3.マニュアルの策定と現地への適用
マニュアルの作成に際しては、先ず昨年度調査成果も含むこれまでの検討結果を基に“マニュアル(素案)”を作成し、これをもとに環境関連の市民団体等にヒアリングを行うことにより、マニュアルの問題点や改善策を把握した。その結果を受けてマニュアルを改訂し、海岸環境を専門としない団体に現地調査の試行を委託することにより残った問題点を洗い出して、最終的なマニュアル(案)を確定した。
3.1 簡易調査手法事例の検討
「マニュアル」の検討にあたり、すでに自然環境を調査する手引き書として整理されている書籍あるいはマニュアルなどを収集し、砂浜海岸調査マニュアル作成の際の基礎資料とした。
表3.1に水辺・海岸等の自然観察を対象とした自然環境の観察手引き書の事例を示した。これによると、その多くは河川・湖沼を対象としたものや、海辺でも岩礁域(磯)に対してのものが多い。岩礁や磯浜ではタイドプール内の観察や着生動植物の観察など、一般にも知られた観察方法がある。また、干潟海岸では、埋め立て地問題などでもクローズアップされたこともあり、水辺の野鳥観察や感潮域の泥場に生息するカニ類、魚類などに着眼した観察例なども紹介されている。
一方砂浜海岸は、生物観察の視点では鳥類観察でフィールドのひとつに挙げられるものの、そのほかの動植物観察の場として利用されることは少ない。
表3.1 主な自然環境の観察手引き書
  |
書籍名 |
著者・編者 |
対象 |
1 |
磯浜生物観察ハンドブック |
秋山章男 |
磯 |
2 |
茨城の海の生き物 |
茨城新聞社編 |
図鑑 |
3 |
静岡県川と海辺のさかな図鑑 |
板井隆彦編 |
図鑑 |
4 |
輝く海・水辺のいかし方 |
廣崎芳次 |
全般 |
5 |
海辺ビオトープ入門:基礎編 |
自然環境復元研究会編 |
全般 |
6 |
海流の贈り物 漂着物の生態学 |
中西弘樹 |
砂浜 |
7 |
アウトドア術 磯遊び図鑑 |
園田幸朗 |
磯 |
8 |
海と遊ぼう事典 |
こばやしまさこ |
磯 |
9 |
磯は自然の遊園地 父と子の磯遊び |
磯遊び同好会編 |
磯 |
10 |
おきなわ海の自然観察[1] |
沖縄県環境保健部自然保護課 |
磯 |
11 |
サンゴのはなし |
沖縄県環境保健部 |
サンゴ |
12 |
香川の自然ガイドブック |
香川県 |
陸域 |
13 |
ひめじのさかなと瀬戸内海の生物 |
姫路市立水族館 |
磯 |
14 |
森林の自然観察 |
愛知県 |
森林 |
15 |
市街地・田園の自然観察 |
愛知県 |
里地 |
16 |
河川・池の自然観察 |
愛知県 |
河川 |
17 |
海岸の自然観察 |
愛知県 |
海岸 |
18 |
子どもとはじめる自然[冒険]図鑑 海を楽しむ |
ジャック・T・モイヤー他 |
磯 |
19 |
磯遊びがしたくなる本 |
こばやしまさこ |
磯 |
20 |
遊YOUキッズ 海あそび |
鯨井保年 |
砂浜 |
21 |
調べる・身近な環境 |
小倉紀雄他 |
自然 |
22 |
フィールドガイド足跡図鑑 |
子安和弘 |
図鑑 |
23 |
自然観察と生態シリーズ8 海辺の生物 |
菅野徹 |
図鑑 |
24 |
山渓フィールドブックス8 海辺の生きもの |
奥谷喬司編 |
図鑑 |
25 |
鳥の生息環境モニタリング調査ガイドII干潟と河原を調べる |
日本野鳥の会研究センター編 |
干潟 |
26 |
砂浜の発見-ビーチコーミング入門- |
平塚市博物館 |
砂浜 |
27 |
谷津干潟ガイドブック 散歩のともだち磯浜生物観察ハンドブック |
谷津干潟ガイドブック作成プロジェクト編 |
干潟 |
