(2)海外における実態
〔国土交通省港湾局資料〕
International Association of Dredging Companies(IADC)/Central Dredging Association(CEDA):「浚渫の環境側面 浚渫物にかかわる各国の法規制実施:海洋投棄(“Envirnomental Aspects of Dredging 2a Conventions, Codes and Conditions: Marine Disposal”)」. IADC/CEDA,The Hague,1997.より
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注)*1:PCB25,52,101,118,138,153,180の合計
*2:フルオランセン、ベンゾ(b)フルオランセン、ベンゾ(k)フルオランセン、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾ(ghi)ペリレン、インデノ(1,2,3−cd)ピレン
*3:フルオランセン、ベンゾ(k)フルオランセン、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾ(ghi)ペリレン、インデノ(1,2,3−ad)ピレン、ナフタレン、ベンゾ(a)アントラセン、フェナンスレン、アントラセン、クリセン
*4:全多環芳香族炭化水素と鉱物油、EOXについてはmg/kg乾泥
*5:オランダでは、これらの物質はv.t.sb.(very troublesome substances)とされる。換算値を基準値と比較する際、これらの物質が、単独で、ある基準値を超えたら、上側のレベルで評価することとされている。
*6:香港の基準値は、所定の数値を超えた場合、対象物は「管理が必要」と判断するための「管理値」である。
*7:ドイツの基準は粒径20μm以下の堆積物に適用。
*8:オランダとスペインの基準は、それぞれの国が設定した換算式により分析結果を換算してから基準と比較する。
*9:検出限界は0.01ppm乾泥。少なくとも検出限界の3倍の含有があるときにのみ、定量的に確かであると考える。
*10:Temporary content test(現行の含有量試験):Rijnmond and Ijmondの方法による。
浚渫物の海洋投棄に関する各国の基準は、表−1に示すとおりである。
以下に、国ごとの状況を示す。
1−1 アジア
(1)香港
[1]基準
浚渫物の海洋投棄に際しては、重金属汚染に対する試験を実施した後、適当な処分場所に割当てることになっている。
汚染の有無は、一覧表に示す金属項目の含有濃度により判定する。この基準は管理値であり、一つでも基準値を超えるものがあれば、その対象物は汚染土砂と判定され、海洋投棄の際は、海洋環境から汚染物質を隔離させるための特別な投棄施設が必要となる。判定項目は、有機汚染物質についても、その範囲を拡げていくことを現在検討中である。調査は、含有量試験にて実施される。
近年、DMAF(Dredged Material Assessment Framework:しゅんせつ物評価の枠組み)のアプローチを採用し、意思決定のプロセスに生物への影響試験を組込んでいくことも検討している。
[2]浚渫及び海洋投棄に関する手続きの流れ
香港の法律に基づき、公共・民間の別を問わず、全てのシルト質堆積物の浚渫を伴う事業は、実施に先立ち、以下の政府要件を満足する必要がある。
・地質工学事務所(GEO)より:
シルトの除去には正当な理由があり、圧密を促進するバーティカル・ドレーン工法のような代替工法の設計は用いられないこと。
・環境保護局(EPD)より:
浚渫される軟弱材料の試料採取及び分析試験、主に重金属に対する汚染の試験が十分に行われていること。
事業者は、地質工学事務所及び環境保護局に対して許可の申請を行うことが不可欠である。これらの手続きが完了したときに、適切な投棄場所が割り当てられる。
この後、事業者は海洋投棄のための免許申請を行う。海洋投棄は免許制になっており、環境保護局より認可される。事業者より免許の申請がなされると、環境保護局では、浚渫と投棄方法の環境上の許容範囲、環境上適切なモニタリング計画の実施等について、海洋投棄の許可を発行する前に検討を行う。
