2.ケース研究会
1996年以降に終結したケースでフィリピン人と日本人夫婦(34組),およびタイ人と日本人夫婦(4組)による養子縁組に対するフォローアップ調査の結果、著しく問題があると思われる家庭は見られなかった。法的手続きの完了後から本格的に家族としての成長、変化し続けるのでフォローアップは重要である。養子縁組家庭とは、いつでも連絡を取れる状況にしておきたい。
今年度も月2回および、臨時に数回のケース研究会が行われた。養親希望者の初回面接結果や家庭調査結果、および養子予定者の調査結果のプレゼンテーションに対して真剣な討論を重ねた。養子縁組に関係した主な国は日本、フィリピン、タイ、米国、カナダ、イギリス、フランス、ブラジルなどであった。
国際養子縁組は児童の最善の利益を念頭に置いて、養親と養子の国の法律に準拠して行われねばならない。手続き方法の解釈に食い違いが生じることもあり、その照会と収拾には時間を要するが、ケースの進行が滞らないように関連国との連絡を密にしている。
最近は、血縁関係のない子どもを養育している夫婦も見られるようになってきたので、プライベートマッチングによる養子縁組の扱い方を検討している。
3.社会福祉実習指導
今年度は大学で社会福祉を専攻する4年次の女子学生1名の実習指導を秋に行った。児童のウエルビーイングを実現するソーシャルワーカーの技術、資質を学ぶことを目的としていた。実習当初はISSJでの相談による援助ということに戸惑いを感じていたらしいが、積極的に学習し、仕事の一端にも触れて、理解を深めた。特に国際養子縁組に関してはその意義を会得する努力をした。海外での生活体験や3年次に既に児童福祉分野で研究をしていたことが、今回の実習を実り多いものにできたと思う。その他、カンボジアプロジェクトの活動や難民へのソーシャルワークについて研修を行い、外部のNPO主催の難民に関する講座などにも出席し、関心を深めることができた。
卒業後は公務員としての職を得ているが、児童福祉の道に進みたい希望を持っている。援助者になる覚悟を持った学生との関わりは、ワーカーが切磋琢磨しながら実践を検証するよいチャンスであると考える。
4.日本語教育
今年度もフィリピンからのソーシャルワーク研修生への日本語教育を定期的に行った。研修生が仕事上必要とする表現をはじめ、日常会話の基本を習得することを目標とした。教科書は、研修生の出身国が非漢字圏であることを考慮し、漢字仮名とローマ字併用のものを用いた。それをもとに、日常生活の場面ごとに展開される会話文を導入、習得を図った。そこでは、文法に忠実な表現と言うよりは、現実に使用されている生きた日本語を取り上げ、少ない語彙表現で意思が伝えられるように口頭による練習を行った。さらに、日本語の文字が身近なものになるように、仮名の読み書きを指導した。
研修生は、意欲的にこれらの学習に取り組み、それを日本人とのコミュニケーション作りに生かすことに努力した。また、日本の文化、伝統行事の紹介に努めたが、研修生は自国の文化を振り返り、それぞれの相違点、類似点を見出したようである。このように、研修生は異文化の中にあって、貴重な経験を積み上げていったのである。
5.国際会議参加
◆ISSロンドン理事会◆
ISSスプリングフェアーに出席の荒井副理事長
5月13日から15日まで、ロンドンでPAC会議とEXCO会議がフランク会長の下に開催された。ISSJからは副理事長の荒井佐
子が出席した。新任副会長は英国のMs.エメリーとギリシャのMs.クリス。エメリー副会長は英国ISSの会長でもあり、2001年の理事会は是非ロンドンでと提案していた。その理由として英国ISSの最大の資金集め行事であるスプリング・フェアーを見てほしいという意向があった。ロンドンで恒例のISSスプリング・フェアーはタウン・ホールで開催され、ISS英国名誉会長プリンセス アレキサンドラも出席された。一般者は入場券の入手に苦労するほど人気のある国際色豊かなバザーである。このフェアーにはロンドン駐在の全大使館が全面的に協力、各国大使、大使夫人、大使館員がボランティアでお国自慢のサービス、物産展、食べ物店で奉仕、当日の収益はすべてISS英国に寄付される。英国の国際社会福祉事業に対する関心度を示していると感心した。