これらうち、本研究で対象とする砂浜海岸を対象としたものは、以下の3事例となっているが、砂浜の環境を総合的にとらえた事例は[1]の「海岸の自然観察、自然観察の手引きVol.4.」のみとなっている。なお、[2]は砂浜を対象としたものではないが、紹介されている調査手法の多くは、砂浜においても利用できるものとなっている。
[1] 「海岸の自然観察.自然観察の手引き Vol.4. 」 愛知県 |
|
【概要】
愛知県内の砂浜の自然、磯浜の自然、干潟の自然および海岸林の自然についての説明と海岸の自然観察の手法を「化石層」「渡り鳥」「海岸の鳥類」のカテゴリーごとにまとめている。 |
[2] 「鳥の生息環境モニタリング調査ガイドII.干潟と河原を調べる」(財)日本野鳥の会 |
|
【概要】
鳥の生息環境の変化をモニタリングするための調査手法が紹介されており、今後の自然環境保護の基礎的なデータとする事を目的としている。
イラストを多用し、ごく一般的な器具あるいは日常使う道具によって干潟や河原の自然環境を観察・測定できるように説明している。 |
[3] 「砂浜の発見.ビーチコーミング入門」、平塚市博物館 |
|
【概要】
平塚市博物館が主催してきた「漂着物を拾う会」が平成2年からの調査・観察結果をとりまとめたもので、砂浜海岸に打ち上げられた漂着物から様々な環境、社会環境の変化などを読みとり、自然環境の保全に対しての課題を書き記している。
とくに、専門的な知識がない一般的な市民が漂着物から、様々な環境の変化を知ることができる手法として「ビーチコーミング」はマスコミなどからも注目された。現在も奇数月の第二土曜日に「漂着物を拾う会」が実施されている。 |
これらの事例を参考に「砂浜海岸環境調査マニュアル(素案)」を組み立てた。
3.2 マニュアルの構成案の検討
前項の整理結果より、砂浜海岸環境調査マニュアル(素案)の構成を検討した。
まず、砂浜のもっている役割・機能、自然環境の保全と言う視点からみた砂浜海岸の重要性について、地形学的、生物学的な視点からその概要を記述した。これは、干潟については埋立地問題などからその役割(水質浄化や生物の生産性など)や豊かな生態系について一般に知られているが、砂浜海岸についてはほとんど知られていない状態にあることからである。
マニュアル(素案)は「砂浜の地理・地形」、「砂浜の底質・構成」、「砂浜の生物」、「砂浜の利用」の4項目を大分類として構成することとした。このうち、「砂浜の生物」については、本マニュアル(素案)の構成および自然環境の保全に関して中心的な事項となるため、現地での観察の前に十分な情報の収集および整理を行う必要がある項目であるが、基本的には現地での目視観察の状況を正確に記載してもらうことを主目的した。
また、マニュアル(素案)の体裁は、調査票と各調査票に対して解説を付ける形式をとることにした。
(拡大画面: 153 KB)
図3.1 マニュアル構成のイメージ(当初案)
3.3 マニュアル素案の項目と調査方法の検討
「マニュアル(素案)」の項目には、砂浜環境を構成する要素から以下に述べる各環境要素の意義を考慮して表3.2に示す項目を選定した。
(1)砂浜の気象・海象
砂浜の気象は水物の生息条件として非常に重要な環境因子である。各気象台や水産試験場などの経年的なデータを用いて記入することができる。
波の状況については、個別の砂浜海岸についての情報がない可能性があるので、地域住民や市民団体などからのヒアリング、地形的な特性などから判断し、記載することとした。なお、どのような点についてヒアリングすべきかについてもその例を記載することとした。
(2)砂浜の地形
生物の生息環境、「器」として砂浜の状況を把握する必要がある。特に「砂浜の位置」によって、生息する動植物の概略の構成種が想定され、更に水質の汚染度、底質の状況なども推測することができる。