(2)フィリピン
現在のところ、特別な浚渫基準や投棄基準は存在せず、有害廃棄物の埋め立てについても管理はなされていない。
1−2 ヨーロッパ
(1)EC
EC全体の基準として係るものは特に設定されていないが、EC通達で浚渫物の投棄や利用に関係するものはある。まず、「廃棄物に関するEC通達」(91/692/EEC)において、廃棄物の投棄を生じさせないよう、廃棄物の量を最小化し、有効利用を考えるべきとしている。
有効利用の一手段は農地における散布である。浚渫物の農業面での利用に係るECガイドライン(86/278/EEC)は以下のとおりであり、EC各国で適用されている。これらの限界値は、浚渫物にも適用される。詳細については、浚渫物の陸上投棄の章にて述べる。
・限界値A1:pH6か7の土中金属濃度(mg/kg・乾泥)の限界値
・限界値A2:農地散布での重金属濃度の限界値
また、環境影響評価に係るEC通達(85/337/EEC)によると、浚渫と投棄の内容によっては環境影響評価または環境の再調査の実施が必要となる、とされている。
(2)ベルギー
○法規制
ベルギーでは、航路浚渫物は特別な場合の廃棄物と見なされ、廃棄物管理令の適用を受けることとなる。
○基準
重金属濃度を基準とした5段階のガイドライン*1が、浚渫物保管の視点から、フランダー廃棄物公社(OVAM)により作成されている。
*1:出典資料中には引用なし。
このほか、オスロ・パリ条約の海洋活動に関するワーキング・グループ(SEBA)に対して、北海に投棄される浚渫物に対する2段階の底質基準(一覧表参照)が提案されている。本基準案はまだ有効ではないが、適用される見通しである。
基準値は、海洋航路での平均汚染濃度に基づき設定している(1989年を基準とする)。目標値(アクションレベル1)は、付属書I*2に示す物質の平均濃度を1.5倍、付属書II*2に示す物質の平均濃度を2倍した。限界値(アクションレベル2)は目標値の5倍の値であり、いかなる場合も限界値を超えることは許されない。
評価に際しては、対象項目の濃度が目標値と限界値の間にあるときには、分析検体数を増やして試験を行う。それでも中間にあるときには、生物試験を行うこととしている。調査は含有量試験にて実施される。この基準案に関しても、現在見直しが行われている。
*2:出典資料中には引用なし。
(3)ドイツ
○基準
浚渫物投棄に関するドイツ国内の政策は、オスロ・ガイドラインに従っている。
浚渫物を投棄する際の基準は、ドイツ連邦運輸省により、「連邦水域と航行管理で生じる浚渫物の投棄に関するオスロ・ヘルシンキガイドラインの適用マニュアル」において、重金属及び有機汚染物質についての基準が定められている(一覧表)。ただし、これらの基準は、単なる管理値であり、生物毒性的な影響を示す値や目標値ではない。これらはドイツ連邦内の水路から発生する浚渫物にのみ適用される。
基準*3は、1982〜87年にかけての北海ワッデン海における堆積物の広範囲分布汚染濃度、またドイツ領ワッデン海の微量金属濃度に基づいている(試料採取や化学分析の突発的な不確実性を考慮して平均汚染濃度を1.5倍している)。当面の解決策として準備されたものに過ぎず、ガイド値として用いるべきとされている。現在、オスロ・パリ条約の勧告に従い、基準をさらに見直し中である。なお、調査は含有量試験にて実施される。
*3:基準の根拠や基準値を超えた場合に取るべき行動については、ロンドン条約の科学者会合LC/SG17/2/15にて詳しく報告されている。
基準は以下の2段階に分けて設定されている。
・アクションレベル1:参考値
・アクションレベル2:金属濃度―参考値の5倍、有機汚染物質濃度―同3倍
この基準により、浚渫物は以下のとおり分類される。
[1]アクションレベル1(参考値)以下:
汚染されていない、もしくは汚染はわずかであるとして海洋投棄できる。ただし、投棄後は、項目数を減らしながらも3年ごとの繰り返し分析が必要。
投棄の際の物理的影響に対する配慮が必要。
[2]少なくとも一つの項目がアクションレベル1を超え、かつアクションレベル2(限界値)以下:
ある程度汚染されているとして、海洋投棄の際にはオスロ条約に基づく配慮と対策が必要となる。また、投棄後は3年ごとの包括的調査が必要。
[3]少なくとも一つの項目がアクションレベル2を超えている:
