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市民団体への聞き取り
 砂浜環境・生物について調査・観察をしている市民団体の具体的な活動内容としては、ウミガメ、コアジサシ、稀少な海浜植生等のシンボリックな生物種にターゲットをしぼったものが多くなっている。また、海岸環境に関する調査・研究活動を行っている団体の多くは、磯・干潟の生物を対象するものが大部分である模様であった。
 調査過程で情報交換を行った、地域活動の一環として子供を対象とした観察会等を行っている研究施設等(町営海域環境研究施設1、大学1)でも、砂浜を対象とすることはない様であった。なお、砂浜での活動の中で海浜清掃活動を行っている団体は対象外としている。
 このような状況から、砂浜海岸及び海辺にこだわらず一般向けに自然観察会等を定期的に実施している団体に対して、前項の「砂浜海岸環境調査マニュアル素案の作成」で作成した「砂浜海岸環境調査マニュアル(素案)」を配布し、調査票の記入上の問題点や調査・観察活動の際の問題点について聞き取り調査を行った。
 対象とした団体等は、活動状況に関する聞き取り等を行った過程で、調査に対して協力いただくことが確認できた以下に示す3団体と小学生に磯の生物の観察指導を行なっている一指導者に対して行った。
 
財団法人せたがやトラスト協会
 世田谷区の外郭団体で、区内及びその周辺の自然環境や歴史的資産の保全を主な業務とし、都市部でのトラスト運動を行っている。事業では「植物観察会」「野鳥観察会」等を数多く実施しており、また区民を募って野鳥ボランティア、植物ボランティアなどの育成も行っている。観察会の運営・ボランティア育成などの分野での専門的知識が高い。
 
エコシティー志木
 埼玉県志木市で市内の自然観察や環境問題などに対して活動を行っているNPO。一般市民を対象とした観察会や動植物の調査などを定期的に実施している。市民の視点での自然観察実施の際の問題点などと本マニュアルの問題点について意見をお願いした。
 
アイサーチジャパン
 三宅島・御蔵島などでイルカの観察、個体識別などを行いながら海産動物の生息状況について観察を行っている。海洋生物の調査・観察に関する問題点などの視点から意見をいただいた。
 