「砂浜の位置」、「方位」、「長さ」に関しては1/25,000地形図を用い計測し、現地踏査によって補完することとした。「傾斜・勾配」、「幅」に関しては現地でメジャー、簡易レベル、ポールなどを用いて計測することとして、作業の概要が分かるように図示を行った。
(3)河川・水路
近傍に流入する河川は、淡水流入により生物相に影響を及ぼすとともに、漂着物や栄養塩を供給することにより、砂浜に生息する生物相に影響を与えることが想定できる。
よって、砂浜海岸に流入している河川の状況を地形図上で調べ、現地踏査によってその規模(川幅や概略の水深)や水質を目視により観察することとした。
水質については、特に分析や特殊な機器による観測を要しない臭い、水色、透視度などについて記録することとした。
(4)人工構造物
人工構造物の有無には砂浜海岸に対して3つの影響を及ぼす。
[1]離岸堤などによって波の営力、砂浜の形状に影響し、生息する生物相に影響する。
[2]防波堤などによって砂浜の背後の植生環境に及ぼす影響。
[3]視界に入る構造物の量、すなわち景観上の影響。
これらは砂浜の生物相・自然環境に大きく影響するものであることから、構造物の種類、規模や配置、砂浜に占める割合などを調査・観察することとした。
表3.2 砂浜環境調査マニュアル(素案)の項目の抽出
分類 |
項目 |
調査の視点 |
具体的に |
どうやって調査するか |
砂浜の地理・地形 |
砂浜の気象 |
砂浜の気温と日射量 |
気温・日射量の年変化の把握 |
既存資料によるデータの収集・整理 |
沿岸の風向・風速 |
平均風向・風速の年変化の把握 |
既存資料によるデータの収集・整理 |
沿岸の海水温 |
海水温の年間の水温変化 |
既存資料によるデータの収集・整理 |
沿岸の波の状況 |
波の営力の大小 |
目視観察・ヒアリング。 |
調査時の状況 |
調査時の天候・気温・風向・風速・波浪の測定 |
温度計、風向・風速計による計測、目視観察。 |
砂浜の地形 |
砂浜の位置 |
面している海の状況 |
「外洋性」「外洋入江状」「内湾」「内湾入り江状」「河ロ干潟状」を基本に絵チャートから選択 |
属する海区(環境省) |
環境省の自然環境保全基礎調査の海区区分 |
海区チャートから選択 |
方位 |
16方位 |
16方位で地形図上から判読 |
傾斜・勾配 |
砂浜の縦断の傾斜 |
砂浜の傾斜を簡易レベル測定(測定チャート)によって読みとり。 |
幅 |
砂浜の奥行き |
奥行きの距離。平均水面から堤防、背後林までの距離 |
長さ |
砂浜の長さ |
海岸線に面している距離 |
河川・水路 |
河川・水路の位置 |
砂浜内の河川・水路の有無とその規模 |
調査対象砂浜内の地形図及び現地踏査による観察 |
砂浜近傍の河川・水路の有無とその規模 |
調査対象砂浜近傍の地形図及び現地踏査による観察 |
人口構造物 |
人工構造物 |
人工構造物の有無と位置 |
有無・構造物の位置(砂浜背後・砂浜全面・砂浜沖合○○mなど) |
構造物の種類・形状 |
消波ブロック・離岸堤・防波堤など構造物ごとに絵チャートから選択。 |
砂浜に占める割合 |
砂浜の距離または面積に対して占める割合を目測で判断。%表示。 |
視界に入る量 |
景観的な観点から |
砂浜に立ったときに見える構造物の量を目視で判断。%表示。 |
砂浜の底質・構成 |
砂浜の底質 |
粒径 |
砂浜の基盤となる材料 |
縦断面に沿って任意の距離ごとに「粒径チャート」から選択表示。 |
底質 |
砂浜の底質の状況 |
目視観察による砂浜の底質環境を記述 |
砂浜温度 |
表面温度と表面下○○cmの温度測定 |