かなり汚染されているものとして、海洋投棄に際しては影響軽減のための配慮と対策。(ミチゲーション計画)が必要。投棄後の分析は毎年必要。陸上投棄が適切とされるものであれば、海洋投棄はすべきでない。
(4)イタリア
○法規制
イタリアにおける浚渫物の投棄に関する主な規制は「DECRETO 24」(1996年1月制定)に基づいている。
有毒/有害とされる浚渫物の海洋投棄は許可されない。法令には、評価(アセスメント)を必要とする汚染物質類を示している*4。有毒/有害でない浚渫物についても、海洋投棄には環境省からの許可が必要で、陸上投棄のような他の処分方法が使えず、環境リスクの点からも海洋投棄が適していることを証明する必要がある。
*4:出典資料中には引用なし。
(5)オランダ
○法規制
オランダの海水汚染防止法(Seawater Pollution Act)は、ロンドン条約及び条約に基づく浚渫物ガイドラインを履行したものとなっている。本法の下では原則的に廃棄物の投棄は禁止されており、汚染の程度が比較的軽い浚渫物も免許の認可を必要とする。
○基準
オランダにおける一般的な環境質の基準は、リスクアプローチを基準としている。長期間の生物毒性研究の後、現状の基準における多くの物質が、生物の再生と成長に有害な影響を与えると認識された。また、水質基準と底質基準は、互いに協調しなかった。
このような背景を受け、1994年に、浚渫物を投棄する際の品質基準として、水中生態系への影響予測を基に、重金属及び有機汚濁物質についての新基準が一覧表のとおり定められた。各基準値の品質レベルは以下のとおりである。
1)目標値:現状の知識レベルでは環境へのリスクは無視しうると考えらえれるもの以下を示す。
2)限界値:水中の堆積物は相対的に清浄と考えられる濃度。限界値は2000年の目標である。
3)参考値:浚渫投棄がある条件の下でまだ水面投棄に耐えられるか、他の方法で処理すべきかどうかを示す参考レベル。これ以上となると環境リスクから受入れがたい最大許容レベルを示す。
4)調停値:公衆の健康と環境の増加リスクのために、浄化が必要であることを示す前兆的な数値。
5)警告値:重金属にのみ適用。重金属の濃度がこの値以上の場合は、除去の必要から調査すべき濃度レベルである。
この基準に基づく水底土砂の分類は以下のとおりである。重金属量の評価については、対象土砂の分析結果を標準堆積物(有機成分10%と2μm未満の微細堆積物25%を含む堆積物)の値に換算した値を用いることとされている(表1)。判定は含有量の最も多い物質を指標として用いることとし、いかなる指標も調停値や警告値を上回ってはならないとされている。堆積物中の1〜2物質が目標値、限界値あるいは参考値を超えている場合は、最大50%まで許容され、下側のクラスと判定される。ただし、PAH10種の合計値については単独で扱い、基準値を超えたら上側のクラスとする。
[1]目標値以下(クラス0):
現状の知識レベルでは環境へのリスクは無視しうると考えられ、制限なしに陸上散布できる。
[2]目標値を超えるが限界値以下(クラス1):
水中の堆積物は相対的に清浄と考えられる濃度で、土質がひどく損なわれない限り投棄が許される。限界値は2000年の目標。
[3]限界値を超えるが参考値以下(クラス2):
ある条件下で水面投棄に耐えられるか、他の方法で処理すべきかどうかというレベルで、その条件により陸上や海上散布ができる。
[4]参考値を超えるが調停値以下(クラス3):
公衆の健康と環境リスクの増加により浄化が必要とされるレベルで、制御された状態で保管され、保管場所によっては特別な要請がなされる。
[5]調停値以上(クラス4):
周辺への影響を最小化するため、陸上や深い穴に分離して囲い込むことが必要。
オランダからSEBAに対して提案している底質基準(案)は、一覧表のとおりである*6。
*6:国内の現行基準とSEBAに対して提案している基準(案)の調整については出典資料中では触れていないが、基準値を比較すると、基準(案)は現行基準の目標値、限界値あるいは参考値を使用しているとみられる。
○その他
