(2)本事件の問題点
事件は公海上で発生したものの、救助要請は我が国領海内であったこと。そして、単なる海難救助ではなく、船内暴動、船内大量殺人という事件を伴っているということから、その対処は、一つ誤ると別な国際問題に発展する可能性もあり、この種の事件への対応は、迅速性を必要としながら、国際法的にも国内法的にも明確な理論構成を必要とする。問題を一般化すると、「領海外の外国船舶内で発生する各種の「危険」について、急迫性を理由とする沿岸国の介入の法的根拠とその方法」ということになると思われる。
そして、このような問題を考える基準として、すでに海賊及びシージャックへの対応の根拠について見ておいたところであるが、その問題とはかなりの偏位があるように思われる。海賊やシージャックヘの対応の要件には、にわかには該当していないからである。従って、海賊等への対応の要件を参考にしながら、少なくとも国際法には抵触しない範囲を検証しつつ具体的対応(もし援助等をするのだとするなら)策を考慮しなければならないということになる。具体的に我が国の海上警察機関、即ち海上保安庁が扱わなければならない国際性を帯びる事件は、その殆どが未経験というか、始めて経験するという場合がまだ多くあることであろう。国内法からみて、実定法上の根拠をどの範囲にまで必要とするのかについても検討を要するものであろう。また、国連海洋法条約上は執行が可能と読めるのだとしても、果たして国内法の根拠なしに、そのような執行措置をとることができるのかも考察されなばならない問題のように思われる。