温度計による現地測定 |
色 |
底質の材料を判断する指標として |
「色チャート」で選ぶ |
臭い |
汚染の指標として |
「においのチャート」で選ぶ |
漂着物 |
外洋との関係・汚染 |
漂着物の種類 |
目視観察により、漂着している物質の種類を調査 |
漂着物の量 |
目視観察により砂浜に分布する漂着物の覆う面積を種類別に%で表示。 |
油濁の状況 |
目視観察により油濁の状況を調査 |
沿岸藻場・海草藻類の判読 |
海草藻類の種類と量 |
流れ藻・漂着海草藻類の全体量(%)と種類の抽出 |
砂浜の生物資源 |
植生 |
背後地の土地利用 |
砂浜の背後の土地利用の状況 |
土地利用図・地形図より判読 |
背後林 |
砂浜の背後に位置する樹林帯の種類と面積 |
環境庁植生図から読みとり。目視観察による補完。 |
海浜植生 |
砂浜内に分布する海浜植物群落の種類 |
現地目視観察による海浜植生の種類を観察。 |
  |
海浜植物群落ごとの量 |
海浜植生ごとの面積を目視観察により判断。 |
藻場 |
低潮帯から浅海域に形成される藻場の状況 |
環境庁資料ほか既存資料の収集・整理と現地漁協からのヒアリング |
植物種 |
主な植物種の調査 |
踏査により植物種の調査・記録 |
海草藻類 |
主な海草藻類の調査 |
流れ藻、漂着海草藻類の目視観察 |
動物相 |
砂浜周辺の動物 |
哺乳類・鳥類の生息状況 |
生体および砂浜に残された哺乳類・鳥類の足跡、フン、食痕による動物相の確認 |
潮間帯に生息する動物 |
潮間帯の甲殻類・環形動物などの小動物 |
ふるいによる底生動物の採取、ソーティングと室内分析あるいは目視観察 |
漂着物に付着する動物の目視観察および採取 |
浅海域の魚類 |
魚類の生息状況 |
地引き網の情報、釣り人・漁協・地域住民などからのヒアリング |
砂浜の利用(アメニティー) |
利用 |
釣り・漁労 |
釣りや地引き網の実施状況 |
投げ釣りなど釣り人の利用状況、地引き網の実施状況などのヒアリングと現地踏査 |
漁業 |
漁港・船置き場・干場などとしての利用の状況 |
現地踏査により調査 |
動植物観察 |
バードウォッチング・植物観察などの状況 |
各種団体・個人からのヒアリング及び現地踏査 |
運動(陸上) |
アスレチック・ジョギング利用などの状況 |
現地踏査による利用状況の観察 |
運動(海上) |
サーフィン・セーリングなどの利用の状況 |
現地踏査による利用状況の観察 |
モータースポーツ(陸上) |
4WD車・モトクロスバイクの砂浜への立ち入りの状況 |
現地踏査による利用状況の観察(とくに生物資源に与える視点からの観察) |
モータースポーツ(海上) |
水上バイクなどの利用状況 |
現地踏査による利用状況の観察(とくに生物資源に与える視点からの観察) |
周辺との関わり |
隣接する観光地の状況 |
宿泊施設・運動公園などの有無、利用形態など |
既存資料、現地踏査により調査 |
生活利用の状況 |
生活雑事の場としての利用の状況 |
現地踏査により調査 |
(5)底質
砂浜の底質(粒径)は生息する動植物(特に埋在生活を行う底生動物)の生息環境として重要な要素である。砂礫質海岸とシルト分、泥分を含んだ海岸では、生物相が大きく異なる。
粒径に関しては、通常ふるいわけによって粒度分析を行い、粒径加積曲線等によって底質の状況を表現するが、一般には費用が掛かりまたその結果の表現にも専門的な知識が必要である。
さらに、底質の有機汚染の状況などを図る目安としてはCOD、強熱(灼熱)減量あるいは酸化還元電位等があげられるが、いずれの項目も高価な計器を用いて観測を行うか室内分析によって得られるデータである。
