巻頭言
構造改革とNPO・ボランティア
さわやか福祉財団理事長 堀田 力 No.39
構造改革とは何か
これまでの日本の経済や社会保障などに関する基本的な仕組み(構造)は、保護のための規制がキー・ワードであった。
経済についていえば、世界に伸びていきそうな産業に補助金などを注ぎ込み、あるいは競争会社の参入を規制するなどして保護し、発展させる。一方、競争力のない農業なども行政が関与して保護する。そのため行政組織も財政支出も大きくなった。しかし、保護された産業は、競争力が衰え、世界の産業に太刀打ちできなくなるとともに、保護のための負担(財政支出)が大きくなり、国の借金はふくらむばかりとなった。
そこで、これまでの保護をやめて自立(自己責任)を、基本理念とし、そのため、規制を可能な限り排して、自由(競争)を認めるという方向に仕組みを変えていくこととした。これが構造改革で、そのキー・ワードは自立(権利)のための自由である。
構造改革の痛み
経済や財政、行政などをその方向に改革していくと、痛みが発生する。痛みの主なものは、倒産や事業の縮小廃止とそれに伴う失業である。それがどれ位の規模になるかは、どれ位のスピードでどこまで構造改革をやるかによるが、たとえば銀行の不良債権処理によって発生する倒産だけで、離職者は最大60万人(政府見通し。民間の研究所の推計でもっとも大きな数字は150万人)と予測されている。しかし、公共事業の縮小や特殊法人の整理などでどれ位の離職者が出るのかの予測は立たない。そこで大切なのは、この痛みをいかにやわらげつつ、回復を待つかということである。
政府は、今後5年間にサービス業で530万人の雇用を創出するというが、その道筋ははっきりしない。
受け皿としてのNPO・ボランティア
大量失業問題を経済の枠組みの中だけで解決するには、無理がある。NPOやボランティアも、上質な受け皿となりうる。それも、これまでのように、単に再就職するまでの訓練などにNPOを使おうという小さな発想ではなく、様々な公益活動を行っているNPOやボランティア団体に参入し、自らの持っている能力を存分に発揮するとともに、人や社会に直接役立つ活動を自ら進んですることによる生きがいを体得してもらおうという発想である。これによって生きる喜びと自信が回復できるし、自分の能力を生かせる産業があればこれに復帰する意欲も湧いてくるであろう。そして、NPO活動に参加する者が増えることにより、公共のサービスがきめ細やかになり、日本にソフトで暮らしやすい社会が広がっていくことは、疑いない。
スタイペンドの採用を
問題は、NPO・ボランティア活動では生活ができないではないかということである。また、現存するNPO・ボランティア団体がどれだけの人を受け入れられるかということもある。
それを解決する一つの方策が、スタイペンド(謝礼金)制度の採用である。アメリカが1990年にいわゆるボランティア振興法によって採用したこの制度は、ボランティア活動をした学生などに、最低賃金を上回らない程度の謝礼金を支払うというものである。
この制度は、失業保険よりずっと建設的で、本人にとっても社会にとっても有益である。
この制度が採られれば、一挙に、幅広い分野で市民公益活動が生まれるであろう。
地域通貨も有益な受け皿
わが国でも広がり出した地域通貨も有益な受け皿である。かつて失業率が高かったイギリスでは、地方自治体が、失業者の生きがいとプライドの保持のため、地域通貨を後方支援していた。
仮に失業しても、自分の有する能力を簡単に社会に生かし、生きがいとふれあいのある生活を営むには、地域通貨はまさにぴったりの仕組みである。地域で20〜30人も集まれば、パソコンや外国語などを教える人、家の改修ができる人、子どもの面倒をみられる人など、いろいろな能力が登録され、それが自分たちの創った通貨を介して生かされると、暮らしやすく、ふれあいのある地域社会が生まれる。
当財団も、精力的にこの制度を広めているところである。