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(ウ).まとめ
1)底生生物の種類数、多様度指数、汚染指標種(随伴する種も含む)の出現割合などは、底質分析値(COD、T-S)や底層水の溶存酸素量と明らかな関係が認められた。
2)海田湾は、7月に砂泥地のような豊富な群集とまではいかないが、底生生物の生息が見られた。しかし、10月には底泥中の硫化物量の増加や底層水の溶存酸素量の低下など底層生息環境の悪化により、無生物域ないし生物貧困域を生じさせるなど底生生物群集が貧困になっていた。
3)松永湾は、海田湾のように底層生息環境の悪化が顕著でなく、底生生物群集の貧困化が見られなかった。
4)底生微細藻類の海域浄化能を実証試験する海域は、底生生物から判断すると底生生物群集の夏季相及び秋季相の違いが明瞭に表れる海田湾での調査研究が好ましいと考える。
(3)底生微細藻培養実験
ア.種の同定および計数の結果
 第1回目の種の同定と計数からは次のような結果が得られた。海田、松永両湾における優占種はSkeletonema costatumであり、この種は浮遊性植物プランクトンであることから、それらが沈降した結果、底泥サンプル中で優占種となったと考えられる(表14、15)。松永湾において多く見られた底生微細藻類はMelosira spp.とAchnanthes spp.であり(図7)、Stn.1およびStn.5で総細胞数120 cell ml-1以上であった(表14)。海田湾においては、Diploneis spp.が多く見られ、Thalassiosira spp.やNitzschia spp.も見られた(図7)。細胞数は松永湾よりやや少なく(表15)、Stn.1で総細胞数100 cell ml-1以上で他は50 cell m1-1前後であった。
 第2回目においてもS. costatum、Thalassionema spp.、Lauderia spp.などの浮遊ケイ藻が多く見られた(表16、17)。底生性と思われる種の結果は次のようであった。Melosira spp.、Diploneis spp.、Nitzschia spp.などであった。
 
イ.底生微細藻類の単離の結果
 現場底泥表層において優占した3種Achnanthes sp.、Navicula sp.、Nitzschia sp.を単離した。しかしながら、底生微細藻類の培養は我が国においてもあまり例が無く、困難を極めた。付着生物である底生微細藻類は、付着できる基質がなければ増殖速度が著しく低下することが確認されたので、直径50〜150μmのガラスビーズを培養容器中に添加して培養実験を行うことで、最終的にNitzschia sp.の培養に成功し(図8)、本種を次の培養実験に用いることとした。また、無機栄養のみでは増殖速度が遅いことが確認されたので、今回は松永湾の底泥を用いた土壌抽出液を添加した。土壌抽出液は、オートクレーブ分解・滅菌(121℃、2atm、30min)後、クリーンベンチにおいて上澄み液を土壌抽出液として採取し、f/2培地1lに対し、1ml添加した。
 
ウ.水温と塩分に対する増殖応答実験の結果
 Nitzschia sp.は水温15℃、塩分25psuにおいて0.66±0.08day-1という高い比増殖速度を示し、一方、15psuの低塩分では、10、25、30℃で増殖が認められなかった(表18、図9)。これらの水温と塩分の実験条件によるマトリックスを図10に示す。
 