生物の生息環境としては、生息基盤となる粒径がどの程度のものなのか。泥分が多くかつ有機汚染(腐食臭)が進んでいるか。また還元状態(硫黄臭)で無酸素に近く、生物の生息に適していない状態か否かを把握するだけでも、ある程度の状況を知ることができる。
よって、底質については目視によって粒径を判断し、色とにおいによって底質の状況を観察することとした。
このほか、底質中の温度は市販の温度計で簡易に計測できることから、生物の生息環境と、して基礎的な情報として測定を行うこととした。
漂着物
漂着物は周辺海域の状況、波浪、海流の影響などを視覚的に知ることができる要素である。よって、漂着物の種類、量を調査・観察することとした。
特に海草藻類、甲殻類、マキガイ類、ニマイガイ類などは重要な生息情報となる。動植物の漂着物はサンプリングし標本として保存する方法も示した。
このほか、船舶などから流出した油分は廃油ボールなどとなり砂浜海岸に漂着し、生物の生息環境のみならず景観・アメニティー性、人の健康にも大きく影響を及ぼす。よって、廃油の漂着状況についても質や量を記録することとした。
また、海流によって他地域から漂流したもの(ビンやビニール・プラスチック製品など)のリストも作成し、海流の影響も記録することとした。
植生
植生は、海岸林、砂丘植生など“白砂青松”の砂浜を構成する重要な要素である。また、砂浜に生息する鳥類や哺乳類、爬虫類、昆虫類にとって、ねぐら、隠れ家、繁殖空間などの役割を持っている。さらに飛砂抑止の役割もあり、砂中に生息する小動物の生息環境にも影響する。
よって、砂浜の背後林(植生)の有無及びその規模、構成する樹種の状況について調査・観察することとした。
このほか、砂浜に形成される草本類を中心としたパッチ状の植物群落、植物種についても観察し、分布域と共に図中に記載する。
浅海に形成された藻場、海草藻類群落は鳥類、海産哺乳類のエサ場として重要な役割を持っていることから、分布状況、規模を陸上からのできる範囲で目視観察を行い、あるいは漂着物などから判断し記録することとした。
動物相
陸産動物(哺乳類・鳥類など)については、双眼鏡などを用いた生体の目視観察、フンや足跡、食痕などフィールドサインの確認による生息状況の確認を行うこととした。
昆虫類については種が多様であり、一般の観察者には不明な種も数多く含まれる。よって、マニュアル(素案)では、環境の指標となるような種のみを抽出することを検討した。
潮間帯に生息する動物については、砂浜海岸の場合、コドラート(方形枠)を用いた定量的な採取方法と、ランダムに砂を採取しふるいにかける定性(任意)的な採取方法がある。定量的なデータは、事後に様々な解析を行う時には、極めて有効な情報となるが、専門的な技術を要することから、当面は定量的な手法については、採取面積などの概略を記録するに留めることとした。
また、採取した個体の分析に関しては、高度に専門的な知識を要することから、基本的に種の同定は行わず、小中学生がわかる程度の「科」あるいは「属」レベルでの分類、すなわち「サギ類」「甲虫類」「トカゲ類」程度の表現で表現することとした。ただし、確認した種の特徴を記せるように、簡単なスケッチを描く場所や特徴を文字で記せるようなスペースを設けた。
浅海の魚類については、釣りや投網などによる観察も検討したが、基本的には地元住民や漁業協同組合、釣り人からのヒアリング、あるいは観光地引き網などが実施されている浜では捕獲物の観察により判断することとした。
利用
以上示した動植物の生息状況のほかに、砂浜海岸での利用の状況についても調査・観察することとした。
砂浜の利用は動植物相との関係が強く、生物の存在が砂浜利用を満足させるものと、砂浜をオープンスペース、オープンウォーターなどスポーツ・レクリェーションフィールドとして利用するものに分類される。