保管、処理及び利用のための陸上代替案が使えず、投棄が海洋環境に多大な被害をもたらさないと判断される場合には、例外的に海洋投棄が許可されることもある。このような要件に対応して、オランダでは、浚渫物中の汚染物質濃度の限界値及び汚染物質総量の限界値に基づく評価システムを開発した。これらの値は、「(限界値を超えなければ)海の生態系に重大な危険をもたらさない値」との想定の下に設定されている。このシステムの履行に当たり、浚渫物の採取地点は小区画に細分され、各区画よりサンプル採取・分析試験が行われる*5。
*5:このシステムについては、ロンドン条約の科学者会合LC/SG 17/2/8にて詳しく報告されている。
また、特に大きな汚染源のない場合、試験が免除される浚渫活動もある。これには、港湾のアプローチ航路や沖合パイプラインに係る浚渫、養浜砂の浚渫計画が該当し、免除の主な理由は「同じ水系で単に底質が移動するだけ」とされている。
表1 オランダにおける重金属濃度及び有機成分含有量の換算式
重金属濃度の修正係数と変換式
ここで、
・N:測定値
・N’:修正値
・organic matter〔有機成分〕(%)=(100−calcining residue〔焼成残溜分〕(%))*0.9
・lute:粒径2μm未満の微細堆積物
・2μm未満の粒子が20%を超えない場合、16μm未満の粒子(%)に0.63(定数)を乗ずる。Fraction(<2μm)=Fraction(<16μm)*0.63
・係数a,b及びcの値は以下のとおり。
|
係数 |
a |
b |
c |
カドミウム |
0.4 |
0.0007 |
0.021 |
クロム |
50 |
2 |
0 |
銅 |
15 |
0.6 |
0.6 |
水銀 |
0.2 |
0.0034 |
0.0017 |
ニッケル |
10 |
1 |
0 |
鉛 |
50 |
1 |
1 |
亜鉛 |
50 |
3 |
1.5 |
砒素 |
15 |
0.4 |
0.4 |
有機微細汚染物質量の変換
ここで、
・N:測定値
・N’:修正値
・10:標準底質への修正係数
・有機成分が2%未満のものは2%として計算
・有機成分の上限は30%
(6)ノルウェー
1)法規制及び監督機関
浚渫物の投棄は、海洋における材料及び物質の投棄と焼却に関する規則により規制されているが、浚渫はさほど多くなく、年間10万トン程度とされている。このため、現在の法的枠組みでは、ケースバイケースを原則に管理されている。
汚染されていない堆積物の浚渫と投棄の管理に係る日常行政権限は国家委員会事務局環境部に与えられ、汚染堆積物に関する評価と許可はノルウェー公害規制監督局が行っている。
2)基準
より均質な評価、また国際的合意の国内法への導入に伴い、ノルウェーでは現在浚渫とその処分に関する新たな規制を準備中である。OSCOM91/1の修正を基本に、一連のガイドラインも準備されている。
新しい規制をより実用的なものにするために提案されている底質基準及び管理基準は、一覧表及び表2に示すとおりである。新しい規制には、サンプリング手順、分析方法及び基礎的情報も含まれる。しかし、本基準は主にモニタリング用に作成されたため、浚渫に適用する場合はさらなる調整・簡素化が必要となるとされている。新しい規則が正式に発効されるまでの間、ノルウェー公害規制監督局(SFT)により、これらの基準が管理の一手段としてテスト運用されることとなっている。
表2 SEBAに提案中の浚渫物管理に係る基準:管理の詳細(ノルウェー)
|
クラス1,2
(清浄/適合) |
クラス3
(貧相(要検討)) |
クラス4
(劣悪) |
クラス5
(強度の汚染) |
クラス5以上 |
浚渫 |
要件無し |
技術的手法・機材の検討が必要(シルトスクリーン、浚渫手段等) |
理想としては浚渫禁止 |
投棄 |
要件なし |
技術的手法の検討が必要 |
技術的手法・機材の検討が必要 |
投棄前に処理、漏洩管理及びモニタリングを伴う陸上処分 |
-地点評価 |
-被覆するか、もしくは投棄禁止 |
-spunting*1 |
-陸上処分 |
-投棄前に処理を実施 |
注)*1.密封?(spuns:「栓をする」という意味)に該当するノルウェー語
2.各クラスの底質基準は一覧表を参照。
(7)スペイン
1)法規制
スペインにおける浚渫物管理の枠組みは、主にオスロ条約及びロンドン条約を履行したものとなっている。
