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(3)両国の対立点
 セント・ヴィンセントは、サイガ号はギニア領海に一度も進入せず、ギニアに軽油を輸入してはいないため、ギニアの排他的経済水域において漁船に給油した際に、ギニアのいかなる法にも違反しなかったと主張した。また、もし、ギニアが関税法を排他的経済水域に拡大しているとすれば、それは、国連海洋法条約が沿岸国に認める権利を逸脱するものであり、セント・ヴィンセントの船舶には適用できない、とした。セント・ヴィンセントは、排他的経済水域においてギニアは海洋法条約第56条および第58条に定める以上の権限を行使する権利はなく、サイガ号による給油行為は排他的経済水域における航行の自由及び他の国際的に適法な利用の自由にあたるものであるから、ギニアはこの権利を侵害したと主張した。
 これに対してギニアは、排他的経済水域において行われる洋上補給がすべての場合に同じ地位に置かれるべきものではなく、たとえば、水域内で活動を行っている船舶に対する給油と、単に通過しているだけの船舶に対する給油とは異なる地位にあると主張した。そうして、排他的経済水域において操業する漁船に対する軽油の無許可販売は、国連海洋法条約上の航行の自由又は航行自由に関連する国際的に適法な海の利用ではなく、商業活動であるから、条約第58条の範疇にはないと主張した。ギニアがサイガ号に対してとった行動は、ギニアの排他的経済水域における航行に対するものではなく、「不法な商業活動」に従事したためにとったものであるとした。
 さらに、ギニアは、排他的経済水域は公海の一部でも、領海でもなく、独自の法的地位を有する水域であるから、排他的経済水域における権利または管轄権のうちで、条約が明示的に沿岸国に帰属させていないものが、自動的に公海自由に属するわけではないとした。(7)
 また、ギニアは、関税圏における漁船への燃料の補給を禁止する法律の法的基礎は、海洋法条約第58条3項の「いずれの国も、この条約により排他的経済水域において自国の権利を行使し及び自国の義務を履行するにあたり、沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払い、この条約及び国際法の他の規則に従って沿岸国が制定する法令を遵守する」という規定に求め、その基礎は、「排他的経済水域における公序に相当な影響を及ぼす不当な経済活動から自国を保護する固有の権利」「必要性の法理」あるいは「その公益の重要な部分を危うくする重大かつ急迫する危険がある場合における自己防御の慣習原則」にあるとした。具体的には、「ギニアのような開発途上国がその排他的経済水域での違法な洋上補給からこうむっている相当な財政的損失」という公益が失われており、そのために、排他的経済水域で航行の外観を装って行われる、交通通信とは異なる経済活動を防止する権限がギニアに与えられていると主張した。(8)
 さらに、ギニアは、ギニアの関税圏は慣習国際法の原則に基礎を置く限定的な関税保護区域であり、ギニアはこの区域で領域管轄権を主張してはいないとし、他国が同様の関税圏を設けていないことがそのような区域を設けることができないということにはならないと主張した。(9)
 以上のように、排他的経済水域における洋上補給行為について、セント・ヴィンセントは、公海自由に含まれる行為であるため、沿岸国による管轄権の行使は違法であるという立場をとっている。
 一方で、ギニアは、排他的経済水域に関して、国連海洋法条約が明示的に沿岸国に権利または管轄権を帰属させてない問題について、すべてを公海自由原則のもとに置くのは間違っており、排他的経済水域において操業する漁船に対して軽油の無許可販売を行うことは、航行の自由にあたる海の利用ではなく、商業活動であるから、条約第58条の範疇にはないという立場をとっている。
 この他に、セント・ヴィンセント側が、サイガ号が漁船に給油を行った地点はギニア沿岸22カイリの水域であったが、ギニア当局が追跡を開始したのは、ギニアの接続水域の外であったことから、追跡が継続しておらず、国連海洋法条約第111条の追跡権行使要件を充たしていない、とする主張を行ったのに対して、ギニアは、追跡はサイガ号が排他的経済水域にいる時に開始されたものであり、国連海洋法条約第111条2項にもとづくものであるとして、洋上補給の取締りがあくまで排他的経済水域におけるものであったことを強調した。(10)








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