3.4 210Pbによる年代測定
3.4.1 年代測定の概要
地核中に含まれる238U(ウラン−238)から放射壊変で生成される222Rn(ラドン−222)は、気体であるため大気中に拡散する。大気中の222Rnの大部分は壊変して210Pb(鉛−210)となり、エアロゾルとして降水に取り込まれる。降水となり湖水や海水に流入した210Pbは、水中の226Ra(ラジウム−226)から生成される210Pbとともに水中の懸濁粒子に吸着され、水中の懸濁粒子は水底に堆積する。210Pb及び懸濁粒子の底泥表面への堆積速度が一定で、かつ堆積後移動しなければ、その底泥が表面にあった時期を210Pbの濃度を測定することにより求めることが出来る。堆積物は、つぎつぎと上に堆積する堆積物の重さのため、堆積物中の間隙水が絞り出されて圧縮される。圧縮されると、同じ厚みでも含まれる粒子の量が異なることから、含水率で補正を行い、各層の堆積年代を算定する。年代測定の原理及び含水率による補正の考え方を図−3.3に示す。
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図−3.3(1) 年代測定の原理
[1][2]は同じ厚みでも中に含まれる土粒子の量が異なる→含水率で補正
ある底泥サンプルの深さ方向210Pbの強さ測定結果
10cm層から採取した[2]は210Pbがほぼ半分となっているので、半減相当(22.3年)前のものといえるが、実は[2]に含まれる土粒子の量は、圧密されているので[1]よりも多い。(つまり[2]の層はもっと古い年代のものである)
これを含水率で補正し、各層の堆積年数を計算する。
図−3.3(2) 年代測定における補正の考え方
3.4.2 堆積年数の算定方法
210Pbの測定結果から、堆積年数を算定するまでの流れを以下に示す。また、図−3.4に算定フローを示す。
[1]210Pbの値(単位はdpm/g※1)を測定する。
[2]各層のdpm/gの値と含水率を縦軸に、積算重量深度※2を横軸にとりグラフ化し、そのグラフから含水率が落ち着き、210Pb濃度が一定になる値(水中の226Raから生成してくる210Pbの値で、バックグラウンド値ともいう)を求める。
[3]各層のdpm/gの値からこの一定値になった210Pb濃度を差し引き、堆積分210Pb(210Pbex)※3を求める。
[4]片対数紙上に積算重量深度に対し210Pbexをプロットし、この直線の傾きより平均重量堆積速度※4を求める。
[5]この平均重量堆積速度から平均堆積速度※5及び堆積年数※6を求める。
※1 DPM(disintegration per minute)
放射性物質の壊変を表す単位。放射性物質中の放射性核種が1分間に壊変する個数。
※2 積算重量深度(g・cm−2)=Wとする。1cm2当たりの堆積粒子の積算重量
W=(1−間隙率)×泥の密度×深さ(cm)
※3 堆積分210Pb(210Pbex)は大気から流入し、沈降粒子に吸着されて堆積した210Pb。
各層のdpm/g値=(水中の226Raから生成する210Pb)+210Pbex210PbexをAex(W)とすると、
Aex(W)=各層のdpm/g値−(水中の226Raから生成する210Pb)より求める。
※4 平均重量堆積速度=ω(g・cm-2年-1)
対数紙上に積算重量深度に対し210Pbexをプロットしたグラフの直線の式を、下の式に代入する事により求める事ができる。
※5 平均堆積速度(cm・年-1)=ω/((1−間隙率)×泥の密度)
※6 堆積年数(年)=積算重量深度(g・cm-2)/ω
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図−3.4堆積年数の算定フロー