前者は釣りやバードウォッチング、植物観察のほか漁業活動などが含まれる。このため、豊かな自然環境によって支えられる利用である。後者は、アメニティー性の面からは重要な利用空間とはなるが、生物資源の保全の観点からは避けるべき利用方法となる。
この様な観点から、砂浜の自然環境の保全、生活利用、アメニティー性との関連など様々な砂浜環境を考える材料として重要な要素となる。
砂浜海岸環境調査マニュアル素案の作成
前項までの項目の抽出結果から「砂浜海岸環境調査マニュアル(案)」を作成した。作成した砂浜海岸環境調査マニュアル(素案)は
資料編に示した。
現地適用の検討
砂浜に関する市民団体等の活動
市民団体等の概況及び調査活動の現況把握
既往資料、既存のデータベース、HPなどにより自然環境の観察活動を行っている関東近県の団体を抽出し、整理した概況を表0.1に示した。
○調査活動の概況
○興味ある生物群
○観察会等の実績の有無
○砂浜生物への興味度合い など
表0.1(1) 関東近県の海浜に係わる活動等をしている市民団体等の概況(その1)
都道府県 |
団体名 |
活動概要 |
活動例 |
茨城県 |
茨城生物の会 |
茨城県の生物を研究し、生物に関する知識の向上を図るとともに、郷土の自然の保護に努めることを目的とし、自然観察会、調査研究会誌及び研究報告の発刊、研究発表会、談話会、講演会の開催、講師の派遣を行っている。 |
自然観察会(年9回)、会誌の刊行、中高生物クラブ研究発表大会の開催、談話会の開催、各団体への講師派遣 |
千葉県 |
夷隅郡市自然を守る会 |
外房地域の自然環境の保全とそこに生息する生物たちの保護を中心にして活動してきたが、ここ数年は、自然保護に関する啓発活動や地域の文化や民俗の研究、さらには貴重な生物たちの基礎調査も行っている。 |
海中桜再現実験、ゲンジボタルの調査保護活動、アカウミガメ上陸産卵調査と海岸の保護活動に加え、行政との交渉を実施している。 |
環境カウンセラー千葉県協議会 |
環境に係わる様々な分野の専門家等によって組織が構成されており、様々な環境保全に向けて取り組み、活動を行っている。 |
月1回の運営委員会の他、企業環境セミナーをはじめとする各種環境セミナーやEMS取得支援、自然観察会等の開催を実施。 |
東京都 |
伊豆諸島自然史研究会 |
本会は伊豆諸島の自然史について様々な分野から調査研究を行い、その特質を明らかにしていくとともに、将来にわたってその環境を保全していくための活動を実施することを目的としている。 |
伊豆諸島八丈小島の自然環境保全基礎調査 |
内川と内川河口をよみがえらせる会 |
失われた海辺の砂浜・干潟環境を復活し、保全するために1990年に設立。海辺の生物の多様性を目指し、海辺の自然とのふれあいを再現させる。そのために行政への積極的な提言と協議を行う。 |
海辺の清掃、鳥と海の生物の観察・調査、砂浜・干潟・浅瀬の復活のため、行政との定期的な交渉・協議・提言 |
大島自然愛好会 |
伊豆大島の動植物をはじめとする自然を調査し、記録する。また、自然及び自然保護についての啓蒙を図る目的で、1985年1月に発足した。 |
自然観察会、植物分布調査、生物季節の記録、1986年三原噴火後の自然の回復調査、会報の発行 |
大島の自然を守る会 |
私達の会は、自然破壊を嘆く一老女の嘆に端を発し結成された。それ以降、町内の自然保護のためのPR事業、陳情・請願運動等、多彩な活動を行っている。 |
伊豆大島水と緑の国際シンポジウムを開催、自然観察会の開催、大島空港拡張問題に係わり愛宕山の自然保護運動 |
