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(別掲)第47回全国里親大会
〈行政説明〉
厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 家庭福祉課長 中村 吉夫
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 ただいまご紹介を頂きました中村でございます。皆様方におかれましては、常日頃実際にお子さんを育てて頂いていたり、里親制度について適切な運用をする、あるいは拡充をしていくという面で多大のお世話になっていることを、まず御礼を申し上げたいと思います。
 今日は里親について行政上今何を考えているかという点についていくつかお話をしてみたいと思います。
 先程来の皆様方のお話にもありましたように、子どもと家庭をめぐる環境は大きく変わってきています。一つは少子化が急速に進んでいるということであります。
 平成12年の出生数は119万人位、合計特殊生率は1.35ということで、通常人口規模を維持するためには2.08位の数字でなければならないと言われておりますけれども、大変低い数字になってきています。総人口に占める子どもの割合も、児童福祉法が制定された50年前では約4割であったわけですが、現在では約2割に減少しており、大変心配される向きが多くなっています。
 それから、二点目は家庭や地域における子育ての機能が低下をしているということです。人口の少子高齢化、あるいは就業構造が変化している、それから人口が都市に集中して、一方で過疎が起こっているというようなことで、家族の姿も大変大きく様変わりをしています。世帯の規模が非常に小さくなっており、現在では2.9位の人数で一つの世帯ということになっております。従来ですと、子育て、あるいは高齢者の介護の問題ということは家庭の中で解決されてきたわけでありますが、こういう状況になりますとそれを維持していくことは大変難しくなっております。また、地域社会も社会の変動の中で近隣とのつながりが希薄化しているというようなこともありまして、地域の子育て機能も低下をしてます。そういう意味で言いますと、子育て機能を社会サービスとして提供していく、保育の事業等もそうですけれども、そういうことが重要になってきています。
 また三点目として、子育てと仕事の両立ということが求められています。女性が就業される機会が非常に多くなっており、男性と女性がそれぞれの能力と個性を生かしながら仕事と家庭生活の両立が図っていけるような男女共同参画型の社会を作っていくということが非常に重要になってきております。従来子育てというのは、家族の中でも特に女性の方が担っておられることが多かったわけですけれども、女性の方の就労が進むということは、子育てについて、先程申し上げました社会的なサービスをより一層充実させていくことが必要になると思っております。少なくなった子どもをきちんと育てていくことが大変重要であると思うわけですが、そのために、子育てについての社会サービスを官民あげて、あるいは国、地方あげて取り組んでいるのが現状であろうかと思います。
 しかし、残念ながら、子どもに対する虐待が大きな社会問題になっています。児童が死亡するというような大変悲惨な事件発生しており、マスコミでも大きく取り上げられています。昨年の11月からは児童虐待防止法が施行されていますけれども、私どもが行政施策として担当している養護を必要とする児童の中にも虐待を受けたお子さんのウェートが増加をしているような状況であります。そうした中で児童の健全な発達については、衣食住の提供のみならず濃密な人間関係を結べる環境が非常に重要であろうと思います。とりわけ乳幼児期における愛着関係の形成が極めて重要でありますので、できる限り家庭的な環境の中で養育されることが大変重要なことであろうと思っています。里親制度は非常にアットホームな環境の中でお子さんを育てて頂く制度でありまして、特に児童虐待等、児童を取り巻く問題が深刻化・多様化する中でこうした家庭での適切な養育に欠ける児童を温かい愛情と理解を持った家庭の中で養育していく里親制度に対する期待というものが非常に高まっているように思います。
 次に里親制度の現状について申し述べてみたいと思います。里親制度については皆さんよくご存じの通りでありまして、児童福祉法上は保護者のいない児童あるいは保護者に監護させることが不適当であると認められるお子さんを養育することを希望される方に、都道府県知事が適当だということで登録して頂いて、そうした方と児童養護施設あるいは乳児院におられるお子さん、あるいは家庭から直接というケースもあるかもしれませんが、うまくマッチングができれば実際に養育をして頂くというものです。
