(4)アンダーソン判事の分離意見
チャオ判事の、洋上補給を沿岸国の権利に近づける見解とは別に、アンダーソン判事は、洋上補給の態様に応じて扱いに区別を設けようとしている。
今日洋上補給は様々な状況のなかで、様々な方法で行われており、補給を受ける船舶の種類も、旅客船、軍艦、貨物船、漁船等、様々である。そのため、それぞれの状況のなかで、洋上補給についての評価も異なる。
たとえば、補給を受ける船舶が補給の前後に航行の自由を行使している場合は、洋上補給は国連海洋法条約第58条1項の「航行の自由に関連し、船舶の運航に係る国際的に適法な海の利用」にあたるであろう。その一方で、沿岸国の法令に規定された許可と条件のもとで排他的経済水域で漁業を行っている漁船の場合は、漁船の航行より操業許可条件に従うことが重要になる。漁船であっても、離れた漁場と母港との間を航行している場合は、補給が必要である。遭難等によって燃料が欠乏している場合は安全上の問題さえ生じることとなる。
その他いくつかの例を想定しうるが、裁判所はそのような異なる状況に関して十分な証拠なしに抽象的に見解を述べることはできない。裁判所は本件における排他的経済水域での洋上補給について、沿岸国の関税・財政法令の適用を受けるかどうかのみに関してのみ決定を行ったのは正しかった。
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このように述べて、最終的に判決の結論を肯定しているが、漁船が漁業に従事している場合の洋上補給については、操業許可条件を重視している点で、航行に伴う洋上補給と漁業に伴う洋上補給とを峻別しているといえる。
以上の3人の判事の分離意見では、判決の結論を肯定はしているものの、洋上補給についての判断を行わなかった判決の態度に比べて、より踏み込んだ議論がなされている。洋上補給を航行の自由から切り離していこうという姿勢さえうかがえる論がある。
すなわち、ヴカス判事の分析にみられるように、排他的経済水域における沿岸国の権利については、生物、非生物資源の探査開発、エネルギー資源の開発等の国連海洋法条約上認められている権利とは別個の権利を創設する可能性があり、さらに、チャオ判事が述べるように、洋上補給は、商行為として、従来の公海自由原則上の航行の権利から切り離される可能性があり、特に、アンダーソン判事の意見にあるように、漁船への洋上補給に関しては、一般の航行とは切り離して考えることも可能である。