エ.光強度に対する増殖応答実験の結果
 Nitzschia sp.は30 μmole m-2 sec-1において最大の比増殖速度0.26day-1を示し、それ以上の光強度では増殖速度は低下して強光阻害が起こっていることが示された(表19、図11)。最適光強度30 μmole m-2 sec-1という値は、浮遊ケイ藻などが通常100 μmole m-2 sec-1以上で最大比増殖速度を示し、1000μmole m-2 sec-1以上で強光阻害を生じることと比べると非常に低い値であり、底生微細藻類が海底の低光強度条件下に適応していることを示すものとして興味深い。
表14 松永湾サンプル中の底生微細藻類の同定および計数結果(7月) (cells ml-1)
  Stn 1 Stn 2 Stn 3 Stn 4 Stn 5
Skeletonema costatum 280 0 330 220 1100
Thalassiosira spp. 280 70 140 90 130
Achnanthes spp . 100 20 90 0 40
Diploneis spp. 50 30 50 10 20
Distephanus spp. 0 0 0 0 20
Gyrosigma spp. 0 0 0 10 0
Melosira spp. 210 320 310 290 180
Navicula spp. 20 10 10 0 20
Nitzschia spp. 280 80 0 20 40
Pleurosigma spp. 70 0 10 0 0
Dictyocha spp . 0 0 0 0 0
SUM 1290 530 940 640 1550
表15 海田湾サンプル中の底生微細藻類の同定および計数結果(7月) (cells ml-1)
  Stn 1 Stn 2 Stn 3 Stn 4 Stn 5
Skeletonema costatum 550 0 120 0 60
Thalassiosira spp. 10 170 80 150 190
Achnanthes spp . 0 40 10 10 30
Diploneis spp. 270 100 60 50 30
Distephanus spp. 0 30 10 0 0
Gyrosigma spp. 0 0 0 0 0
Melosira spp. 0 0 0 30 20
Navicula spp. 10 20 10 60 50
Nitzschia spp. 240 110 170 130 100
Pleurosigma spp. 0 60 40 20 30
Dictyocha spp . 0 40 40 30 50
SUM 1080 570 540 480 560
表16 松永湾サンプル中の底生微細藻類の同定および計数結果(10月) (cells ml-1)
  Stn 1 Stn 2 Stn 3 Stn 4 Stn 5
Skeletonema costatum 350 160 120 150 580
Tharassionema spp 130 80 140 180 140
Achnanthes spp 0 0 20 0 0
Diploneis spp 40 30 40 60 50
Distephanus spp 0 0 0 0 0
Gyrosigma spp 0 0 0 10 0
Melosira spp 240 160 130 300 260
Navicula spp 30 40 50 20 30
Nitzschia spp 110 60 90 190 20
Pleurosigma spp 10 10 10 20 10
Dictyocha spp 0 0 0 0 0
SUM 930 530 600 930 1100
表17 海田湾サンプル中の底生微細藻類の同定および計数結果(10月) (cells ml-1)
  Stn 1 Stn 2 Stn 3 Stn 4 Stn 5
Skeletonema costatum 120 370 1140 950 920
Tharassionema spp 250 250 1110 1590 2930
Achnanthes spp 40 10 40 70 190
Diploneis spp 220 340 870 600 960
Distephanus spp 0 10 0 0 0
Gyrosigma spp 0 0 0 0 0
Melosira spp 30 90 120 190 260
Lauderia spp 740 920 720 560 490
Navicula spp 540 420 440 420 380
Nitzschia spp 340 290 150 390 410
Pleurosigma spp 20 10 30 40 50
Dictyocha spp 30 50 100 620 340
SUM 2340 2780 4720 5430 6890
表18 異なる水温と塩分条件下で得られた底生微細藻Nizschia sp.の比増殖速度
  Salinity(psu)
    35 30 25 20 15
  30 0.15±0.04 ND* 0.22±0.03 0.17±0.01 0
Temperature 25 0.17±0.02 0.24±0.01 0.23±0.04 0.24±0.01 0
(℃) 20 0.28±0.01 0.30±0.01 0.52±0.03 0.52±0.01 ND*
  15 0.29±0.03 0.52±0.03 0.66±0.08 0.44±0.04 0.43±0.17
  10 0.17±0.03 0.30±0.12 0.17±0.02 0.14±0.03 0
 *ND:No data
表19 光強度の違いに対するNizschia sp.の増殖応答
光強度 増殖速度
(μmole m-2sec-1) (day-1)
10 0.14
20 0.21
30 0.26
50 0.22
100 0.21
200 0.07
400 0.00