「平成13年度版環境NGO総覧」(財)日本環境協会刊をもとに抽出し、聞き取り等により情報を補間して作成
表0.1(2) 関東近県の海浜に係わる活動等をしている市民団体等の概況(その2)
都道府県 |
団体名 |
活動概要 |
活動例 |
東京都 |
小笠原野生生物研究会 |
会員は島内26名、島外14名で、構成は研究者が1/3、自然保護に関心のある人が2/3である。会の目的は小笠原の野生生物の調査研究と野生生物の保護保全に関するボランティア活動を行い、自然環境の保全に寄与することである。 |
父島の海岸植生回復植樹事業、絶滅危惧種アサヒエビネ苗の自生地への植栽、植生荒廃の著しい嫁島の植生回復5ヶ年計画事業継続中 |
品川自然の会「四季」 |
15年前に、子供達と一緒に身近な自然の散策を通し、自然の美しさ、大事さ、楽しさを学んできました。その日の参加者に、知識ある限り、植物観察や歩いた後やキャンプのゴミを残さないように啓発。 |
月1回の行事、土日に三浦海岸、奥多摩、丹沢と会員の行ってみたいコースを順次決定。現在は大人の集団 |
東京都生物教育研究会植生及び環境調査研究委員会 |
環境教育の基礎となる正しい自然観を育てるために欠くことのできない野外観察や調査を推進するために設立された。主に教員を対象とした自然観察会の実施、基礎研究としての植生調査や様々な教材の開発を行う。 |
自然観察会(テーマ別)、伐採跡地の植生調査、植物のデータベースの配布 |
みどりの地球大好き会 |
当地伊豆大島は、本邦でのウミガメの産卵地として北限域に当たる。大好き会は、毎夏ウミガメが訪れる海浜の清掃や産卵地の保護を行っている。孵化率等の調査の他、沿岸に漂着するウミガメの調査も通年で行っている。 |
産卵巣の掘り出し調査・観察会(ほぼ毎年開催)、可能な限り自然に近い状態で子亀を自力降海させるが、残留子亀がいれば放流する。 |
神奈川県 |
海をつくる会 |
東京湾(横浜を拠点)の環境向上のため昭和56年に設立された任意の団体。毎年1回の山下公園海底清掃大作戦、金沢区野島海岸沖の定点調査(水質・生物)、金沢水の日(イベント)等を行っている。 |
毎年10月の山下公園海底清掃、「野島の海自然観察ガイドブック」刊行、野島定点調査を毎月実施、他海川のイベント協力参加 |
かまくら環境会議 |
環境問題について学習、調査、研究活動等を行い、市民同士の連携を図るなかで、私たち自身の環境保全活動や市民の環境保全行動を促すことによって、地球環境や地域環境の保全に役立つことを目的とする。 |
春・夏・秋のふれあい環境教室、鎌倉中央公園の管理運営協力(田畑耕作・子供体験学習の指導、海岸調査と磯遊び、扇川工コアツプ)、 |
相模貝類同好会 |
横須賀市博物館で生まれた本会は、自然を愛し、貝に親しむ人達の集まりで、観察、調査、講義、講習、見学などの行事を毎月行っている。入会金や年会費は徴収しない。自然保護の啓蒙に努めている。 |
海洋や磯の自然観察、貝類や自然環境についての講義、実地指導、その他 |
西相模生物研究会 |
現地を中心にした科学的な調査に基づく自然保護を行うとともに、理不尽な開発に対する警鐘を鳴らす。また、動植物の調査方法を教えると同時に、自然環境の大切さを理解してもらうように努める。 |
浜北市灰の木処分場予定地の自然保護、小田原海浜クロマツ林の衰退原因調査、静岡空港予定地のオオタカ・動植物の保護 |
「平成13年度版環境NGO総覧」(財)日本環境協会刊をもとに抽出し、聞き取り等により情報を補間して作成
表0.1(3) 関東近県の海浜に係わる活動等をしている市民団体等の概況(その3)
都道府県 |
団体名 |
活動概要 |
活動例 |
神奈川県 |
平塚の自然を守る会 |