スペインにおいては、公共事業研究・実験センター(CEDEX)がスペイン海洋学研究所と共同で作成した「スペインの港湾からの浚渫物管理に関する勧告」により、浚渫物の評価及び規制等が行われている。この勧告に法的拘束力はないが、近い将来、法律のように拘束力を持つものになることが期待されている。現在、合計してスペインの95%以上の浚渫物を扱っている多くの公共機関(国家港湾公共企業体、農業省漁業食料局漁業総合事務局、公共事業省交通環境局等)にこの勧告が受け入れられている。
2)基準
浚渫物は細粒分(63μm未満)が10%未満の底質は「清浄」と見なされ、国内の行政機関の支援の下に、主に海岸養浜へと有効利用される。10%以上の底質には、物理的及び化学的特性評価が要求される。細菌を用いた生物学的分析が実施されることも時々ある。特性分析の結果の有効期限は2年であり、また、アクションレベル自体も2年ごとに見直される予定となっている。
底質の化学評価に際しては、対象項目毎に以下に示す重み付き平均濃度を算定し、一覧表に示す2つのアクションレベルで評価する。これらのアクションレベルは現在見直し中のため使われていないが、スペインの港湾に適用できるものである。アクションレベルは、スペインの沿岸域で得られたバックグラウンド値を用いて設定している。アクションレベルを設定するにあたり、標準化、生物検定及びバイオアベイラビリティ評価(生物による取込み分の評価)等も実施されている。
浚渫される予定の堆積物は通常2〜3区分に分けられ、それぞれ異なる方法により処理され、区分ごとに重み付き平均濃度を算出する。
C*=(ΣCiPFIMi)/(ΣPFIMi)
ここでCI:分析結果
PFI:細粒分の百分率
Mi:試料iに代表される対象物の重量
この結果に従い、浚渫物の扱いは以下のとおり分類される。
[1]カテゴリーI〔全てのパラメータがアクションレベル1(参考値)以下〕:
海洋投棄が許可され、物理影響のみ注意を要する(一般許可)。
[2]カテゴリーII〔1つ以上のパラメータがアクションレベル1を超え、他はアクションレベル2以下〕:
海洋投棄はできるが、影響を予測しておくとともに監視計画を実施する必要がある(特別許可)。
[3]カテゴリーIII〔1つ以上のパラメータがアクションレベル2以上〕:
海水から隔離され、十分な処理が必要とされる。
(8)イギリス
1)法規制及び監督機関
イギリスにおける浚渫物の海洋投棄は、食料・環境保護法(FEPA、1985年制定)の第II部により管理されている。本法は、浚渫物の廃棄を管理する全体的な枠組みを提供し、国際条約や国内の政策と合致した環境保護を推進するものとされている。浚渫物の投棄には係るが、浚渫行為自体には係らない。
本法に基づき、イングランド及びウェールズでは農業漁業食料省(MAFF)が、スコットランドではスコットランド事務局農業漁業部、北アイルランドでは環境部が浚渫物の海洋投棄に関する監督・認可権を有している。
(注)MAFFの食料・環境保護法に関する担当業務は2001年6月に発足した環境食料地域省(Department of Environment, Food and Rural Affairs : DEFRA)に移行。
2)基準
イギリスではケースバイケースを基本としており、ガイドライン基準は存在しない。場所に応じて特定の分析が実施されるような場合は、オスロ条約のガイドラインに掲げられている特定物質を分析することが多い。非常に汚染された土砂の海洋投棄は許可されない。
1−3 中東諸国
(1)イスラエル
環境省から刊行された海洋汚染と投棄法(1982年制定:地中海汚染に関するバルセロナ条約1980と内容的に合致)の中で、イスラエルにおける浚渫に係る政策が述べられている。部局間委員会が浚渫許可の条件を決めている。
(2)アラブ首長国連邦
現在のところ、国内浚渫政策は存在しないが、将来的には、サウディアラビアが採用した環境ガイドラインに類似した政策が取られるのではといわれている(ドバイ港湾局環境部局談)。
1−4 北米地域
(1)カナダ
環境保護法(1988年制定)により、海洋環境の保全と保護の国内管理当局が規定された。本法の第I部及び第IV部に基づき、海洋環境の質に係るガイドライン(MEQ)を作成することとなっている。
国連環境計画の「モントリオールガイドライン」は、海洋生態系を陸上発生源からの汚染から守るための地球的枠組みを提供するものであり、カナダでは基本的に1985年に採択された。
(2)アメリカ
1)法規制及び監督機関