 里親については、従来もっぱら児童の養育を目的として頂くいわゆる養育里親と、あるいは養子縁組を目的としたいわゆる養子里親にわけて理解をされることが多いわけでありますけれども、養育里親については児童が自立する18歳ないし高校卒業するまでの間、あるいは親元に帰るまでの一定期間を養育をして頂くというものであります。従来わが国においては、多くの里親さんが将来お子さんを養子にしたいということでご希望されることが多かったように思いますけれども、考え方としては、いわゆる養育里親とそれから養子縁組を前提に考えた里親の仕組みと二つがあるように思います。
 養子縁組については、民法上の手続きで家庭裁判所に申立てを行なって、許可を得ることで成立するということで、昭和63年からは特別養子制度が導入されたこともあって、低年齢で養子縁組が行われるケースも増加しているように聞いております。養子縁組が行われますと、児童福祉法上は里親でなくなるとこういうような仕掛けになっております。
 里親制度については、先程申し上げたように児童の健全育成を進める上で大変有意義な制度であると思っておりますし、児童福祉施設と並んで大変重要な柱になっていると思います。ところが昨年の3月の時点でみると、児童養護施設でお世話をしているお子さんの数が29,398人、乳児院でお世話をしているお子さんの数が2,896人、それから里親さんのもとで育てられているお子さんの数が2,122人ということで、これが要保護の児童と考えてみますと、里親さんのもとで育てられているお子さんの割合が6.2%になっています。この割合については、これまでもつとに指摘されているように、諸外国に比べて施設の割合が非常に高いということであります。
 しかも現状においては、里親の登録数、それから委託をされているお子さんの数も年々減少をしているところであります。先程のお話にもありましたように、里親希望の方の登録数が昨年の3月末で7,446名、実際に委託されているお子さんが2,122名、それから複数お子さんを育てているケースもありますので、実際にお子さんを育てておられる里親さんの数が1,687名ということでありますので、先程の7,446名に対しては22.7%の割合にとどまっている状況であります。
 それから里親さんへの委託の状況は、都道府県ごとに非常に大きな格差があります。指定都市分も含めまして、都道府県ごとに委託されている児童の状況をみると、北海道、埼玉、東京、神奈川の4都道県は100人を超えている一方で、一桁台つまり一人であるとか数人という県が9つもあります。人口規模が違うので一概に比較はできませんが、少ない県には里親の制度の普及についてもう少し取組みを強化をして頂きたいと考えております。
 里親が普及しにくいということについては、いろいろな理由が指摘をされています。大きな理由として、やはり里親を希望する国民の皆さんが少ないということもありますし、一方で昨今は両親がそろっているお子さんが要保護となるケースも多いわけですが、預ける親の側も他の家庭に預けることを望まないケースもあります。また、都市部では住宅事情のようなものもあるかもしれません。いろいろな理由があろうかと思います。
 そういう中で私どもとしては、里親制度を普及拡大をしていくためにこれまで次のような施策を講じています。
 一つは、やはり何と言ってもよく制度を知ってもらうことが必要ではないかなと思います。10月は里親月間ということで里親制度のPRをしていますけれども、本大会も里親制度を皆さん方に知ってもらう機会になればよいと思っています。最近では里親の問題についてマスコミで採り上げられる機会も増えていますし、また岩波ブックレットでも里親の問題について採り上げられました。そのようなこともありまして、私どもとしては、里親の問題について皆さん方により一層考えて頂く機会を持てるようにしたらと思っています。重要なことは、そうしたPRと併せてつね日頃の地道な取組みをきちんとしていくということが重要であると思っています。
 二点目は、お子さんをきちんと養育していくためには、親御さんがお子さんを育てていく上での技術というと語弊がありますけれども、いろいろノウハウもあるし、そうしたことを身につけていただくことも重要かなと思っております。子育てにあたっては大変ご苦労も多いと思います。実際に里親をされている方々からお話を聞く機会も何度もありますし、またいろいろ書物になった物を読ませて頂くこともありますが、様々なトラブルを乗り越えて皆さんよくがんばっておられるなと思います。本当に頭の下がる思いで一杯であります。こうしたご苦労をできるだけ上手に克服して頂くためにも、研修あるいは次にお話しする里親の皆さん方に対する相談の機会を設けることが重要なのではないかなと思います。研修については、昭和63年度から家庭養育推進事業ということで行っていますけれども、来年度には事業を拡充して、里親研修ということで、初歩の段階、それから上級者の段階というようなことで、それぞれの状況に応じた仕組みにできたらとよいと思っています。
