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II 川崎市のこれまでの取組み
図3 川崎市で進行中の施策と産業拠点
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 前述のように川崎市の産業構造の変化とともに、様々な産業振興政策が講じられてきた。こうした施策と民間企業の研究開発機能へのシフトが相まって、現在の産業構造を形作るに至ったと考えられる。ただ、南北に細長い地理的な条件を有しているため、市内に位置する多くの民間企業の研究機関と有機的に連携をすすめ、このネットワークを活用して、先端の科学技術を生み出し、それが事業化され、各拠点において根付き、基幹産業へと展開・発展するという、新しい循環型の産業システムの構築を目指しており、図3のように様々な施策が展開されている。中部では日本で初めてのサイエンスパークと言われるかながわサイエンスパークが位置しているほか、北部ではマイコンシティ、臨海部ではエコタウン事業が推進されており、この内容は以下の通りである。なお、新川崎創造のもり事業については後述する。
 
1 KSP(かながわサイエンスパーク)
(1)概要
 かながわサイエンスパークは、JR武蔵溝の口駅より無料シャトルバスにて5分、徒歩で10分に位置し、神奈川県と川崎市が主導し、国と民間企業の協力を得て、1989年にオープンした日本で最初のサイエンスパークである。現在、ハイテク・ベンチャー系のスタートアップ企業76社をはじめ、研究開発型企業など計122社が入居(2001年1月現在)しており、約4、000名の研究者、技術者に雇用を提供している日本最大のサイエンスパークとなっている。 200名ほどの従業員を擁した工作機械メーカーの工場跡地5.6haを活用して、通産省から「民間事業者の能力活用による特定施設整備促進に関する特別措置法(民活法)」のリサーチコア施設第1号の指定を受けるとともに、民間企業にも出資を呼びかけ、1986年県、市、開発銀行各5億、民間企業30億の資本金で事業主体となる(株)KSPを設立し、官民共同のプロジェクトとして、650億円を投じ、14.5haのビルの建設に着手し、89年6月竣工、同11月にオープンするに至った。
図4 かながわサイエンスパークの3機関の連携図
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出典:久保孝雄編著「知識経済とサイエンスパーク」日本評論社
(2)KSPのシス〒ム
 (株)KSPは、[1]起業を促進するインキュベート事業、[2]1997年に創設した「KSP1号投資事業組合」を通じて、既に16社に4億円の投資を実行している投資事業、[3]1992年から起業家にビジネスプランの作成を支援するKSP事業マネージメントスクール(既に300名の卒業生を排出するとともに、卒業生のサロンであるOAK(OB’s Association of KSP management)はビジネスチャンスを創り出す、ネットワークになっている)などの事業を行っている。
 このほか、KSP内に設置されている神奈川科学技術アカデミー(KAST)や(財)神奈川高度技術支援財団(KTF)は、KSPのサイエンスパークとしての機能をより充実させる役割を果たしている。神奈川科学技術アカデミー(KAST)は、より高度な科学技術のシーズを創り出すために設立された研究機関で、大学院レベルの高度な研究と教育、学術交流などの事業を行っている。スタート以来12年間で、メカトロニクス、新素材、ライフサイエンス、光科学などを中心に、基礎、応用含めて15の研究プロジェクトが進行中で、これまで、受賞した主な学会賞は40を越え、論文発表も696編に達している。さらに、(財)神奈川高度技術支援財団(KTF)は、企業間、特に中小企業間の技術移転を仲介、斡旋する技術市場サービス事業と、工業製品の高度化に不可欠の材料分析を行う試験・計測サービスを行っている。
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出典:久保孝雄編著「知識経済とサイエンスパーク」日本評論社
 こうした3機関の関係を示したのが図4である。この3機関は、「かながわサイエンスパーク」の先駆性を示したものであるともいえる反面、これまでの活動をみると、必ずしも3機関の連携がうまくいっていたとは言えない。この要因としては、第1にこの連携システムを効果的に機能させるコーディネーションシステムを構築できなかったこと、第2には神奈川高度技術支援財団が基礎研究に傾き、研究成果の産業化へのマインドが弱かったことがあげられる。 今後、三機関の連携をすすめていくには、インキュベーションマネージャーによるコーディネーションシステムの拡充が不可欠となってくる。









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