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5.馬頭琴とホーミー
 翌月曜日は、日本大使館と現地JICA事務所を表敬訪問した。
 火曜日はMCAAの次長メンドバイヤーさんに会うことになった。訓練所所長、ほか各担当の方々に集まっていただいた。次長は弱冠38歳だったが、流暢な英語で組織と航空の現状を説明した。MCAAは1993年に設立され、それまではモンゴル航空と一体だった。訓練センターは2年前にできたが、スタッフは少ない。リフレッシュと航空路管制の訓練を行っている。年間36名をタイ(エアロタイ)へ訓練に送り出している。他にスウェーデン(スウェドアヴィア)へも出している。これが訓練生にとっては国外へ出る数少ないチャンスにもなっている。またセンターには、ADSのシミュレーターも設置されている。国内にはADS-Bの機器を装備した航空機が2機、GPSは全機に装備されているという。MSASの整備とともに訓練センターを新たに建設する予定があり、訓練器材の供与について強い要請があった。
 ホテルへ戻る途中、翌々日に決まった地方空港ウンドルハーンへのチケットをモンゴル航空へ出向いて購入した。チケットへの記入が手書きで、ひどく時間がかかってうんざり。街の商店と違って客への応対もそっけない。国の機関の感覚が抜けていないのか。
 この後、カシミヤの工場を案内してもらい、製造直売で安いのでついつい買ってしまう。なお、きつねやかわうそなどの毛皮が安い。それもそのはず、当地はこれらの禽獣を適当に捕獲しないと増えすぎて問題が起こるのである。
 夜はメンドバイヤ次長がチンギス・レストランへ我々を案内してくれた。完全なモンゴル料理の店だったが、バイキング形式で好みのものだけと取ればいいので、羊肉類のしつこい料理ばかりで参ってしまっている胃袋には助かる。でもウオッカが出るのである程度は油ものを入れないとだめだ。「トクトーイ!」やはり乾杯は一気飲みだ。しばらくたつと、この店の出し物と思われる民族衣装に身を包んだ楽団員による民族音楽の演奏と唱の独唱があった。伝統的な楽器、馬頭琴中心の演奏だ。唱は哀愁を帯びた少し甲高い感じの唱い方だ。
 翌日は、2ヶ所の地方空港行きの1ヶ所が満席でチケットが入手できず、MCAAが陸路2日がかりで行くことも検討してくれたが、600キロもあるので、運転手が難色を示し断念した。高速道路もなく悪路の一般道路では無理もない。我々にとっても取り止めたほうがよかったと思う。そんなわけでこの日は資料整理となり、午後は恐竜の骨などを陳列してある自然史博物館へ出かけ、夜は坪内さんと、モンゴル大学の教授、JICA専門家(医者)でゲル・レストランへ行った。
 ここは、遊牧民の住居ゲルを大きく改造し、この中でゲルでの生活の雰囲気を味わいながら食事をすることができるものである。ドイツの技術をとりいれたモンゴルのチンギスビール、ハンブロイビールに伝統料理ボーズ(鮫子のような形をしている)、バンシ(丸いシュウマイ)、ホーショール(肉にころもをつけた揚げ物)などが出される。しばらくすると、昨夜と同じ馬頭琴などによるモンゴル音楽の演奏とホーミーという歌唱法による唱が披露された。お経を聞いているようでもあるが、同時に二種類の音程の発声をする。頭上で楽器を弾いているような高い音(声)が聞こえる。ホブド(西部地域の県)の人がよくこれをでき、子供のころから練習しないとできないというが、近隣の旧ソ連の人にもできる人がいるという。
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ゲルの中での民族衣装に身をつつんだ楽団員による馬頭琴による演奏
6.未舗装の滑走路
 今日は地方空港、ウランバートルから300キロ東にあるウンドゥルハーンへ行く日だ。行く前から何かと不安があった。まずは使用機材だ。旧ソ連製アントノフ24。整備は十分か。事故はいつも定員または荷物の積み過ぎが原因で、平気でそういうことをやるという。チェックインは同行のMCAAのドルジュレンさんがやってくれるので安心していたら、パスポートを出せと言っているといわれて困った。私だけ持っていない。気がついたらMCAA発行の身分証明書を持っていたのでこれが目に入らぬか!とやって無事パス。他の旅客の処理に相当時間がかかっていたがとにかく荷物検査も通過、ランプバスで駐機場へ。