平塚の自然を守るために設立。方針として身近な自然に関心を持つこと。生き物の生態系の保護再生。具体的には西部丘陵のオオタカやゲンジボタルが棲み続けられる雑木林、里山を守る、再生する、調査、観察をする。 |
自然観察会、里山再生作業、環境展示会 |
藤沢市生き物調査研究会 |
1990年に環境庁が身近な生き物調査を実施したときに、藤沢市の小中学校教師が集まって、足下の環境を知る良い機会としてとらえ発足。以後平塚博物館や茅ヶ崎文化資料館とネットワークを作り調査を継続している。 |
98年、市内ツバメ調査、コシアカツバメ、イワツバメ、ヒメアマツバメについての全域調査、99年、水辺の生き物調査 |
三浦の自然を学ぶ会 |
観光客達の立ち入りにより自然が破壊されて行く現実に対処し、市内海岸の清掃、海岸植生の保全復元、自然保護ゴミ持ち帰り運動PRと市当局への提案などが主な活動で、同時に市内植生の調査記録を行っている。 |
市内の黒崎海岸の清掃、内植生の記録と保全、 |
三浦半島自然保護の会 |
1955年頃から意識して、自然物を採らない、私物化しない、総合的体系的に自然を観る自然観察会を始め、今年で45年。現今、全国的に盛んな自然観察会活動の原点となった。会員の年齢構成序列はなだらかである。 |
月例自然観察会、月例「勉強会」土曜夜18〜21時 |
モース研究会 |
モース研究会は我が国の文化向上に大きく寄与した、E.S.モースの博学に学び、いろいろな領域からモースに迫りたいと考え実践しています。その成果を多くの人々に伝え、地域の共有財産としていきたいと考えます。 |
年間の最大行事は初夏の「江ノ島モース祭」、その他毎年テ一マを変えてシンポジウムや自然観察・体験ツアーを企画実施。 |
静岡県 |
池新田みどりの少年団 |
この団体は浜岡町立第一小学校新田地区・高松地区の児童で構成する。活動は、海岸、防災林等を利用した野外における自然の学習と環境保護活動。砂丘、砂浜等を守り育てるために必要な実践活動を実施する団である。 |
海岸の清掃 |
高松みどりの少年団 |
遠州自然研究会 |
遠州地方の生物を調査研究し、会誌「遠州の自然」を発行。自然観察会・調査会・「遠州地方の生物展」などを行い、一般への啓蒙をする。絶滅しそうな動植物を保護し、保存する活動をする。 |
会誌「遠州の自然」の発行、自然観察会・調査会・遠州地方の生物展を行う。絶滅しそうな貴重な生物の保護と保存の活動。 |
サンクチュアリジャパン |
ウミガメやコアジサシなど身近な自然に生息する野生生物の保護調査活動を通して環境保護を行っている。また、活動は、子供達の環境教育の場と捉え次世代に自然のすばらしさを伝えられる担い手を育てている。 |
定例自然観察会を河川、海岸、里山で毎月開催、また、そこに生息する野生生物の保護調査活動の観察会、農林体験の実際。 |
浜岡自然愛好会 |
自然観察会を6回以上、老人から子供までを含み先ず、自然の美しさ、自然の現実の状況を知り、自然を楽しみながら、自然保護の必要性を理解し、自然保護へ取り組む人々の増加を期待している。講演会も年1回行っている。 |
砂丘植物の観察保護、教育委員会主催のホタルの観察会、体験学習等の援助も本会の計画以外に依頼されて行っている。月星虫鳥の観察 |
舞阪の自然を守る会 |
“浜を昔の姿に戻そう”をスローガンに活動を行っている。会員数150名。1/3が小中学生。会費と各種団体からの寄付で運営している。自然保護団体サンクチュアリジャパン舞阪とは互いに協力体制にある。 |
浜の環境保全活動、浜での希少種生物の保護、地元住民(主に小中学生)、浜を利用する人達への啓蒙活動、定期観察会、月報発行等 |
「平成13年度版環境NGO総覧」(財)日本環境協会刊をもとに抽出し、聞き取り等により情報を補間して作成