 次に、里親の皆さんが、大変苦労されている場合に相談に応じる体制を整えていくことも重要であると思っています。平成11年度から子育て支援基金のお金で「里親養育電話相談モデル事業」を全国里親会で実施されています。11年度と12年度の事業結果が「相談事例集」にまとめられており、私も読ませて頂きました。本当に皆さん悩みをいろいろ抱えて苦労されているなということが分かりますが、相談をすることでそうした悩みを共有できるとよいと思います。14年度の概算要求では、児童の養育の問題、あるいはご自身の悩みを相談できるような養育相談事業を都道府県の事業として実施してもらうことを考えています。併せて、1年365日ずっと子育ての問題に悩むというのも大変でありますので、心身のリフレッシュのために、レスパイト事業、これは休息のことですけれども、そうしたことを事業化できないかなということを検討しています。
 それから、もう一点は平成10年度の児童福祉施設の最低基準の改正により、児童養護施設等の施設長に家庭環境の調整の役割が追加され、父母が死亡した児童あるいは父母が長期にわたって行方不明であるなどの児童については、児童相談所に対して、親族家庭への引取り、あるいは里親委託への措置の検討を求めるように努めなさいということを指導しています。児童養護施設、乳児院についてこうした規定にのっとって、里親制度に理解を深めて頂いて里親のもとでの生活ができる児童が増えるようにしていきたいと思っています。いずれにしましても、私どもは里親さんの人数が増えて、実際に委託をされる児童が増えていくためにはまだまだ数段の努力をしていくことが必要であると思っています。
 次に里親制度をめぐる議論について、最近の状況を振り返ってみたいと思います。里親制度は、先程もお話があったように児童福祉法の制定とともに制度的に位置付けられ、戦前は家庭に恵まれない児童を民間篤志家が個人的に養育していたものが公的な養育制度に位置付けられました。そしてその際に「里親等養育運営要綱」が制定されました。この要綱は、昭和62年に、里親は特別な篤志家という考え方を改めて、普通の人を立派に育てていくという理念に変えて、大幅に改定されて現在に至っています。そして、平成9年に、一つは保育制度の見直しなど子育てしやすい環境の整備を進めるということと、もう一つは児童が自立した人間として成長をすることを支援するための環境を整えるという二つの大きな目標にたって児童幅祉法が改正をされ、平成10年から施行されています。その際の基本的な考え方が平成8年の12月に「中央児童福祉審議会の基本問題部会から提出されています。その際にも里親制度をどう考えたらよいかということが議論になったわけでありますけれども、その時点では「児童の年齢や家庭環境などその態様を踏まえ、その児童にとって最善の処遇を確保するという観点に立って、現行制度の適切な見直しを図るとともに、運用の実態等を十分踏まえたうえで、里親制度のあり方について今後検討を行うことが必要である」ということで、今後の検討の一つの柱というかたちに位置付けられたわけであります。
 それを受けるかたちで平成9年度には厚生科学研究で上智大学の網野武博教授を主任研究者として「里親制度のあり方に関する研究」が行われています。この研究は二つの大きな柱なっています。一つは児童相談所を対象にした行政調査であり、もう一つは関東地区の養護施設を対象にした事例調査です。その結果をみると、次のようにまとめられるかと思います。一つは里親への委託効果が上がって順調に解除している事例の割合が非常に高かったということです。効果が上がった場合には養子縁組に移行しているし、効果があまり見られないという場合には措置変更というパターンになっています。それからもう一つは、養育里親と養子里親が一体となっている現行制度では純粋に福祉的観点から里親制度を推進することには限界があり、今後里親制度と養子縁組制度を明確に分離する方向について、十分議論する必要があるということです。
 それから三点目と致しまして、今後改正や検討を加えるべきものとして里親の上限年齢の設定であるとか、あるいは里親委託の満20歳までの延長について積極的な見解が見られる一方、その他の検討事項については慎重な議論が必要であるということです。ただし、これから述べる専門里親については、必要もしくは必要だけれども課題があると回答されたケースが全体の80%となっています。また、平成11年の9月には全国里親会の里親推進事業検討会から「里親事業推進のための提言」が公表されています。その提言の中では、里親制度あるいは里親委託のあり方については長期里親それから短期里親という従来の枠組みに加えて、専門里親、ファミリー里親、保育里親など多種多様な里親による家庭的ケアを拡充すべきであるという提言がされております。