千葉県和田町在住S氏
 千葉県和田町の和田小学校と和田幼稚園で毎年6、7月に磯の生物観察会が行なわれており、その学校行事で元水産試験場職員として、生徒への生物観察指導を行なっている方である。子供達が海でどのような行動をするのか、何に興味を持つのかといった、実際の観察会の運営に関する問題点などから意見をいただいた。
 子供達は、動くものに目を惹かれる傾向があり、磯場では海藻類に対しては興味を示さない。そういうことからすると砂浜を対象とした場合、目にとまる動く生き物が少ないことから、砂浜にいかに一般の人を連れ出すかが肝心となるとの意見をいただいた。
 聞き取り調査の結果により、表0.2に示すマニュアル運用上の問題点が指摘された。
表0.2(1) ヒアリングによる指摘事項(その1)
調査票 項目 意見・指摘事項
全体 量的な問題 簡便に使えるような内容ではない。もう少し項目を絞ってボリュームを少なくした方がよい。
書き込む量が多すぎる。
内容を絞って絵などで表現する部分を多くした方がよい。
観察した人たちが情報を持ち寄って,この1枚に記録していくと言う形にした方がよい。
調査方法や観察の方法などでは、イラストや説明図を多くして文書を少なくした方がよい。
マニュアル全体がボリュームがあるので,各項目をパーツ化しておくような工夫が必要。
例えば,野鳥観察だけに興味がある団体や個人にはその部分だけ切り離して利用してもらうなど。
全体的にボリュームが多い。目的によっては必要のない項目もある。
マニュアルの目的 調査により何か結果が分かるような仕組み造りが必要。
この調査票からどのような環境がわかるのか。
この調査票はどこが配布・集計しデータベース化するのか。記入後の活用方法がわからない。
マニュアルの内容は多岐にわたりかなり大がかりな調査に思われる。このかなりの情報を使って他海岸と比較検討するようなことはできるのか。
市民団体や学校を対象として調査票を配布するのであれば,その意義や調査後の使い方,学習の仕方などについても記載があった方がよい。
表現方法 動植物種の種類の同定によい参考書や図鑑なども紹介した方がよい。
また最近はweb上で様々な写真入りの動植物紹介ページがあるので,公的な機関のHPなどはURLを記すなど使いやすいように整理しておくと便利。
専門的な言葉が目に付く。
もう少し一般にもわかりやすい言葉使いにした方がよい。
自然関係の大学生レベルでの理解力がないと記入できないような箇所もある。
基本事項 調査年月日・調査時間を記入する場所がない。
調査員名あるいは調査団体などを記入する必要はないのか。
表0.2(2) ヒアリングによる指摘事項(その2)
調査票 項目 意見・指摘事項
調査票(1) 気象 気象・文献 この部分を一般市民に記入させるには無理がある。
このような内容は別途集計・データベース化する団体やコンサルタント会社がまとめて入力するべき。
波高 波高については目測でも基準を示すべき。
例えば「水際線に立って目の高さ」とか「人の高さ」,「電柱ほどの高さ」など。
波高はどこを図るものなのかを示したスケッチが必要。
地形・地理 砂浜の位置 注5の説明図は質問の内容と違う。
「外洋性」「内湾性」などスケッチで示して選択するとわかりやすい。
砂浜の位置一方向 「砂浜の位置一方向」で,海に向かっての方向なのか陸に向かっての方向なのかを記す必要がある。
砂浜の勾配 砂浜を「水際線付近」「砂浜中央」「砂浜奥部」と分けて記載とあるが,実際の砂浜で区分する時に一般市民には迷う。
明確に砂浜を3等分して表現するなどの方法の方がよいと思う。できれば分けないで記載。
一般市民に「tan」を使った計算は理解できないし,敬遠される。
メジャーを使った簡単な計測方法で統一すべき。
砂浜の奥行き〜 スケッチで表現できるようにした方がよい。
長さや幅を計るときの基準となる地物等を記しておく必要がある。
河川 河川 水質や川幅などの測定はどの部分で観察・計測するのか。砂浜奥部,海との合流部などと観察する位置を記載すべき。
河川とは排水路や下水路なども対象にするのか。
構造物 構造物の種類 構造物についてもスケッチをして位置や高さを記入してもらうようにした方がわかりやすい。
調査票(2) 構造物 構造物の種類 構造物についてもスケッチをして位置や高さを記入してもらうようにした方がわかりやすい。
構造物の位置 「砂浜背後」と「砂浜奥部」の違いがわからない。
底質 構成材・砂の色 注釈の[24][25]がない。
表0.2(3) ヒアリングによる指摘事項(その2)
調査票 項目 意見・指摘事項
調査票(3) 植生 背後地の土地利用 道路の有無・高層住宅の有無なども動植物の生息・生育環境に影響するので記載が必要。簡略的な地図を描くようにしてはどうか。その際の記載すべき項目のみ記しておく。
背後林の平均樹高 人の高さを目安にして計測すると言う手法のイラストを入れるとわかりやすい。
群落の位置 砂浜の地図をスケッチし,群落のある位置を示すとともにその位置(○で囲むとか)上に量を5段階で記入するのがよい。その上で,主な群落に生えている植物名を表にする。
藻場 藻場の位置 「海藻」「海草」「藻場」の意味がわからない。解説を入れるべき。特に藻場の場合どのような状態が藻場なのかがわからない。
「アマモ・スガモ・アオサ……」の見分け方は記しておいた方がよい。簡単なイラストと色や特徴を示したもので十分。
調査票(4) 鳥類 生息環境上の問題点 個々に生息環境は異なる上、なにが問題なのか小学生レベルでは理解されない。両生類・は虫類に関しても同様。
特記すべきこと 小学生レベルでは具体的になにを記せばよいのか導かないとなにを書いてよいのかわからない。教師が指導する場合でもマニュアルを利用する目的によって異なるので、具体化できないと思う。ほかの項目についても同様。
調査票(5) 潮間帯に生息する動物 定量採取の方法 定量採取の意味を記すべき。また方形枠(コドラート)と言わずもう少しわかりやすい表現と方法で記すべき。
調査票(7) 砂浜の利用 全般 季節別の利用量や入込数などの記載は必要ないか。
漁業利用 潮干狩りも記入。
スポーツ利用 海水浴も記入