とそこで驚いたことに搭乗機は舗装のない草のはえた地上に駐機して準備をしているではないか。後でわかったことだが、これで驚いてはいけない。目的地の滑走路は舗装なしだった。バスは航空機の側まで行って搭乗しようとタラップを何人か登ったところでちょっと待った!またバスに戻って待つことしばし。結局舗装された駐機場に戻って搭乗、客席はほぼ満席、荷物室には担架に寝かされた病人が乗っていた。積み過ぎは見た限りでは大丈夫のようだ。スチュワードは少し日本語を話す。なぜか少し安心したところで、機も無事車輪が滑走路を離れた。やれやれ。途中は揺れることもなくほぼ快適、先に述べた未舗装の滑走路に着陸した。機は地上走行してランプへ。そこには建てられてまだ間もないターミナルビルがあった。何人かの職員に迎えられて(実は初めは職員か旅客か区別がつかなかった)早速管制塔へ。旧ソ連製のVHFとHFの送信機、風向・風速及びQNH(気圧)表示機、AFTN(航空固定情報通信網)などの機器が設置されていた。全員で2名いる管制官、1名が勤務中だった。機器室、発電機室なども見せてもらった。古い部品棚にはこれまた古い交換部品が。これらがなくなったらまたロシアから入荷するのだろうか。一通り見学して昼食時間になってしまった。ビルの一室に案内されたが、そこにはどこで用意したのかオードブルに始まる食事が用意されているではないか。せっかくなのでがんばっていただいたが、スープとマンドウーでお腹が一杯になり、残りは職員の皆さんに食べてもらった。食事が終わってからYさんが言った。「ここは水がないところ、食器類は洗っていると思いますか。私はスプーンには少しだけ口をつけるようにしました」。ゲッ、もう遅い!多分近くの町から運んできたのでしょう。食事は暖かかった。職員の親切なもてなしに感謝した。
 先程の便がさらに東のチョイバルサンへ行って戻ってきた。滑走路の向こうに大きな砂埃が立ち、しばらくして機体が見えてきた。砂埃は機体に影響はないのかと思ってしまう。よくぞ無事でという感じだ。これで我々もウランバートルへ戻れる。こちらへ来るときの不安はもうほとんどなくなっていた。夜はメンドバイヤー次長、ダヴァ部長たちと日本料理店へ行き刺し身やお酒を紹介した。日本語の話せるお姉さんもいて、この店は我々の今回の調査で大きな救いとなっていた。
 最終日は日本大使館へ調査の報告に行った。MCAAとしては、第二空港が第1優先順位、滑走路だけでも作って欲しい旨のモンゴル側の意向を伝えた。大使館からは、シニアボランティアは既に来てもらっている。これからも歓迎するとの話があった。
 その後、MCAAではダグヴァ局長が挨拶をし、重ねて第二空港、MSAS、訓練センターなどについて要請があった。
 帰国の便はM0903便。朝7時45分発だ。早朝にもかかわらず、チンギスボールドさんが我々をホテルから空港まで送り届けてくれた。外はマイナス4度。車の窓が白く凍る。空港でのチェックインはスムース、心配していた外貨の没収もなかった。帰りは北京上空経由関西空港へ直行。所用時間3時間40分。意外と速かった。
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広大な新空港予定地ズーモッド
7.おわりに
 日本の約4倍の面積に人口231万人、現在GNP995百万米ドルのモンゴルは1989年末から民主化運動が起こり、92年の新憲法制定とともに、政治、宗教、表現、職業選択など基本的人権の保証が明記された。経済では91年から劇的な変化が始まり、旧ソ連の援助で成り立っていた産業がソ連経済の崩壊とともに破綻し、市場経済が導入された。しかし生活必需品が不足する一方、インフレもすすみ、市場経済で利益を得たものとそうでないものの格差が広がっているという。
 国家の体制は改革路線から社会の安定へと向かっているいるというものの、物価は必ずしも安くない。共産主義の体制に逆戻りしているということも聞いたが、政治家を含めて優秀な人材がいないという。経済、社会、教育などほとんどすべての分野におけるインフラ整備はまさにこれからといった印象だ。最近も干ばつによる被害があったというが、温暖化により今でさえ緑の木々が少ない山々は今後どうなるのか。多くの問題をかかえたモンゴル。筆者にとって救いは、社会主義体制であった割には、店に入ると商売っ気たっぷりに、いらっしゃいませと近づいてくる店員と、日本人にとてもよく似た顔立ちの人々に接することができたことだった。

