SR243「スーパーシャロードラフト船の船型開発の研究」
要約
SHIP RESEARCH PANEL 243
Hydrodynamic Design and Development for Super Shallow Draft Full Ship
Summary
To propose a high economical cargo transportation for shallow water area,such as East Asia,the Super Shallow Draft Full Ship(SSDS)has been developed to carry much larger cargo at restricted shallow draft than the existing vessels.
The hull form of SSDS, having 100,000 tones DW at 10 m draft, is featured by small Length/Beam(L/B)than 5,large Breadth/draft(B/d) around 5, high block coefficient(Cb)around 0.82 and the resultant fullness parameter L/B x(1-Cb)below 0.88. Such hull form has been so far recognized being deteriorated in maneuvering and propulsive performance in the single screw ship, but feasible in the twin screw ship due to its excellent maneuverability.
The hull form for the single screw ship has been extensively investigated into the effect of B/d, after body shape, and rudder configuration etc., in order to get course keeping ability for satisfying the IMO Interim Standard of ship maneuverability and better propulsive performance by model tests, ship motion simulations, numerical calculations(Rankine Source method, CFD etc.). The twin screw ship has been also studied on improvement in propulsive performance.
Performance in rough sea condition and operation in shallow water have been investigated to comprehend the single screw SSDS's characteristics in service.
As results, hull forms for both single and twin screw SSDS have been successfully developed. For the single screw ship, good ship's performance was obtained as expected, such as good course keeping ability above the Interim Standard, and for the twin screw ship, superior propulsive performance to the single screw ship was obtained beyond expectations.
1.研究の目的
世界の海上物流は大きく変わりつつあり、特に東アジア地域を中心に飛躍的な伸びが期待されている。しかし、同地域の港湾は水深が浅いため、浅喫水型で多量の貨物が運べる船舶が求められる。同地域の港湾の調査結果、計画喫水を11m以内に制限すると、約50%の港湾に運航が可能となることが分かった。この喫水で現在運航されている船型は、最大の船型で載貨重量4〜5万トンのハンディマックス型のバルクキャリアーである。これからの貨物輸送量の増大に備えるため、この喫水条件で倍近い載貨重量を有する船型が開発できれば、海運界他のニーズに応えることが出来ると考えられる。
計画喫水を11m以下とし、載貨重量を9〜10万トンに設定すると、船長及び船幅はそれぞれ250m及び50m程度となり、肥痩度は0.82程度の船型となる。これを船型的に見るとL/B=5、B/d=5、L/B(1−Cb)=0.9となり、幅広かつ浅喫水でさらに船首尾の肥大度が大きい、いわゆる超幅広浅喫水な船型となり、従来の船型に比べてかけ離れて浅喫水肥大度が大きくなる。
このような船型の範疇では、一般的に推進性能及び操縦性能に問題が無いとされる2軸船型が指向されてきたが、1軸船型に比べるとコスト高となり運航経済性能が劣ると考えられる。一方、1軸船は浅喫水肥大度の程度が従来になく大きくなる故、異常な推進性能の劣化を惹起する懸念があり、針路安定性の劣化から操船上の問題が生じる恐れがある。更に、両船型に共通する課題として、実海域の運航性能の評価及び東アジア地域のみならず、水深の浅い海域や内水河川等への航行の安全性の評価も重要な課題となる。
本研究においては、従来船型の倍近い9〜10万トンの載貨重量を有する新船型の開発を目指し、上述の諸課題を解決する研究に取り組み、1軸、2軸のいずれの船型が運航性能上優れているのかの検討も踏まえ、これらの研究過程から得られる設計指針を確立し、新船型創出の基盤固めを行うことを目的とする。
2.研究の目標
