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(3) ISO9001規格の本質
 1987年の初版以来、ISO9001等の外部保証規格におけるその序文の説明書きにおいて、以下a.からe.の内容が記述されている。(a.〜d.の表現は編者側が加筆)
a.「組織における品質マネジメントシステムの設計及び実現は、変化するニーズ、固有の目標、提供する製品、用いられるプロセス、組織の規模及び構造によって影響を受ける。」(規格1ページ12行後半〜14行前半)
 個々の企業内においてマネジメントシステムを構築する場合の前提条件が記載されている。従って、これらの環境条件を前提にした中で、マネジメントシステムを構築する結果として、その内容はどのようなものになるであろうか?
 上記規格の文章は、当該企業を取り巻く環境条件が、その取り扱う「事業」「技術」「モノ」といったものと、それらを設定したり遂行する「人」とによって"影響を受ける"ことを意味しているのであり、その先を読み取ると、それらの環境条件は企業毎によって異なり、構築する各介業のQ MSは「唯一無二」になってしまうものであると規格制定者達は理解していたものと考えられる。それは、各企業において「事業」「技術」「モノ」そして特に「人」という構成要素において、それらがどの企業も同じであるなど有り得ないからであろう。
b.品質マネジメントシステムの構造の均一化又は文書の画一化が、この規格の意図ではない。」(規格1ページ14行後半〜15行末尾)
 “均一化”及び“画一化”を求める「規格」というものにおいては、全くの“矛盾”や“逆説”を孕んだ内容と言って良いだろう。しかし、ここで敢えて言及しているのは、上記a.の理由であり、以下c.を満足させることも意図しているものと考察される。
c.「この規格の要求事項は汎用性があり、業種、及び形態、規模、並びに提供する製品を問わず、あらゆる組識に適用できることを意図している。」(規格3ページ34行〜35行)
 “マネジメント”というものに対する、この規格の高邁かつ意欲的な考え方を提示した内容であると言っても良いだろう。“マネジメント”における様々な環境条件の差異を吸収した本質的かつ包括的なシステム上の要素を体系化しようとする行為に他ならない。
 a.で解説した通り、各企業のマネジメントシステムは、結果的には唯一無二なってしまうものであり、規格というものの本質である“均一化”や“画一化”には相容れないものである。しかし、この規格ではこの矛盾に挑んでいる。どのようにその矛盾に対処しようとしたのだろうか?それは、QMSの「本質」的な重要要素のうち、更に表現上抽象化できるものを抽出し、それらを体系化していくことで対処したものと思われる。具体的に記述すると、個々の企業で適用ができないため、抽象的な規定を体系化していったのであるが、それ故、この規格そのものを理解しようとすると、難解になってしまったのである。ある意味では、あらゆる社会上の行為に対処しようとして抽象化していき、難解になっていった法律にも通じるものがある。但し、法律と表現上異なるのは、専門的な用語設定を基本にするのではなく、一般的な企業において行われている内容表現を少なくとも使おうとしている点が評価できると言えよう。また、その内容範囲は、すべての業務要素がある内容となっているため、場合によっては適用させる必要のない業務も規格には存在する可能性も出てくる。そこで、以下d.のような規定が存在するのである。
d.「組織やその製品の性質によって、この規格の要求事項のいずれかが適用不可能な場合には、その要求事項の除外を考慮してもよい、」(規格3ページ34行〜35行)
 必要に応じて、規格の適用を実態に合わせて良いという規定である。
 以上の内容は、初版以来一貫した規格の基本方針であるが、2000年改訂において、以前に増して「マネジメント」に対するアプローチが一層進んだ。そのひとつが、ISO9001規格に前提となるISO9000規格において、「品質マネジメントの原則」というマネジメント基礎要素を提示し、また、当該システムの「プロセスモデル」も提示されたが、残念ながら、これらは上記ほど秀逸な内容ではなく、むしろ、その未成熟さから、その適用に問題を生じさせてしまうような危うさも今回含んでしまったのでもある。
品質マネジメントの原則
[1]顧客志向 組織は顧客に依存。それゆえ現在及び将来の顧客ニーズを理解し顧客要求事項をを満たし、顧客の期待を超越すべく努めるべき。
[2]リーダーシップ リーダーは組織の目的、報告及び内部環境を1つにまとめ、内部関係者が組織目標を達成するための環境を創り出すべき。
[3]全員参加 全階層の全内部構成要員全ての重要性を認知し、それらの全面的な参加によって組織の便益が最大化するものと認知すべき。
[4]プロセスアプローチ 経営資源及び活動が一体化したプロセスとさせるべき。
[5]システムアプローチ 所与の目標に対する相互に関係付けられたプロセスからなるシステムを明確にし、理解し、運用すべき。
[6]継続的改善 組織の永遠の目標は継続的改善であると認知すべき。
[7]事実アプローチ データ・情報に対する論理的・客観的な分析を心掛けるべき。
[8]供給者との互恵関係 組織と供給者との価値創造はその互恵関係にあると認知すべき。
 各項目の内容は、日本のQC活動やTQC(M)そしてカイゼンなどで言及された内容が盛り沢山規定されたものであり、それはそれで結構なのだが、どうであろう。これらは、個別要素の羅列でしかない。日本の各企業はこれらの整合や全体最適化が難解で苦労しているのであって、今さらこれらを日本の企業で羅列されて聞かされても、ということもあるかもしれない。
 また、何よりもこれらの羅列においても、その概念の捉え方、概念範囲の設定の考え方、そしてそれら特定要素中の概念と範囲との整合性においても、上手く調整や解決が図られているとは言い難く、疑問符が付くような設定の仕方であると言わざるを得ない。それ故、JIS版(JISQ 9001)の解説にも、上記原則がISO9001規格にどのように反映しているか分からないと言及もされてしまっているのである。次に、「プロセスモデル」を記載し、解説しよう。
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プロセスを基礎としたQMSのモデル
 上記のモデルで問題になるのは、2000年版における「経営者の責任」「資源の運用管理」「製品実現」及び「測定、分析及び改善」の4項目に大別し連関させたことである。特に「測定、分析及び改善」は、「経営者の責任」及び「資源の運用管理」といったシステム全体に関係する包括的管理要素と、「製品実現」といった現業的な管理要素との区分は上手く図られておらず、構築時にやり辛さを感じる可能性もあるだろう。
 今回のISO9001の2000年版は、「マネジメント」に更に深更していこうとする姿勢は評価できる。だが、その熟成はまだ不十分であるため、システム構築に際しては、それら影響を排除するようにしなければならないであろう。(このガイドにはそれら影響を最大限排除する方針で構成されている。)ISO9001:2000規格における、優れている点と勇み足とも言うべき不十分な点の双方を解説したが、前頁で示したこの規格の根底の考え方の秀逸さや、現業主体のサプライマネジメントに関するモデルの提示といった内容は、少しも色褪せることなく、企業経営改善に貢献していくものと言えよう。








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