(3)チャオ判事の分離意見
セント・ヴィンセントが、洋上補給をすべてのメジャー石油会社と多くの独立系石油会社がかかわる世界的に広がる数億円産業であるとして、洋上補給が航行の自由の範疇に入る公海の合法的な利用であると主張していることに関して、チャオ判事は、一部の諸国や地域では洋上補給は一般的であると認められるところもあるものの、洋上補給会社は西欧、東欧、北米あるいは中国やロシア、日本、インド、ブラジル等の主要諸国のものではなく、洋上補給が諸国の一致した慣行とはいえないとする。そのため、接続水域や排他的経済水域における漁船に対する洋上補給を海洋法条約第58条1項に従った国際的に合法な海の使用と見ることには大きな疑問があるとする。
洋上補給は本質的に沿岸国の関税を免れる性質を持っており、洋上補給業者が領海での洋上補給を税金を支払わなければならないために好ましくないとしている点をセント・ヴィンセント自身が認めているとする。
そうして、航行という用語は、海を航海する行為を指しているのみで、国連海洋法条約第58条1項においても、公海における航行の権利を規定した第90条においても、洋上補給あるいはその類似行為についての規定は一切なく、海洋法が洋上補給を合法的であると認めているということはない、とする。学説や裁判では、航行の自由と通商や物品の輸送の自由とは常に区別されてきており、国際法は航行と海運産業の商行為とをはっきりと区別すべきである、とした。
チャオ判事は、このように述べて、セント・ヴィンセントが、サイガ号は洋上補給に関連して、ギニアの排他的経済水域において航行の自由を享有していると主張していることについて、排他的経済水域における漁船に対する洋上補給は国連海洋法条約上の航行に含まれるものではないとした。さらに、排他的経済水域において条約が明示的に沿岸国に権利や管轄権を付与していない海の使用について、それが自動的に公海の自由にあたるものとなるわけではないとした。そのため、洋上補給は公海における航行の自由あるいはそれに関連するものとみなしてはならず、サイガ号がギニアの排他的経済水域で行った洋上補給は航行ではなく、商行為であるとした。さらに、航行の自由に洋上補給その他の行為が含まれるという解釈は誤っており、排他的経済水域での洋上補給は公海の自由に含まれるから自由であるという見解は法的に支持できないとした。そうして、チャオ判事は、洋上補給は促進、あるいは、規制なしで放置されるべきではなく、洋上補給には以下のような条件が付されるべきであるとした、すなわち、
(1)排他的経済水域で洋上補給を行おうとする国は沿岸国との合意を行うこと。
(2)漁船に関しては、洋上補給に関する免許あるいは承認を沿岸国から得ること。
この2点がみたされない限り、洋上補給は海洋法上合法的な活動とはみなし得ないとした。
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ここでのチャオ判事の見解には、洋上補給が、航行の自由からははっきりと切り離された商行為とする立場が鮮明で、最後にあげられた排他的経済水域で洋上補給を行う場合の条件を見る限り、洋上補給は沿岸国との合意あるいは沿岸国の承認によって行うことになり、排他的経済水域での沿岸国の権利のもとにおかれるべき活動として強く認識されているといえる。