巻頭言
学狡協力勝手連のすすめ
さわやか福祉財団理事長 堀田 力 No.41
「ご隠居さま、明けましておめでとうございます」
「おや、八つぁん、熊さん、おそろいで年始のご挨拶かえ。そりゃどうも、今年もよろしくお願いしますよ。さ、上がって、と言わないうちに上がってしまって。おとそ待ちだね。今出しますよ」
「いやぁ、おとそだけを目当てに来たわけじゃござんせん。ひとつ、お願いの議がありゃして」
「悪い予感がするね。元旦早々に○(これ)かい?」
「滅相もない。元旦にふさわしい、高尚なお願いで。つまり、学校協力勝手連てのを、ご存知ないですよね」
「知ってますとも。さわやか福祉財団が提唱なすってる」
「おや、さすがにご隠居さん、情報が早いや。で、そいつをうちの町内でもつくろうと思いやしてね」
「それは、高尚。めでたいことだ。で、つくり初めの式に○(これ)を出せと?」
「それも頂きやすが、要はご隠居さんにその連隊長になって頂きたいわけで」
「連隊長? えらい古めかしい役の名だね。だけど、私みたいな年寄りにそんな役が務まるかねえ?」
「まかしといてくんなせえ。動く方はあっしらがやりやすから、ご隠居さんはちょいと金さえ出せばいいから、気楽になさってよござんす」
「あ、ちょっと待ちなさい。話の中身が決まらんのに、どこへ行きなさる」
「いやあ、町内ひと回りして、ご隠居さんの命令だ、みんな勝手連に入れってんで、会員と会費を集めて来ます」
「だからあんた方はそこつ者と言われるんだよ。こういう会は、無理矢理人を入れたってうまくいくはずがない。子どもさんが好きで、何とかいい子に育てるのに役に立ちたいと思っている人じゃなきゃだめだ」
「じゃ、熊はダメだ。こいつは子ども嫌いの女好きだ」
「あとは余分だろうよ、八つぁん」
「それに、子どもさんに威張って教えたがる人もだめだ。子どもと一緒に楽しみながら考える人でないと」
「じゃ、八つぁんもだめだ。すぐ何だかんだと命令口調だ。頭は子ども並みのくせに」
「なにぃ!てめえこそ、あとが余分じゃねえか、この野郎」
「これこれ、子どもさんに教えようという人が、子どもみたいに喧嘩しててどうする。しかし、頭がというか、心が子ども並みの人ってのは、勝手連にぴったりだ」
「なら、八つぁんはぴったりだ」
「てめえだってぴったりだよ。じゃ、人集めに行こう」
「待ちなさい。子どもとっき合うのにせっかちはダメだよ。会に入ってもらうには、あんたにはこういうことを教える役をしてほしいと言わないと、話が決まらないと思うよ」
「そりゃそうだ。じゃ、ここで役を決めちまおう。料亭「青木」のおやじには、和食のつくり方なんぞやらせたら、女の子が集まりますぜ」
「今時は、男の子だって料理を覚えたがるさ」
「赤木の奥さんはさをり織りで決まり」
「黒木のじいさんは尺八」
「そんなもの小学生が習うかい?」
「なあに、塾へ行くかわりと言えば何だって習うさ。第一、あのじいさんの戦争の話はぐっとくるし」
「白木の長男は、パソコンの名人だ」
「緑川の末娘は、帰国子女」
「そうだったのかい。緑川のおやじさん、アメリカに赴任してたっけ?」
「違うよ、韓国」
「そういやそうだったな。韓国語、いいじゃないか。サッカー好きの子どもが集まるだろう」
「灰原のばあさんは大昔芸者だったから、酒のお相手の仕方なんていいね」
「小学生にそれを教えてどうする。せめては日本舞踊だろうよ」
「待ちな。あのばあさん、すぐキンキン怒るから、自分の子どもらも寄りつかない」
「わかった。灰原のばあさんを外しても、達人は十分そろうさ。で、この話を誰が学校に持ち込むんだ」
「ご隠居さんに決まってるだろうが」
「そいつは弱ったな。あの校長さん、頭カチカチで、ご近所のいい加減な奴らに神聖な教育を頼むなんて―と、ウンと言うはずがないよ」
「話がとんとんと来たのに校長でつまずいたんじゃ好調じゃない」
「くだんねぇ駄ジャレ言ってないで、町内のみんなで当たらなきゃ勝テレン」
「みんなが協力すれば強力さ」(オソマツ)