(2)領海における通航の安全を確保する責任
先に示したように、アジアにおける船舶に対する武装強盗事件は、国連海洋法条約の枠内においては沿岸国の領海12カイリ及び群島水域において発生している。しかし、多くの沿岸国にとって、同国の水域内の通航の安全を確保するという実効的支配ができないにもかかわらず、その水域を自国領域又は自国管轄水域に取り込んでしまったということができよう。その意味では、沿岸国利益を保護するための沿岸国権能の行使と通航船舶の航行利益との調整バランスが確保されていない状況が生じていると言えよう。このような状況に対してとるべき方法は、一つは沿岸国の権能の行使による領域管理の実効性を高めることであり、もう一つの方法は沿岸国の領域権能の排他性を修正して、当該海域の国際性を一層高める方向でルールの見直しを図ることであろう。いずれの方法によるにせよ、一般国際法のルールが存在しないのであるから、条約、協定等の特別法による規律が必要となるものと思われる。