 そういう一方で、先程お話したように児童福祉法が改正になったり、あるいは先程全社協の常務理事さんからのお話があったように、社会福祉の基礎構造改革が進む中で、児童養護施設あるいは乳児院に苦情処理の仕組みが導入されたり、第三者による評価の仕組が作られるような動きが進んでいます。里親の仕組みについても、公的児童養護の一翼を担うサービスでありますから、こうした問題にどのように取り組んでいくかということが一つの課題になっていると認識をしています。
 そこで、専門里親の検討について申し上げてみたいと思います。これまでの里親制度をめぐる議論を振り返ってみましたが、現在虐待されたお子さんの養護に里親さんにがんばってもらえないかということを検討しています。そして、先程局長が申し上げましたように概算要求の中で専門里親、この名称はあくまで仮置きでありまして、もっと適切な名前があればそうしたいと思っていますけれども、そうした枠組みを要求をしているところであります。
 そこで、児童虐待の問題の現況について若干ご報告をさせて頂きます。平成12年度に全国の児童相談所で受けた虐待の相談件数は1万8,804件で、平成5年度の件数は1,611件、これは処理まで行った数字で単純には比較できませんが、約12倍に増えています。前年度と比較しても62%増加しています。虐待の中身は、身体的虐待、ネグレクト(保護の怠慢とか拒否とかいうことです)性的虐待、心理的虐待の四つに分類されています。身体的虐待が半分位の49.7%、ネグレクトが36.5%、性的虐待が3.7%、それから心理的虐待が10.1%というような状況になっています。虐待を行っているのは母親か6割、父親が3割という状況になっています。
 それから虐待を受けたお子さんの年齢構成をみると、0歳から学校に上がるまでの乳幼児が約5割、それから小学生が35%ということで年齢の低いお子さんが多くなっています。虐待の問題については、先程申し上げたように昨年11月に法律ができていますので、それに基づき、発生を予防する、できるだけ早く発見をして早期に対応をする、それからその後のケアを適切に行うということを原則として対策を進めています。実は最後のケアの部分が大変難しいわけであります。お子さんの健全な発達においては、乳幼児期の愛着関係の形成が極めて重要であることは先程申し上げましたが、虐待を受けたお子さんは心に非常に大きな傷を負っており、安心感の形成が欠如している、子どもらしい感情表現が難しい、それから何よりもこれが大きいと思うのですが、他の方との信頼関係の構築が非常に困難になっています。本来愛情を持って育てられなければいけない時期に、むしろ逆に信頼すべき親御さんから心の傷を受けてしまったということであります。こうしたお子さんについては心の傷を癒すと同時に人間に対する信頼感、基本的信頼感を作り上げていくことが非常に重要ですが、この点が非常に難しいことであります。施設においても皆さん大変苦労をされていますし、また里親さんとしてこうしたケースのお子さんを育てておられる方は、大変苦労されているのではないかなと思います。こうした問題に対応するために、私どもは虐待の問題あるいは思春期のお子さんの心理的な問題も含めて、こうしたケアに携わる人の研修、研究、さらには情報を集めるためのセンターを横浜市のいずみ学園に作る準備を進めているところであります。
 そこで、専門里親の仕組みではケアの難しいお子さんをできるだけ家庭での濃密なスキンシップの中で、ある程度そういうお子さんを育てる技術を備えた方に一定の期間、例えば二年位ということを考えていますけれども、そうした方に養育をして頂き、施設の中ではなかなか難しい家庭的な援助をして頂き、できるだけ早期に家庭復帰ができるようにしようとするものであります。短い期間の中で専門性のあるケアをして頂こうということでありますから、従来のプログラムとは違ったプログラムを考えなければいけないと思っています。
 具体的な仕組みとして、専門里親さんになってもらうためにはどういう要件が必要なのか、研修の中身をどうするのか、さらには相談とか、レスパイトケアという支援の仕組みも大変重要だと思いますがそういう点についてもまだまだ検討をしなければならないことが多々残っていると思います。このため13年度の子育て基金の援助を受けて、全国里親会で「専門里親モデル実施調査研究事業」を現在実施していただいています。検討会の座長は庄司青山学院大学教授にお願いしています。できるだけ枠組みを早く決めて具体的な取組みをしていきたいと思っています。