お詫びと訂正

 本誌(No.133)<寄稿> フィリピン国マニラ首都圏鉄道見聞録におきまして以下の点に誤りがありましたので訂正してお詫び申し上げます。

 P22(3)MRT2号線の文中9行目
 「本プロジェクトはBOT方式が採用され、」下線部を削除願います。
会員一覧
  平成13年11月末現在 (五十音順)
正会員
No 会員名 No 会員名
1 朝日航洋(株) 17 (株)日通総合研究所
2 (株)(株)梓設計 18 (株)日本海洋科学
3 (株)アルメック 19 (財)日本気象協会
4 (株)エコー 20 (株)日本空港コンサルタンツ
5 (財)海外造船協力センター 21 日本工営(株)
6 (社)海外鉄道技術協力協会 22 日本交通技術(株)
7 (株)企画開発 23 (株)日本港湾コンサルタント
8 (財)航空保安無線システム協会 24 日本輸送エンジニアリング(株)
9 (財)国際観光開発研究センター 25 (株)ニュージェック
10 国際航業(株) 26 (株)パシフィック コンサルタンツ インターナショナル
11 (財)国際臨海開発研究センター 27 (株)パデコ
12 セントラルコンサルタント(株) 28 (株)福山コンサルタント
13 中央復建コンサルタント(株) 29 復建調査設計(株)
14 電気技術開発(株) 30 (財)マラッカ海峡協議会
15 (株)トーニチコンサルタント 31 三井共同建設コンサルタント(株)
16 (株)日建設計 32 八千代エンジニヤリング(株)
 
賛助会員
No 会員名 No 会員名
1 伊藤忠商事(株) 19 日本郵船(株)
2 川崎重工業(株) 20 (株)日本エアシステム
3 北野建設(株) 21 (財)日本海事協会
4 (株)クボタ建設 22 日本空港ビルデング(株)
5 (財)航空交通管制協会 23 (財)日本水路協会
6 (株)航空システムコンサルタンツ 24 日本電気システム建設(株)
7 五洋建設(株) 25 日本無線(株)
8 (財)自動車検査登録協会 26 (株)野村総合研究所
9 住友商事(株) 27 前田建設工業(株)
10 全日本空輸(株) 28 (株)マリコットサービス
11 大成建設(株) 29 丸紅(株)
12 (株)ツネイシ・リサーチ アンド デベロップメント 30 三井造船(株)
13 東亜建設工業(株) 31 三井物産(株)
14 (株)東芝 32 三菱重工業(株)
15 東洋建設(株) 33 三菱商事(株)
16 (株)トーメン 34 (株)三菱総合研究所
17 新潟県 35 若築建設(株)
18 日商岩井(株)    
協会役員及び委員会委員長等名簿
  平成13年11月末現在 (五十音順)
役 員
役員名 氏名 所属 役職
会長 竹内 良夫 (株)竹内良夫事務所 代表取締役社長
理事長 山下 哲郎 常勤  
常務理事 新行内博幸  
理事 男竹 昭  
岩橋 洋一 日本交通技術(株) 代表取締役会長
小笠原 康夫 セントラルコンサルタント(株) 代表取締役社長
岡田 宏 (社)海外鉄道技術協力協会 最高顧問
中禮 俊則 日本工営(株) 相談役
中島 光一 電気技術開発(株) 代表取締役
西田 幸男 (財)国際臨海開発研究センター 理事長
前田 進 (株)日本港湾コンサルタント 代表取締役社長
森田 祥太 (株)パシフィック コンサルタンツ インターナショナル 代表取締役社長
諸岡 薫 (株)トーニチコンサルタント 代表取締役社長
監事 牧 英二 (株)日建設計 取締役会長
山岡 通太郎 (財)日本ナショナルトラスト 理事長
 
顧問 小松義和
 
専門委員会及び部会
委員会名 委員長・部会長名 所属 役職
編集部会 井沢 滉 日本交通技術(株) 取締役海外室長








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