アメリカにおける浚渫物の管理は、多くの法律や規制により規制が行われている。浚渫物の規制に関しては、主に1972年に制定された海洋保護、調査及び聖域法(Marine Protection, Research, and Sanctuaries Act of 1972: MPRSA)及びその修正法(33 USC1401 等)によっている。本法は、ロンドン条約に基づく基準等をアメリカ国内において履行するものである。
監督責任に関しては、環境保護庁とUS工兵隊が浚渫物の海洋投棄の管理に関する責任を分担し、環境保護庁は海洋投棄場所の認定、US工兵隊は認定された地点までの浚渫物の輸送と投棄に対する責任を持つ(指定投棄場所における実際の投棄には、US港兵隊の許可が必要である)。現場管理計画及び海洋投棄場所の監視計画の実施等のように、両者の責任を合体させたものもある。また、浚渫事業と海洋投棄が提案されたときには、両者が協力して浚渫物、海洋投棄の必要性、影響を制限する防御対策についての評価をすることとなっている。
海洋投棄場所については、MPRSA、並びに環境保護庁の海洋投棄規則に基づく投棄場所選定基準(Ocean Dumping Regulations, 40CFR 228)に合致しなければならない。
2)基準
[1]浚渫物に対する試験及び基準
浚渫物の海洋投棄に対する受け入れ評価については「海洋投棄に対する浚渫物の評価−試験マニュアル」(「グリーンブック」あるいは「海洋試験マニュアル」とも呼ばれる)に記載されている。
「グリーンブック」では、詳細な化学分析よりも、生物試験による生物影響の評価に重点を置いており、マニュアルでは浚渫物投棄海域の水塊と底生生物相への影響を評価するための物理、化学、生物試験を推奨している*7。
*7:この点が、他国、特に化学分析に力点を置くヨーロッパ諸国と異なっているとされる。
投棄しようとする浚渫物が清浄なものであり、海岸養浜に使われるか、あるいは汚染源から遠く離れた地域から浚渫されたものであれば、試験は必要ないとしている。
「グリーンブック」においては、浚渫材料の評価は4段階の試験手続きで構成され、各段階の最後には以下の3つの質問に回答し、より厳格な次段階の手続きに入るか否かの判定を行うこととなっている。
・法規則上の基準に適合しているか?
→適合している場合、追加試験は必要とせず、海洋投棄できる。
・評価は(まだ中途半端であり)結論に達していないのではないか?
→その場合、海洋投棄は支持できない。次の試験を行うべきである。
・管理上の基準に適合しているか?
→適合していない場合、海洋投棄はできない。
各段階における堆積物の判定は、原則として、水の化学特性分析による水質基準(Water Quality Criteria: WQC)との比較、毒性判定及び生物濃縮判定という3つの主要な手法により行われる*8。
*8:WQCは出典資料中には引用なし。
(a)初期試験(堆積物中の汚染懸念物質の化学分析及び海洋WQCとの比較)
初期試験は、水中への投棄影響を評価するため、浚渫物中の対象汚染物質と海洋WQCが比較される。この方法は、水塊中の初期毒性測定として用いられる。対象汚染物質は、投棄場所における歴史的な情報(その海域における排出、従前の試験結果、及び浚渫物の特性を含む)に基づき決定される。
(b)毒性試験
毒性試験は、浚渫物の投棄による水塊及び底生生物への影響の両方を測定するために行われる。毒性試験はバイオアッセイを用いて行われ、初期試験(堆積物の化学分析)に比して、より詳細な水塊への影響の把握調査として位置付けられている。
この試験により、浚渫物からの汚濁物質が水中に溶解・浮遊している状態での生物に対する影響を判定する。また、底生生物環境における浚渫物の毒性評価には、浚渫物が固体状態でのバイオアッセイを行う。
(c)生物濃縮試験
生物濃縮試験は、投棄場所に投棄された浚渫物中の汚染懸念物質が、生物濃縮の過程を通して生物に潜在的に取込まれる量を推定するために実施される。これは、対象堆積物中の生物が含有する汚染物質濃度と、参照堆積物中の生物が含有する汚染物質濃度との統計的比較により判定され、環境保護庁及びUS工兵隊により、投棄場所ごとに、その場所に見合った基準が決定される(この基準設定のためのガイダンスも「グリーンブック」に記載されている)。
[2]投棄場所の指定
