を目指して2000年4月より介護保険事業にも参入した。
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託児所
 「当時、コンピュータは一台もない状態だったので、指定事業者になることに不安はありましたが、国保連からの伝送用パソコンの貸与や「介護支援ネツトワークふくおか」の支援のおかげでどうにか始動することができました。また当初はケアマネジャーも抱えていなかったため利用者に不便をかけるのではないかとも心配しましたが、14の居宅介護支援事業所と提携し、25名以上のケアマネジャーさんと知り合うことができたおかげで、NPOの活動を理解してもらうことにもつながった。こうしたネツトワークがつくれたことは大きな成果でしたね」
 そして現在では常勤スタッフ13名、01年度の予算規模は1億2000万円を計上するまでのNPOになった。99年度の予算規模が2000万円だったことを思うと、まさに介護保険事業参入を機に、大きな成長を遂げたことがわかる。
 
佐賀県佐賀市長瀬町に本拠地を置く「たすけあい佐賀」は、障害を持つ人々、高齢者、子育て中の家族などが、住み慣れた地域で生きがいを持ち、安心して生涯を過ごすことができる明るく活力のある地域社会の実現を図るため、「困ったときはお互いさま、助けたり、助けられたり」の精神で、市民参加の活動を通じて、これらの人々の自立支援に関する事業を行い、福祉の増進を図ることを目的としたNPO法人。事業内容としては、[1]高齢者支援事業(宅老所「ながせ」「柳町」・配食サービス)、[2]障害児者生活支援事業(ガイドヘルプサービス・障害児託児)、[3]子育て支援事業(一時託児・出張託児・学童保育・病児託児)、[4]在宅福祉サービス(家事援助・移送サービス)、[5]介護保険指定事業(居宅介護支援・訪問介護・通所介護)を行っている。会員になるには正会員は年会費3000円、利用会員は入会金2000円と年会費3000円が必要。サービスの利用料は家事援助の場合、1時間800円から(交通費別途)。サービスを提供した会員は、謝礼金として利用料の9割を現金で受け取ることができる。(→連絡先は最終頁)
宅老所の運営を通じて介護保険制度の不備を見直す流れをつくりたい
 そんな同会が今後目指す方向について、西田さんは次のように語る。
 「これからのNPOは単に公的サービスの及ばない隙間を埋める役目を果たすだけではなく制度や法律を変えていくような力をつけなければならないと思うんです。たとえば佐賀市では、当会がこれまでの活動で創り上げてきた子育てサポートを99年に事業化。それによって一時期託児所の利用者は減少しましたが、先駆的に取り組んできた活動を行政が担うようになったということは、NPOとしての便命を果たせたのではないかと喜んでいます。これでもしもニーズが満たされるようになれば、そのときは私たちはまた、まだ行政が手をつけていないような地域のニーズを掘り起こしていけばいいんですからね」
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コーヒータイム。
「104歳を最高齢に皆さん元気です!」
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七夕飾り作り
 同会が昨今、引きこもり青年の問題に取り組み始めたのもそうした姿勢の表れ。この問題は社会的に大きく取り上げられているにもかかわらず、行政の対応が遅れている部分。しかも家族だけでは解決できないというのは周知の通りである。そこで大学生ボランティアや年若いスタッフをヘルパーとしてそうした青年のもとに送り込み、よじれた糸をほぐすように心のケアに当たっているのだという。「遅々たる歩みですが、少しずつ成果も表れてきました」とのこと。
 また現在もっとも力を入れている、通って(デイサービス)、泊まって(ショートステイ)、住める(グループホーム)24時間対応の小規模多機能型の宅老所も行政の先を行く先駆的な取り組みだが、「介護保険制度を活用しようと思っても、なかなかそれができない窮屈さがある」と西田さんは問題を提起する。
 「現行の制度下では、ショートステイの場含、デイサービスを行っているスペースとは分けなければならないし、子どもや障害者を一緒に泊めることもできない。またグループホームについても個室であることや、その個室には物入れがないと、介護保険の基準該当サービスにあたらないなどの細かな制約がある。つまり、介護保険というのは本来高齢者の在宅を支えるための法律のはずなのに、実際には大きな施設のための法律になっているということです。そのため私どもの宅老所では、デイサービスは介護保険の枠内で、ショートステイとグループホームの部分は枠外で行っています。そしてこの本来の助け合い活動のおかげで、独り住まいのお年寄りなどは、病院や施設に入所せずに、当たり前の生活を続けることができているんです」
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宅老所「柳町」。
利用者みんなでおはぎ作りをしたり(左)、
スタッフと一緒に昼食(右)
 こうした小規模多機能型の良さは、たまにショートステイを利用する際でも、毎日デイサービスで来ている所に泊まれ、馴染みのスタッフが介護してくれるという良さがある。そのため見ず知らすの所にポンと入れられるのと違って、お年寄りの混乱も少ない。また入所のお年寄りが地域から隔離されないためにも、昼間デイサービスを利用しているお年寄りの出入りがあるのはいいことだろう。利用者の側に立った介護保険のあり方を考えてほしいと西田さんは熱望する。
 「数は力といいますからね。全国の同じ志を持つ仲間と一緒にこうした小規模多機能型を増やし、介護保険制度をより良く見直す流れもつくっていきたいんです」
 ふれあい社会の実現を目指して、少しずつ、でも着実に結果を出してきた同会だけに、今後の取り組みにもますますの期待ができそうだ。
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月1回の誕生会。
「利用者の方が伴奏をひいて皆で歌いました」
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宅老所「ながせ」で誕生ケーキを前に。
お年寄り一人ひとりが主役です








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