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IV 調査結果の解析検討
IV−1. 調査結果
 
IV−1−1 粒度試験
 粒度試験結果をみると、調査点A、B、Dではシルト・粘土分が多く、順に99.5%、90.1%、97.6%を占めた。一方、羽田沖の調査点Cではシルト・粘土分は60.5%、細砂分は33.4%を占めており、他の調査点と比較して粒度組成に差がみられた。
 調査点Cで粒度組成に差がみられた要因としては、多摩川河口に近いため、河川影響を受け砂分が高くなったものと推察されるほか、羽田空港拡張工事の際に、土壌改良として付近の海底に砂を散布していた影響も考えられる。
 
IV−1−2 有害物質含有量
 有害物質含有量試験の32項目中12項目が検出されており、調査点A及び調査点D、次いで調査点Bの順で高く、砂質分の多かった調査点Cで低い値を示した。
 一般に、底質の粒度組成においてシルト分以下の粒径が多く含まれる場合には、流動等物理環境の影響が小さく、このような海域では微細な有機物等が堆積しやすい環境にある。このため、海域に流入する人為的有機物系のPCB等については、粒度の小さい海域に多く堆積する傾向にあるものと推察される。
 また、今回の調査結果において、底質に含まれる無機物においても調査点間で差がみられた。この理由としては、底質に含まれる鉱物の違いや底質の堆積過程における浚渫等の人為的影響や上記に示したような物理的影響度合いの違いによるものと推察される。
 
※ 有機物:アルキル水銀、PCB、有機りん、有機塩素化合物、VOC、チウラム、シマジン、チオベンカルブ
  無機物:カドミウム、シアン、鉛、六価クロム、ヒ素、総水銀、銅、亜鉛、ふっ化物、 ベリリウム、全クロム、ニッケル、バナジウム、セレン
 
IV−1−3 生物分析
 一般的に、底生生物は底質の粒度組成と関係がみられ、粒径が小さくなるにしたがい節足動物→軟体動物→環形動物へと出現種類の比率が増加が、更に、有機汚濁が進行すると汚染指標種といった悪化した環境条件下においても生息可能な生物種のみが出現するようになる。東京湾のように有機汚濁が進行した海域では、夏季に貧酸素水が出現した場合には汚染指標種といった底生生物も死滅し、無生物状態になることが多い。このような有機汚濁が進行した海域では、同じ海域であっても調査時期等により底生生物の現在量や出現種は大きく変動する。
 
 以上の点から今回の調査結果をみると、測点Cでは粒度組成の違いが反映されており、他の測点と比較して出現種類数が多く、節足動物も出現していたことから底質環境は他の測点と比較してやや良好であると考えられる。また、測点A、B、Dは出現個体数の出現状況に差がみられるものの汚染指標種であるヨツバネスピオが主体であったことから、底生生物からみた底質環境面では差がないものと推察される。
 
IV−2. 既往調査との比較
 東京湾で行われた既往調査を表IV−2−1に示し、比較を行った。東京湾の既往調査に比べ、ひ素及びふっ化物は4地点とも低い分布となった。他地点や既往調査に比べて比較的値が高かったSt.A(カドミウム、銅及び水銀)及びSt.D(カドミウム及び亜鉛)については、St.Aは京浜港奥部の調査地点、St.Dは千葉港の調査地点であり、いずれも既往調査における近傍の調査地点はない。千葉港の調査地点は東京港からの土砂の海洋投入地点とみられるが、採取したサンプルのカドミウム及び亜鉛含有量がその地点においてポイント的に高かったものか、あるいは水域一帯の土砂が同程度の分布を示すかについては、今回の調査からは不明である。クロム及びニッケルについての既往調査結果はない。
表IV−2−1 既往調査との比較結果
(mg/kg乾泥)
No. 項目 平成元年8月(既住調査)
T-1 T-2 T-3 T-4 T-5 T-6 T-7 T-8 T-9 T-10 Max Min Ave
表層 表層 表層 表層 表層 表層 表層 表層 表層 表層
1 カドミウム 0.75 0.62 0.26 0.85 0.9 0.78 0.76 0.89 0.30 1.78 1.78 0.26 0.79
2 クロム - - - - - - - - - - - - -
3 73.7 72.4 40.6 82.4 84.4 75.5 66.1 66.4 86 114 114 40.6 76.2
4 水銀 0.41 0.48 0.19 0.46 0.52 0.49 0.44 0.63 0.41 0.53 0.63 0.19 0.46
5 ニッケル - - - - - - - - - - - - -
6 35.6 41.0 19.6 20.5 53.8 37.0 34.3 49.4 47.3 67.2 67.2 19.6 40.6
7 亜鉛 204 214 97.6 228 298 226 189 330 239 342 342 97.6 237
8 ひ素 13.1 11.7 12.1 15.2 14.8 14.6 14.4 13.7 17.9 16.5 17.9 11.7 14.4
9 ふっ化物 180 187 192 196 224 170 210 249 202 260 260 170 207