MPRSAには、投棄場所に関して、以下の項目を反映する多くの基準が規定されている。
・投棄場所付近の環境への影響
・景観的価値、レクリエーション的価値あるいは経済的価値への影響
・海洋のその他の有効用途への影響(商業的漁業、鉱物の採取等)
第1ステップとして、投棄場所として可能性のある場所をゾーニングする
(Identification of a zone of siting feasibility, ZSF)。この候補地(ZSF)は、環境上、経済上及び論理上投棄場所として指定できる可能性を有する代表的な場所である。通常、ZSFは浚渫場所から同心円状に設定の範囲が設けられ、浚渫場所からの輸送が可能な範囲となる。この範囲内においてさらに詳細な候補地を設定し、候補地に関するより詳細な影響分析を行う。影響分析には、かなりの量の現場資料と実験室データの収集が必要となる。この慎重な投棄場所選定のスクリーニングは、現行の手順において、海洋資源及び人の健康の保護のために設計された過程の一側面に過ぎない。
1−5 大洋州地域
(1)オーストラリア
1)法規制及び監督機関
浚渫と浚渫物の投棄に関する責任はオーストラリア連邦政府と個々の州及び北部地域政府に分割されており、浚渫事業に係る制約は州ごとに異なる。ただし、浚渫物が州海域の限界を超えて投棄されるような場合には、連邦政府が関与する。
浚渫物の海洋投棄及び投棄を目的とした上荷は、連邦政府の環境保護庁により、環境保護法(1981年制定)及びその規則事項に基づき管理されている。本法は、ロンドン条約及びSPREP条約(南太平洋地域環境保護条約)をオーストラリア国内で履行するものである。浚渫行為自体は本法の適用外であり、すなわち連邦政府の管轄外となっているが、各州及び北部地域が自州の領域内(3マイル以内での近隣水域)の浚渫事業を管理する体制となっている。州海域の範囲を超えて「オーストラリア水域」に投棄される場合は、連邦政府の管轄となる。環境保護法に基づき、浚渫物も含めた資材の海洋投棄には、資材と投棄される量、投棄場所、制御及び監視の必要性の判断が適切であるかどうかによって許可が下されることとなっている。
近年、法の施行と海洋投棄に対する適正場所の選定を簡単にするためのガイドラインが作成されつつあるが、実際の個別ケースは現地固有の事情を伴うことが認識されており、(現時点で既に各州によって規制も異なることから)一般化はできないのでは、と考えられている。
(2)ニュージーランド
1)法規制及び監督機関
ニュージーランドにおいては、現在、投棄許可システムに係る法規制の再編成が行われている。
海洋汚染法(1974年制定)では、12マイル内外とも投棄には許可手続きが必要としていたが、近年この法律は廃止され、12マイル外の投棄に対して新たな手続きが適用されようとしている。投棄許可の申請手順は、海上交通法(1994年制定)に基づいて組立てられることとなる。この手続きに対する要請やガイドラインの作成はまだ進展していないが、オーストラリアに考案されたものにならうと考えられている。
資源管理法(1991年制定)に基づき、環境省により作成された新たな規制が、上記の手続きと同時期に発効する見込みである。規制の発効により、地域委員会が12マイル以内の浚渫活動を全て管理することとなる。12マイル以遠の規制及び12マイル以内の規制は、環境影響と監視の必要性を考慮した上で互いにかなり一致したものとなっており、全ての投棄がロンドン条約の要件を履行することを確実にしている。
1−6 アフリカ
(1)南アフリカ
1)法規制及び監督機関
南アフリカは1972年のロンドン条約の締約国であり、これは国内法では1980年の海洋投棄管理条項73(1982年発効)により履行され、地域の規制に組込まれている。
浚渫活動に係る法令としては、以下の2体系が挙げられる。
?浚渫活動:1935年の海岸法21、1988年の海洋漁業法、1989年の南アフリカ運輸サービス法9
?浚渫物の投棄:1980年の海洋投棄制御法73
海岸法の実施は州政府に、海洋漁業法及び海洋投棄制御法は環境業務・施行部に、また南アフリカ運輸サービス法は公共事業部により監督されている。
現在、浚渫物の投棄と投棄場所の選定を含めた浚渫物管理のためのガイドラインを作成中であり、許可に対して「アクションレベル」と「禁止レベル」を使用することを提案している。