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援助の仕方
 発生機序で述べたように、全ての虐待には4条件がそろっているといわれ、援助の原則はこの4条件を軽減することといえます。
 
1 親を受容し、精神的援助者になって、親の社会的孤立をなくす
2 社会資源を導入し、育児と生活のストレスを軽減させる
3 子どもに生じている問題を、親に負担をかけず解決する方法を導入する
4 親の負担が軽減されてから、親の生育歴などにより起こった育児行動への気づきと改善をはかる
 
 母子保健推進員は、この1・2を行うことができます。2では、具体的に育児の負担を軽減するために育児サークルに誘ってあげたり、地域でお手伝いできそうな人を紹介することもできるでしょう。場合によっては、ストレスを解決するお手伝いができるかもしれません。孤立しがちな子育てには、母親が気易く利用できる場が求められていますので、地域でサークルのような場づくりを積極的に進めていくこともよいでしょう。
 さらに、地域にいることで家事育児の実際や夫婦関係など家族の背景も把握しやすく、なによりも子どもの状態が把握できます。
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 危機もキャッチしやすいので、時期を逸さずに、まずは担当保健婦に知らせましょう。
 虐待された子どもは、乳幼児期から大人に愛されないことにより自尊心や人間への基本的信頼感がもてず、良好な対人関係を持続することが困難です。
 このような子どもが親になると、子どもに感情移入ができないために親の要求が優先されて、子どもが親の要求に素直に応じないと虐待が起こります。
 感情移入された経験がなく、自尊心をもてず、人を信頼できない親は、親自身が援助者から感情移入され尊重される体験をすることで、わが子に感情移入ができるようになるといわれています。親の中にある、こうありたいと思える親を育てていくことが重要です。
 そこで育児をきっかけに援助を行う場合でも、身体的ケアの知識や技術を伝えるだけでなく、子どもの気持ちや子どもが発しているサインの意味を伝えたり、子どもの発達に応じた特有の行動の意味などを理解してもらうようにします。
 具体的には、つぎのような援助を行うことで、良い親子関係を発達させていくことができます。
 
母親に対する具体的な援助
 
子どもを拒否したくなる母親の気持ちを理解し、共感する。
子どもへの気持ちや感情を言葉で表現できるよう促す。
子どもが発しているサイン(アタッチメント行動や問題行動)を一緒にとらえ、その意味を理解できるようにする。
子どもの示す行動への対処方法をモデルで示し、母親がやってできたことをほめる。
日常生活の中で、子どもへのタッチングなどの身体接触、眼と眼を合わせるアイコンタクトや微笑みかけなど実際にやってもらい、励ます。
母親の行ったことに対する子どものちょっとした情緒や行動の変化を母親と一緒に確認し、母親を勇気づける。
 
 平行して、現在親が行っていることは虐待であることに気づくような関わりと、具体的にカッとなったら子どもから離れて隣の部屋に行くなど、虐待行為を回避することができるように助言することも必要でしょう。
 
子どもへの関わり
 虐待されている子どもには、虐待による心の傷への心理的治療が必要です。しかし、受け皿としてそのような資源は乏しく、専門家でなくても子どもの心の傷をいやすような関わりをしていくことが必要です。
 子どもに安心できる場を与えるのが最も重要で、子どもを抱きしめ、ここは安心できる場だということがわかるようにします。
 また、問題行動で振り回されることがありますが、一貫した態度をとり、子どもの自尊心と子どもが選択したことを尊重します。
 「こんなことになったのはあなたが悪い子だからではない」というメッセージを送り、「見守る人間がここにいる」と子どもに知らせることが、将来子どもが親になったとき虐待する親にならないために必要です。
 
難しい場合の対処
 攻撃的な親、援助が受け入れられない親などの場合は、保健婦さんなどの専門職にこの状況を伝え、関わってもらいましょう。このような親はリスクが高いので、状況をきちんと伝えることが重要です。
 また、虐待者が父親の場合、母子保健推進員では直接対応ができなくても、母親が援助を受け入れてくれると虐待が軽減するというデータがあります。母親が援助によって、きっかけとなるような子どもの行動を少なくさせたり、子どもを守るようになることで状況はかなり好転します。
 反対に虐待者が母親自身や父親であっても、子どもに生じていることに認識がない場合は重症度が高くなります。問題認識を持っていないと、援助が受け入れられないことが多くなり、子どもの育児の肩代わりなどの育児支援の導入が必要になります。母子保健推進員が親が問題認識を持っていないことを把握したら、その状況を保健婦さんなどの専門職に伝えましょう。








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