No 項目 平成14年1月 (今年度調査)
A B C D Max Min Ave
表層 表層 表層 表層
1 カドミウム 1.4 0.1 0.4 1.8 1.8 0.1 0.9
2 クロム 72 37 32 61 72 32 51
3 180 38 56 91 180 38 91
4 水銀 0.78 0.06 0.34 0.57 0.78 0.06 0.44
5 ニッケル 55 20 20 46 55 20 35
6 72 11 23 49 72 11 39
7 亜鉛 500 84 180 530 530 84 324
8 ひ素 8.9 6.9 4.5 9.5 9.5 4.5 7.5
9 ふっ化物 150 130 140 180 180 130 150
備考)
 1.St.Aは京浜港奥部の地点であり、既往調査では近傍の調査地点はない。
 2.St.Bに近い既往調査地点としてはT−1、T−2及びT−3がある。同位置の調査地点はない。
 3.St.Cに近い既往調査地点としてはT−8がある。
 4.St.Dは千葉港の調査地点であり、既往調査では近傍の調査地点はない。
IV−3. 浚渫土砂の海洋投棄に係る国外の基準との比較
 香港、ベルギー、ドイツ、ノルウェー及びスペインにおける底質の含有量基準を表IV−3−1に示す。このうちベルギー、ドイツ、ノルウェー及びスペインについては、ロンドン条約議定書の批准国である。各国にはlowerレベルとupperレベルがあり、高い値を選んだ場合(緩い基準)と低い値を選んだ場合(厳しい基準)を表IV−3−2に示し、それらの基準値と本調査結果の比較を表IV−3−3に示す。
 これより、高い値(緩い基準)と比較すると、本調査結果は調査点Aの銅の値以外は基準を満たした。低い値(厳しい基準)と比較すると、水銀、カドミウム、鉛、銅、亜鉛、クロム及びニッケルの7項目においてlowerレベル以上upperレベル以下となる。
 ドイツ及びスペインについては、基準値を標準化する必要がある(ドイツは粒径20μm以下の堆積物に摘要、スペインは換算式により分析結果を換算してから比較を行っている)ため、基準値をそのまま比較に用いることはできない。
 ロンドン条約議定書から考察すると、詳細な環境影響調査が必要となる。