聞き取り調査結果の概要
 「マニュアル(素案)」を用いた聞き取り調査の結果から、全体な問題点として「量的にボリュームが多い」「ブロックに分けて観察の目的にあった組み立てにすべき」等の指摘を受けた。
 また、各論では「イラストを多用してわかりやすい紙面にすべき」、「一般市民がわかる内容にすべき(言葉や用語など)」などの意見が多かった。
 このほか、一般市民としては情報収集が困難な項目も多く、ごく一般的な情報として入手できる内容で構成すべきであると言った意見が多かった。また、内容についてではなく、子供達向けに行うことを考えているなら、「まず、子供達をどうやって砂浜へ連れ出すかを考えることが必要であり、これが一番難しいことである」との指摘も受けている。さらに「子供は動くものに興味を示す」との経験談もあり、一瞥しただけでは、動く生き物をみることが難しい砂浜では、砂浜環境に興味を向けさせるのが難しい印象を受けた。
マニュアルの再構成
 前項で聞き取り調査により指摘を受けた事項に配慮し、「マニュアル(素案)」の再構成を行い「マニュアル(改訂案)」を作成した。
 構成上大きく変更した部分は各項目のパーツ化である。再構成した各パーツは「地形」「底質・漂着物」「砂浜のまわり」「水際の生き物」「鳥類・ほ乳類」「昆虫類ほか」「植生・植物」に区分し、それぞれのパーツ別に利用できるようにした。なお、調査票自体は基本的にA4裏表1枚でパーツ毎に利用できるようにした。
 なお、平成13年5月に総理府が行った「自然の保護と利用に関する世論調査」の中で、自然保護活動への参加に関する意識について、参加したい自然保護活動を問う設問がある。この調査結果を見ると参加したい活動のトップとして「河原や公園、海辺などでゴミ拾いをするなどの美化清掃活動」、ついで「身近なところに木を植えたり管理したりする緑化活動」、「自然観察会や探鳥会、自然歩道を歩く会などの行事」となっている。この設問の中には「身近な生物や自然環境などの調査」という選択肢が含まれているが、参加したいと思う人がほとんど見られない。
 このことから一般の意識として「調査」という言葉より、「観察」という言葉の方が受け入れやすいのではないかと考え、「環境調査マニュアル」という名称が一般には難しいことをする印象を抱かせることが想定できたため、「一観察の手引き一」という副題を付け加えることとした。 再構成を行った各パーツの内容及び目的を以下に示す。
【地形編】
 調査・観察を行う砂浜海岸の一般的な環境、基礎的な情報を収集することを目的とした調査票である。大きく分けて「調査・観察日の気象」と「地形・地理」に分類される。
 この「地形編」はほかの調査票に必ず添付して用いることとする。
 また、調査票のほかに「調査・観察から帰ってから調べておくこと」添付し、調査・観察終了後、新聞やホームページ(気象庁や民間の気象予報会社など)から得られる情報を記録する調査票を設けた。
【底質・漂着物編】
 地形編と併せて一般的な環境を記録する調査票である。砂浜を構成する砂の物理・化学的な基礎情報を記録する。また、ビーチコーミングとして知られる漂着物の調査・観察についても詳細に情報が記載できるようにした。
【砂浜のまわり編】
 動植物の生息空間として重要な役割を持つ砂浜のまわりの人工構造物、背後林、流入する河川の状態などについて記載する調査票である。
 再構成前の調査票では背後林も単に植物・植生の中で調査・観察するように表現したが、再構成後は、動物の生息空間としてどのような環境を有しているか(樹林の構成・規模など)と言う点に着目して作成した。
 河川についても、植生の状況と水質に着目し、水辺の鳥類、砂浜海岸への汚濁負荷の目安などが判断できるようにした。
【水際の生き物編】
 波打ち際付近の動植物(海藻類・潮間帯の生き物・魚類)をまとめて1枚の調査票にした。「藻場」と言う言葉は使わず、ごく一般的な海藻を記録してもらうように構成した。また、海藻の場合不明種が多くなるおそれがあることから、「海藻の押し花標本の作り方」を示し、調査・観察後標本を作って残せるようにした。
 また、生息情報の聞き取り相手の記入や文献・資料による記載は削除した。
【鳥類・ほ乳類編】【昆虫類ほか編】
 鳥類・ほ乳類の観察方法と確認した種およびその数と調査・観察したときの行動、場所だけを記録するようにし、文献による記録、出典の記載などについては削除した。
【植生・植物編】
 背後林については「砂浜のまわり編」で記録することとしたが、植物群落としてこの調査票にも、記録することとなる。この調査票では、植物群落の概略の分布状況を地図で表現し、さらにそれぞれの群落の構成種や生育被度を記録する。
 不明な種については海藻と同様に押し花標本を作製して保存するようにした。
 このほか、各調査票では、表面に生息種や計測した数値などを記録し、裏面に動植物の分布状況、地形的な特徴を略図で表現するような構成としている。








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