PAC会議はクリス新議長のもとに行われたが、参加者がほとんど同じであるため来年からはEXCO会議に合併する。ISS香港のヤオ氏は理事会前に行われたアジア・太平洋地域会議について、情報交換と意見交換が出来た有益な第1回会議であったこと、2002年は日本で開く予定であることを報告した。
EXCO会議はオブザーバーを含め、参加者30名、参加国17国で開催、各国の活動報告後、ISSのアイデンティティの明確化、世界的に活動をアピールするための戦略について熱のこもった討議が行われた。具体案として関連のある国際団体(特にUNHCR)との連絡、国境を越えたシンポジュウム、ゼミの開催、ケースワーカーリーダーの養成、ネットワークの強化、ISSデー創立案などが提案され、同時に活動推進のための資金、人材確保、事務局評価が討議された。各国で資金集めのイベント、物販を行うことに異論はなく、特に同席していたプロの芸術家である会長夫人手作りのカードの販売には全員賛成した。
◆ISSアジア太平洋地域会議◆
5月8日から10日までISS香港オフィスで第1回ISSアジア太平洋地域会議が開催された。アジア太平洋地域にあるISSの支部とコレスポンデントが集まり、アジア太平洋地域におけるISSの活動の活性化をどのようにしていくか、また各支部やコレスポンデントが現在行っている活動および、今後可能な活動について報告をした。活動費が国家予算から出ている国と寄付金でまかなっている国では、活動の規模に違いが見られるのは致し方ないが、出来るだけサービスの質に隔たりのないよう協力し、連携を強めて行くことで合意した。参加者は香港以外に、日本、オーストラリア、ニュージランド、韓国、台湾、フィリピン、タイ、マレーシアの9カ国から15名であった。
ISSアジア・太平洋地域会議出席のメンバー
第1日目は現在行っている活動状況について各国から報告があった。香港支部は国家予算がついており、活動も相談部門以外に施設経営を行っている。また他のNGOとも協力して活発な活動を行っており、その活動の多くは中国本土から香港に流入してくる人々を対象としている。オーストラリアは難民あるいは避難民として入ってくる人々が急増しており、政府は決して無条件に入国許可をするわけではないので、本国に帰れない、しかしオーストラリアにも定住できないこうした人々の問題は深刻になりつつあるとの報告があった。日本も同じような問題が出始めており、今後滞在資格のない人々で本国あるいは他国へ出国できない人々の問題は、増えていくと報告した。さらに無国籍の子どもの問題にも触れ、日本が血統主義であり、生地主義ではないために起こる無国籍あるいは未就籍の子どもの問題を紹介した。コレスポンデントは全員政府関係者か福祉機関の役員であるため、ISSとしての実際活動は行っておらず、現在所属している機関の活動についての発表があった。アジア太平洋地域としての今後の方針としては、国籍のない子どもや養育者のない子どもの保護、さらに子どもの人身売買を防ぐためにはもっとISS支部やコレスポンデントを増やして、ネットワークを強化することが必要である事を確認し、2002年は日本で第2回アジア太平洋地域会議を開催する方向で検討することが承認された。
◆フィリピンのグローバルコンサルテーション◆
2001年8月29日から31日までフィリピンのアンヘレス・シティーに於いて、フィリピン政府社会福祉開発省(Department of Social Welfare and Development=DSWD)が開催した第6回グローバルコンサルテーションに、ISSJから3名の職員が参加した。この国際会議ではフィリピンの子どもの国際養子縁組を中心テーマに、家庭に代わる代替ケアについて、様々な視点から講義、討論が行われた。参加者は総勢265名で、日本以外にもアメリカ、イギリス、インド、オーストラリア、オランダ、カナダ、中国、タイ、ドイツ、ノルウェー、マレーシア等から参加者があった。
会議にはフィリピン・アロヨ大統領も出席
各国出席者との討論を通じ、「子どもは家庭で育つ権利がある」ということが多くの国で前提となっており、「施設入所」は一時里親が見つからない時の措置として捉えられていること、またいかに早期に「パーマネント・プレイスメント」を行うかが課題となっていること、などを知り、日本の現実との大きな隔たりを痛感させられると同時に、多くを学ぶことができた。