表IV−3−1 諸外国の底質における含有量基準値
  香港*1 ベルギー ドイツ*2 ノルウェー スペイン*3
現行基準(見直し SEBAに提案中 SEBAに提案中 SEBAに提案中 現行基準
管理値 アクションレベル1(目標値) アクションレベル2(限界値) アクションレベル1(参考値) アクションレベル2(限界値) クラス1(Good:正常) クラス2(Fair:適合) クラス3 (Poor:貧相(要検討)) クラス4(Bad:不良) クラス5(Very Bad:強度に汚染) アクションレベル1   アクションレベル2
試験方法 含有量試験 含有量試験 含有量試験 含有量試験 含有量試験
重金属類 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥
カドミウム >1.5 2.5 12.5 2.5 12.5 <0.25 0.25-1 1-5 5-10 >10 1.0 5.0
クロム >80 60 300 150 750 <70 70-300 300-1500 1500-5000 >5000 200 1000
>65 20 100 40 200 <35 35-150 150-700 700-1500 >1500 100 400
水銀 >1 0.3 1.5 1.0 5.0 <0.15 0.15-0.6 0-3 3-5 >5 0.6 3.0
ニッケル >40 70 350 50 250 <30 30-130 130-600 600-1500 >1500 100 400
>75 70 350 100 500 <30 30-120 120-600 600-1500 >1500 120 600
亜鉛 >200 160 800 350 1750 <150 150-650 650-3000 3000-10000 >10000 500 3000
砒素   20 100 30 150 <20 20-80 80-400 400-1000 >1000 80 200
フッ素           <800 800-3000 3000-8000 8000-20000 >20000    
注)*1:香港の基準値は、所定の数値を超えた場合、対象物は「管理が必要」と判断するための「管理値」である。
 *2:ドイツの基準は粒径20μm以下の堆積物に適用。
 *3:スペインの基準は、それぞれの国が設定した換算式により分析結果を換算してから基準と比較する。
表IV−3−2 諸外国の基準のうち低い値と高い値を選んだ場合
  低い値を選んだ場合 高い値を選んだ場合
lowerレベル upperレベル lowerレベル upperレベル
mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥 mg/kg乾泥
カドミウム 1 *1 5 2.5 *2 12.5
クロム 60 300 300 5000
20 100 150 1500
水銀 0.3 1.5 1 *3 5
ニッケル 40 350 130 1500
70 350 120 1500
亜鉛 160 800 650 10000
砒素 20 100 80 1000
フッ素 800 8000 3000 20000
注*1:ノは、ノルウェーの基準値を適用した。
 *2:べは、ベルギーの基準値を適用した。
 *3:香は、香港の基準値を適用した。
表IV−3−3 諸外国の基準値との比較
(mg/kg乾泥)
測定項目 st.A st.B st.C st.D 高い値(緩い値) 低い値(厳しい値)
lower upper lower upper
水銀又はその化合物 *0.78 0.06 *0.34 *0.57 1 5 0.3 1.5
PCB 0.013 <0.003 0.014 0.012                
有機燐化合物 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1                
有機塩素化合物 <4 <4 <4 <4                
アルキル水銀化合物 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01                
カドミウム又はその化合物 *1.4 0.1 0.4 *1.8 2.5 12.5 1 5
鉛又はその化合物 *72 11 23 49 120 1500 70 350
六価クロム化合物 <0.5 <0.5 <0.5 <0.5                
ひ素又はその化合物 8.9 6.9 4.5 9.5 80 1000 20 100
シアン化合物 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1                
銅又はその化合物 **180 *38 *56 *91 150 1500 20 100
亜鉛又はその化合物 *500 84 *180 *530 650 10000 160 800
ふっ化物 150 130 140 180 3000 20000 800 8000
トリクロロエチレン <0.3 <0.3 <0.3 <0.3                
テトラクロロエチレン <0.1 <0.1 <0.1 <0.1                
ベリリウム又はその化合物 1.0 <1.0 <1.0 <1.0                
クロム又はその化合物 *72 37 32 *61 300 5000 60 300
ニッケル又はその化合物 *55 20 20 *46 130 1500 40 350
バナジウム又はその化合物 110 95 63 93                
ジクロロメタン <0.2 <0.2 <0.2 <0.2                
四塩化炭素 <0.02 <0.02 <0.02 <0.02                
1,2-ジクロロエタン <0.04 <0.04 <0.04 <0.04                
1,1-ジクロロエチレン <0.2 <0.2 <0.2 <0.2                
シス-1,2-ジクロロエチレン <0.4 <0.4 <0.4 <0.4                
1,1,1-トリクロロエタン <1 <1 <1 <1                
1,1,2-トリクロロエタン <0.06 <0.06 <0.06 <0.06                
1,3-ジクロロプロペン <0.02 <0.02 <0.02 <0.02                
チウラム 0.01 0.01 0.01 0.01                
シマジン <0.03 <0.03 <0.03 <0.03                
チオペンカルブ <0.03 <0.03 <0.03 <0.03                
ベンゼン <0.1 <0.1 <0.1 <0.1                
セレン又はその化合物 0.6 0.3 0.2 1.1                
 注1)ノは、ノルウェーの基準値を採用している。
 注2)べは、ベルギーの基準値を採用している。
 注3)香は、香港の基準値を採用している。
 注4)*は低い値(厳しい値)のlowerレベル(*1)以上upperレベル以下の値。
**は低い値(厳しい値)のupperレベル(*2)を超える値。
 注5)St.Aの銅は、低い値(厳しい値)のupperレベル(100mg/kg)を超え、かつ高い値(緩い値)のlowerレベル(150mg/kg)をも超えている。








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