従来船型の範疇を遥かに超えるスーパーシャロードラフト船の船型開発において、実用上問題のない船型計画・性能評価を可能とする設計指針を得るため、以下の項目を取り上げ、研究の目標とした。
(1)1軸/2軸船の船型と主要性能に関する研究
従来にない大B/dと肥大度を併せ持つ船型の主要性能を実験的に把握するとともに、理論による性能推定手法(ランキンソース法による造波抵抗、CFDによる粘性抵抗、船尾流場、自航要素、ストリップ法による耐航性能、細長体理論による操縦流体力微係数など)の評価を行う。
(2)1軸船型の操縦性能向上対策に関する研究
針路安定性の劣化が懸念されるので操縦性能の検討とともに、この向上を図るための方策を検討する。
(3)実海域運航性能(波浪中運航性能)に関する研究
対象と考える実海域を検討し、平均海象とともに荒天海象下の甲板冠水等の発現頻度や船速低下を求めて実海域運航性能を評価する。
(4)浅水域操縦性能に関する研究
模型による性能試験結果と現有推定手法の精度検討を行い、浅水域での基本的な操縦性能特性を把握する。
(5)総合評価と設計指針
1軸/2軸の選定指針、推進性能、操縦性能及び風波浪下運航性能に関する設計指針、浅水域性能評価指針などを取りまとめ、今後に残された課題を整理する。
3.研究の内容
(1)1軸/2軸船の船型と主要性能に関する研究
世界の主要港を調査し、特に東アジアの港湾を対象に、1軸及び2軸船の主要目及び目標性能を設定した。1軸及び2軸のコア船型及びB/d、船尾フレームライン等を変更した船型の模型試験による性能把握と理論による性能推定(ランキンソース法による造波抵抗、CFDによる粘性抵抗、船尾流場、自航要素、ストリップ法による耐航性能、細長体理論による操縦流体力微係数など)を行い、スーパーシャロードラフト船の性能把握と理論計算による推定手法の評価を行った。
(2)1軸船型の操縦性能向上対策に関する研究
操縦性能の検討とともに針路安定性の向上を図るため、船尾フレームラインの改良、舵面積比増加、特殊舵などによる改善効果を実験的に把握した。
(3)実海域運航性能(波浪中運航性能)に関する研究
評価海象(平均海象及び荒天海象)を設定し、荒天海象における甲板冠水や船底衝撃の発生確率を検討した。また、短期予測法を適用して不規則波抵抗増加を求め、荒天海象下での船速低下を計算した。
(4)浅水域操縦性能に関する研究
浅水域での操縦性能を調査するため、水深を変えた模型試験を施行し、その特性を把握するとともに、浅水域での船体沈下を模型試験により計測し、運航上の留意点を検討した。
(5)総合評価と設計指針
1軸/2軸の選定指針、推進性能、操縦性能及び風波浪下運航性能に関する設計指針、浅水域性能評価指針などに関する設計資料を取りまとめた。
4.得られた成果
(1)設計に利用できる世界の主要港の膨大な港湾データを整理して、東アジア地域の港湾を対象に船型の用件を設定し、従来船型の倍近い載貨重量を有するスーパーシャロードラフト船の船型を検討する一般配置、トリム計算等の基本的な設計資料が得られた。
(2)従来にない大B/dと肥大度を併せ持つスーパーシャロードラフト船に関し、船型要素も変化させた1軸船及び2軸船の推進性能、操縦性能、耐航性能に関する模型船による水槽試験データが得られた。
(3)模型試験結果との比較で、理論による現有の推定手法(ランキンソース法による造波抵抗、CFDによる粘性抵抗、船尾流場、自航要素、ストリップ法による耐航性能、細長体理論による操縦流体力微係数など)の有用性が確認できた。また、スケグ付き2軸船で、ランキンソース法による造波抵抗及びCFDによる船尾流場計算等、2軸肥大船への適用に初めて成功し実用的なレベルでの性能推定に活用できることを確認した。
(4)1軸船の操縦性能を改善する方策として、船尾フレームラインの改良、舵面積増加、特殊舵の採用などの設計データが得られた。
(5)評価海象(平均海象及び荒天海象)を設定し、荒天海象における甲板冠水や船底露出の発生確率の検討、また、短期予測法を適用して不規則波抵抗増加を求め、荒天海象下での船速低下の検討により、スーパーシャロードラフト船の実海域での運航特性が把握できた。
(6)浅水域での模型試験結果から、スーパーシャロードラフト船が浅水域を運航する場合の特性の把握ができた。
(7)従来にない大B/dと肥大度を併せ持つスーパーシャロードラフト船は、運航上留意すべき点はあるが、船型性能の観点からは実船化できることが確認された。
5.成果の活用
本研究部会で開発に取り組んだ船型は、東アジア地域の港湾を対象とし、喫水を11m以下に設定し、9〜10万トンの載貨重量を有する船型であり、実船化する上での課題の解決が図られたが、得られた成果はこれにとどまらず、これに類似の従来にない大B/dと肥大度を併せ持つ船型の開発に有効に活用ができる。その研究成果の活用について以下に述べる。
(1)1軸船及び2軸船の一般配置、貨物容積、トリム計算を始めとした基本計画の設計資料が、個々の計画船の初期検討に有効に活用できる。
(2)船型線図と推進性能、操縦性能、耐航性能に関する水槽試験結果が得られており、また、船型の改良、さらに船型要素を変化させたときの性能変化のデータが得られているので、計画船の性能の最適化に有効に活用できる。
(3)浅水域の航行を考慮したプロペラ設計の手法が把握できたので、類似船のプロペラ設計に有効に活用できる。
(4)現有の理論計算による推定手法の有効性が確認されたので、個々の計画船の性能推定の初期検討に有効に活用できる。
(5)1軸船で懸念される操縦性能の向上のための方策が得られたので、船尾フレームライン改良、舵面積増大、特殊舵の採用など、計画船の制約に応じて対応ができる。
(6)実海域での運航性能が把握でき、理論による荒天海象下での甲板冠水等の発生確率計算及び回帰分析による波浪中抵抗増加の計算手法が得られたので、計画船の馬力マージンなどの設定に有効に活用できる。
(7)浅水域での操縦性能の特性の把握ができ、理論による計算手法の有効性が確かめられたので、計画船の性能推定ができ、また、船体沈下などの運航上の留意点が計画船に生かせる。