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上映作品について
ファンタジーオペラ 「かいじゅうたちのいるところ」
 
■作曲……オリヴァー・ナッセン
■原作・台本・舞台装置……モーリス・センダック
■演出・振付……フランク・コルサロ
■演出助手……ロバート・カーセン
■照明……ロバート・ブライアン
■振付助手……センギス・セイナー
 
◎マックス(男の子)……カレン・ビアズレー
◎ママ/ツィッピー(めすのかいじゅう)……メアリー・キング
◎モイシュ(ひげのかいじゅう)/山羊かいじゅう……ヒュー・ヘザリントン
◎ブルーノ(つののかいじゅう)……ジェレミー・ムンロ
◎エミール(おんどりかいじゅう)……スティーブン・ライス=ウィリアムズ
◎バーナード(おうしかいじゅう)……アンドリュー・ギャラシャー
◎影/動き……ジョニー・ウェストン、ペリー・デヴェイ、センギス・セイナー、ブライアン・アンドロ、バーナード・ベネット、マイク・ギャラント
 
■指揮……オリヴァー・ナッセン
■演奏……ロンドン・シンフォニエッタ
 
●収録:1984年1月27日、グラインドボーン ナショナルシアター
●使用レーザーディスク:パイオニアPILC-9022(現在は製造中止)
●日本語字幕:蒲田耕二
 
この作品と、オリヴァー・ナッセンとモーリス・センダックによるもう一つのオペラ「ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!」(日本語版絵本のタイトルは「ふふふん へへへん ぽん!」)は、一組のオペラとされており、演奏会形式も含め、並べて上演される場合が多い。本来なら今回も併映すべきところだが、このレーザーディスクに収録されている「ヒグレッティ」は現在使用している1999年版とは異なっているので、というナッセン自身の希望により、「かいじゅうたちのいるところ」のみの上映とさせていただいた。
 
ナッセンとセンダックは、共通の知人の紹介で1975年に出会い、すぐに親しくなった。いわゆる子供向けとされているオペラ(たとえば「ヘンゼルとグレーテル」など)についての見解も一致し、ふたりともそれまでオペラの経験はなかったが、まず「ヒグレッティ」オペラ化の準備にとりかかった。そのスケッチがある程度まで進んだ1978年、二人はブリュッセル・オペラから「かいじゅう」のオペラ化を委嘱され、先にそちらを完成させることになった。そして1980年の初演を経て改訂され、1983年に現在の版が完成した。次いで「ヒグレッティ」は、グラインドボーンのためにBBCが委嘱し、1984年に初演され、翌85年からこれらは二部作としてグラインドボーン音楽祭のレパートリーとなった。
 
原作は少ない言葉で簡潔に書かれた文章だが、センダックはナッセンと協力してオペラのために新しいセリフや「かいじゅう語」(幼児語やイディッシュ語をもじったものらしい)を書きおろし、また原作では表現されていない動作や演出も加えられている。全1幕で、序曲と2つの間奏をはさむ9つの場面から成り、各場面には、豊かなアイデア――たとえば戴冠式の場面の音楽は「ボリス・ゴドゥノフ」のそれを彷佛させるなど――が凝縮された、まるで精巧なミニアチュアのような音楽が与えられている。
 
ナッセンもセンダックも、自分たちは子供のためだけに書くことはできないと語る創作家であり、二人はこの作品を「ファンタジーオペラ」と呼んでいる。ナッセン自身「子供向けに妥協しないで書いたからこそ、子供にも受け入れられるのだと思う」と語っているが、それは子供も含めたすべての人に向けた作品であるという意味であろう。ビデオを観れば、確かに幻想的で愉快な舞台が展開されている。だが、物語自体が子供の心の複雑な深層を垣間見させるものであり、音楽もきわめて密度が高く洗練されたものであることに気付けば、この作品が一般に「子供向け」と言われているどのオペラとも違う、それどころかどのオペラのタイプにも属さないユニークな存在であることがおわかりいただけると思う。
 
ところで、ブリュッセルの委嘱はユネスコの「子供の年」を記念するものだったせいか、ナッセンによれば、多くの音楽の先生たち――つまり大人たち――は、音楽の「難解さ」に頭を痛めていたという。さらにその初演を観たBBC関係者も、「これは子供向けの音楽ではない」として、イギリスでの公演をキャンセルすると言い出し、それがナッセンに演奏会形式による上演のために手を入れさせるきっかけとなったそうである。芸術作品に対して、子供向けかどうかなどということを大人が勝手に決めつけようとするのは、いずこも同じのようである。








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