(1)PNR(Philippine National Railways)
マニラ首都圏をサービスする鉄道としては、フィリピン国鉄(PNR)通勤線があげられる。軌間1,067kmの全線非電化で、マニラ首都圏内の北線のカロオカンから南線スキャットまでの31kmが複線であるが他は単線である。最大時には、約1,296kmの路線延長を有したが、現在営業されているのは、約479kmであり、残りは休止または廃止路線となっている。このうちマニラ近郊では、通勤北線・南線と呼ばれる路線が営業されており、年間で約300万人(96年)の旅客を運び、通勤・通学・買い物の足となっている。
PNRの輸送量は、道路輸送との競合等により減少傾向にあったが、近年、鉄道輸送が見直され始め、駅の改良や通勤線の強化などにより、輸送量は若干持ち直してきているところである。しかし、依然としてPNRは経営上赤字であり、良質な公共サービスを提供する運輸事業としてPNRの改善が望まれているところである。なお、現在、日本の援助によって南幹線や通勤南線のリハビリ事業が行われているところである。
【参考】PNRの歴史と経緯
フィリピンの鉄道はイギリス系のマニラ鉄道会社によって、1892年に北線マニラからダグバン間195kmが建設された。南線も同様に1941年までに、マニラからレガスピィ間474kmが建設された。しかし、その間1902年に同鉄道はイギリスの会社からアメリカの会社へと再編され、1917年にはそのアメリカの会社からフィリピン政府へと売却された。
最盛期には1,296kmを有した同国の鉄道であったが、1957には赤字に転落し、その後、頻発するストの解決、経営の建て直しのため、1964年6月、現在のフィリピン国鉄(PNR)が創設されたものである。
その後、長い間メインテナンスの不備により、鉄道施設は著しく老朽化し、輸送サービスレベルが悪化し、競合する道路輸送に遅れをとってしまった。加えて、1991年にピナッボ火山が大噴火を起こし、北線は火山灰に覆われ壊滅的な打撃を受け、運転が廃止されてしまった。その後10年以上も経つが未だに復旧の見込みが立っていない。
一方、南線においては、マニラ首都圏の人口拡大に伴い、南線に通勤電車を走らせる計画が持ち上がった。Manila Calabarzon Express(通称MCXと呼ばれる)計画はPNRの既存の軌道を改良し、高頻度通勤列車を走らせる予定であったが、その後の同国の経済悪化に伴い実施に至っていない。
このようにして、最盛期には1日65本、日平均4万人を輸送したPNRであったが、現在のPNRは北線6km(マニラ〜カローカン間)および南線440kmの計446kmにまで縮小してしまい、沿線は不法占拠者に占領され計画的な運行もできず、最も高頻度のマニラ通勤線でも1日10往復しか運転されていない。
FIGURE3.1 PNR NETWORK
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出典:MMUTIS(JICA)
PNRの年次別輸送実績
表1.PNR中長距離旅客輸送実績(1990-2000年) (単位:千)
年 |
輸送人員 |
輸送人キロ |
運転本数 |
列車キロ |
車両キロ |
1980 |
2,466 |
415,727 |
11,123 |
2,299 |
13,066 |
1990 |
928 |
270,953 |
1,824 |
723 |
3,432 |
1991 |
655 |
182,103 |
1,479 |
585 |
2,732 |
1992 |
467 |
120,992 |
1,335 |
537 |
2,150 |
1993 |
402 |
101,770 |
831 |
343 |
1,636 |
1994 |
426 |
106,272 |
838 |
333 |
1,768 |
1995 |
598 |
163,558 |
1,629 |
529 |
2,782 |
1996 |
299 |
68,515 |
906 |
292 |
1,395 |
1997 |
613 |
171,609 |
1,453 |
587 |
3,364 |
1998 |
578 |
180,839 |
1,393 |
619 |
3,475 |
1999 |
541 |
172,327 |
1,428 |
667 |
3,417 |
2000 |
374 |
123,497 |
1,343 |
612 |
2,658 |
表2.通勤線区の旅客輸送実績(1990-1999年) (単位:千)
年 |
輸送人員 |
輸送人キロ |
運転本数 |
列車キロ |
車両キロ |
1980 |
4,958 |
  |
22,800 |
867 |
2,837 |
1990 |
5,561 |
70,170 |
13,866 |
488 |
1,677 |
1991 |
4,508 |
59,553 |
9,117 |
338 |
1,426 |
1992 |
2,303 |
30,489 |
6,603 |
235 |
865 |
1993 |
4,639 |
63,487 |
11,669 |
410 |
1,425 |
1994 |
5,007 |
69,761 |
12,520 |
443 |
1,274 |
1995 |
4,055 |
56,837 |
9,864 |
336 |
1,137 |
1996 |
3,007 |
55,016 |
10,939 |
416 |
1,202 |
1997 |
3,548 |
52,413 |
9,759 |
389 |
1,067 |
1998 |
4,702 |
65,829 |
8,756 |
286 |
1,068 |
1999 |
5,501 |
70,068 |
9,810 |
311 |
1,192 |
2000 |
3,504 |
49,061 |
6,048 |
198 |
800 |
出所:1980-1994年値はPhiljppinesTransport Strategy Study,Rail Sector Review 1996,ADB.
1995-1996,1999年値はAccomplishment Report,CY1996,PNR
1997-1998年値はResults of Train Operations as of December,1998,PNR Corporate Planning & Maintenance Servicesによる。
(注)PNR通勤線区はManila(Tayuman)・Caloocan〜Calamba(マニラ起点56km)及びCarmona支線(San Pedro分岐〜Carmoma間5km)をいう。
出典・フィリピンにおける鉄道を取り巻く最新情報(JICA専門家 伊藤氏作成レポート)
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