 それから14年度の概算要求については先程いくつかコメントを致しましたが、専門里親についても若干申し上げてみたいと思います。従来里親さんの研修は家庭養育推進事業として行ってきましたが、研修内容を基礎研修と応用研修に組立て直して充実を図るとともに、名称自身を「里親研修」としたいと思っています。里親さんが委託を受けた児童の養育あるいは自分自身の悩みについて相談ができる養育相談事業を実施したいと思っています。これについては、都道府県の現場では県庁自身、あるいは児童相談所の中で中核的な児童相談所が実施するとか、やり方はいろいろあると思いますが、できるだけきちんとした体制を作って頂くように働きかけていきたいと思っています。また待機しておられる里親さんがいると思いますが、こうした待機をしておられる里親さんも、できるだけ地域の中で子育ての問題について関わり合いを持って頂こうと思っています。軽度な虐待を受けた経験のあるお子さんを抱えているような家庭に、訪問などによる育児相談あるいは支援を行う家庭訪問支援事業を行う家庭支援員という仕組みを作ろうと思っています。そういう支援員として児童福祉に従事したOBの方とともに待機しておられる里親さんにも強く期待しています。
 以上最近の取組みについてお話を致しましたが、先程お話がありましたように、里親会から9月17日付けで大臣宛てに要望書を頂いていますので、これまでの話でもう触れたのもいくつかありますけれども、すべての項目について簡単にコメントをさせて頂きます。大会資料の17頁に要望書が出ていますので、それを見ながらお聞き頂ければよいと思います。
 一点目ですが、「児童福祉法における里親についての規定を一条文として整備し、里親としての権利及び義務等を明確に規定されたいこと。」という要望であります。私は何度もいろいろな法律改正に携わりました。そういう中で感じることは、制度は時代の要請に応じて改正されるということです。改正の必要性がまずあり、事態を論理的に整理をした上で制度が変っていくこととを実感しています。その意味では、先程お話した専門里親の提案は、単に専門里親の話にとどまらず里親制度全体を考える機会になると思っています。先程申し上げました認定する仕組みであるとか、研修の枠組みであるとか、そうしたものを考える中で従来の里親の制度とうまく整合をとっていくためには、ご要望の点についてもあわせて真剣に議論した上で制度的な位置付け、整合性のある取組みをしていくことが必要なのではないかなと思っています。なお、児童虐待防止法は昨年の11月から施行されていますが、三年後に見直しを行うという条項が附則についています。その機会には、もし専門里親について制度化が進み、実態がある程度できていれば、そうした実態の進み具合も見ながらきちんと法令的な手当をすることが必要なのかなと思っています。
 それから二点目は、「里親の開拓について積極的に努力されるとともに、未委託里親への委託促進を強力に進められたいこと。また短期里親制度の推進、障害児の里親受託の推進、ファミリー・グループ・ホームの制度化を図られたいこと。」という要望であります。里親さんをできるだけ開拓をしていくことが重要であることはおっしゃる通りでありまして、現状それから今後の努力の必要件については先程述べた通りであります。私どもとしてもがんばっていきたいと思っています。それから短期里親は、昭和49年から実施をしていますが、普及の努力が必要という点では里親全体の問題と同じであると思います。国会議員の先生と話していますと、ホームステイのようにもう少し気楽なかたちの里親の枠組みがあってもいいのではないかというご意見もあります。それから保育との接点の中で考えてみるというようなことも必要です。先程申し上げたように専門里親制度を提案したことは、里親制度全体の議論を進める大きなきっかけとなると思いますので、短期里親の問題についてもあわせて考えていけたらと思います。障害児を対象とする里親制度、それからファミリーグループホーム等もそういう中で考えていく検討課題かなと思っています。ちなみに、児童養護施設につきましても、従来の大きな施設の他に地域の中でグループホームのように小さなブランチを作って、できるだけ家庭的な雰囲気でお子さんをケアしていく取組みも行っています。私どもとしては先程松尾専務理事が言われたように、問題を抱えるお子さんを地域の中で養護していく課題について、地域の中にある資源をできるだけ有効に機能させて、施設と里親さんが有機的に連携しながら対応する考え方を基本にして進めていくのがいいのではないかなというふうに思っています。
 それから三点目の「里親手当を児童養護施設に対する事務費を勘案して引き上げられたいこと。」という要望でありますが、里親手当については平成14年度の概算要求では実費弁償をするという従来の考え方に基き千円アップの月額2万9干円で要求をしているところです。この問題については里親制度そのものをどういう位置付けで考えるかということと密接に関連しています。専門里親の手当の議論においては、ボランティアを枠組みした今の早親の仕組みを一歩変えたかたちで専門里親を位置づけることを考えていますが、そういう議論の中で現在の里親さんの手当についても議論になると思います。現在は従来の考え方を躊躇した実費弁償ということで要求をしているところであります。
 それから四点目は、「里親業務体制の強化を図るために、全ての児童相談所に専任の児童福祉司を置くように措置されたいこと。」という要望であります。これについては、現状の抱えている問題については先程の厚生科学研究の中に出ていますが、児童相談所の現状をみると難しいと思っています。現状においては、要保護児童の問題全体を取り扱う中で対応してもらうのが良いのではないかと思っています。ただ、いずれにしましても児童福祉司に里親について理解を深めてもらうことがまず必要ではないかと思っています。先程申し上げたように、委託されているお子さんの数が一桁という県が九つもありますので、そうした県を中心にして、児童相談所に里親制度について理解して頂く作業がまず第一歩であると思っています。その意味で来年度の予算で養育相談事業を県で実施して頂こうという要求をしていますけれども、そういうものをきっかけにして、里親の制度についての行政に携わっている者の認識も改めていけたらよいと思っています。
 それから五番目は、専門里親制度の創設であります。これについては14年度の概算要求で要求していますので、実現できるように努力して参りたいと思っています。皆さん方のご支援をお願いいたします。
 それから六点目の「就職に必要な資格取得のために就学中の里子については、18歳を超えても就学終了時まで公費負担を継続されたい。」という要望でありますが、現在の仕組みにおいては高校卒業までは認めていますが、その後の資格取得までは認められていないという状況にあります。これは施設に入所されてる場合も同じであります。どこまで対応すべきかということについては、世の中の状況にもよろうかと思います。高校まで対応するようになりましたのは昭和48年からです。それまでは義務教育まで対応するということであったわけです。このことは全体の就学状況もみながら今後の問題として議論をしていくべきことかなと思っています。現状では、大学あるいは専修学校等につきましては奨学金で対応して頂きたいと思っております。
 それから七点目は、「地域における子育て支援活動の方途として里親制度を活用されたいこと。」という要望であります。先程申し上げたように家庭訪問支援事業の中で待機している里親さんに働いて頂くことも検討していますので、よろしくお願い致します。
 それから八点目の「青少年里子の組織化及びその活動の一層の支援をされたいこと。」という要望でありますが、平成11年度から子育て支援基金を使って全国里親会で「全国青少年里子連合創設支援モデル」という事業が行われています。13年度で3ヶ年になるのでその後どうするかという点については、成果をみた上で社会福祉・医療事業団とも相談しながら決めていきたいと思っています。
 それから九点目の国及び都道府県・指定都市は、全国里親会、地方里親会の活動を促進するための助成を行われたいこと。」という要望でありますが、平成13年度には資料にも出ていますが、里親推進事業として2,297万7千円を予算計上をしています。里親制度の普及あるいは短期里親の開拓さらには未委託の里親さんへの事業等、有効に使って頂きたいと思っています。財政状況が大変厳しい中で、施設の効果が常に問われています。どうか大切な国民の税金をもとにしたお金でありますので、有効に使って頂きたいと思っています。
 縷縷お話をさせて頂きましたが、今年は21世紀になった最初の年であります。わが国は経済的に非常に苦しい状況にあります。私、家庭福祉課に来る前は年金の積立金の運用を三年間やっていましたが、日本の経済が深刻な状況にあることを痛感している者の一人であります。そういう厳しい経済環境の中にありますが、次世代を担う子ども達をきちんと育てていくことは、それだからこそ重要であると思っています。学生時代にドイツ文学を勉強しましたが、ドイツ文学では教養小説と申しまして一人の人間がいろいろな困難に遭いながら、それを克服して立派な人間になっていく過程を描く小説が一つの特徴となっています。そんな経験からそれぞれの時期に全力を尽くしながら生きていくことが一人の人間を育てていくことの根本かなと思っています。理想的な人間というのはそれぞれの時代で違っております。騎士の時代は騎士の時代で立派な騎士像があり、市民社会では立派な市民が小説に出てくるわけです。それぞれの時代の中で立派なお子さんを育てていくことが重要でありますし、また親自身もそういう中で成長していくということを子育てを通じて実感しています。どうか大変苦しい時期、難しいこともあろうかと思いますけれども、一方で子どもが少しでも成長しますと親としては大変うれしいものであります。これは人の親として実感をしているところであります。どうか皆さん方も苦しいことはあるけれども、一方で喜びもありますので、自信と誇りを持って新しい21世紀を担っていく子ども達を育てて頂きたいということを最後にお願いして行政報告を終わらせて頂きます。どうもありがとうございました。








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