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特別セッション SS3
溶接・接合技術の最近の進歩(最新の溶接技術はどこまで進んだか)
(財)新産業創造研究機構 松井繁朋
大阪大学 池内建二
 本特別セッションは,地域企業,特に地域製造業への貢献を念頭において企画されたものである.すなわち,国内外の学者,専門家が一堂に会する絶好め機会を利用して,溶接・接合技術の主要分野に関する最新の技術情報を地域企業の経営者や技術者に提供できることを意図して企画されたものである.
 本特別セッションでは6件の招待講演と1件の特別コメントが行なわれ,アーク溶接,溶接ロボット,レーザ加工,マイクロ接合,軽合金接合等に関して,経済効果を含めた幅広い視点からの講演と,ASEAN諸国の現状と取り組みについて紹介があった.以下に講演の概要を述べる.
 アーク溶接に関しては,最近のガスシールドアーク溶接電源について,(株)ダイヘンの原田氏よりわが国におけるガスシールドアーク溶接電源の技術動向,最近のガスシールドアーク溶接電源の特徴と溶接プロセス,用途に応じた溶接電源の選択指針等が示された.
 溶接ロボットに関しては,松下溶接システム(株)の向井氏より最新のアルミ溶接ロボットシステムについて,アルミ溶接の最大の課題であるワイヤ送給系の課題を解決した新しいプッシュ・プルワイヤ送給機構を搭載した新しいアルミ溶接ロボット溶接システムが紹介された.
 レーザ加工に関しては,三菱電機(株)の村井 融氏より,レーザ溶接・切断技術の実際と題して,レーザ加工機の市場動向,最新加工機および付加装置の機能や性能,溶接,切断,穴明けに対する豊富な加工事例等が紹介された.
 マイクロ接合に関しては,大阪大学先端科学技術共同研究センターの竹本氏より,環境対応実装プロセスとして実用化が進行しつつある鉛フリーマイクロソルダーリング技術の最新動向について,鉛フリーはんだの概要とその諸特性,世界における研究開発プロジェクトの動向等が紹介された.
 さらにアルミ,マグネシウム,チタン合金等の軽合金に対する溶接・接合技術に関しては,TWIのR.Dolby氏によって,過去10年間で飛躍的に進歩した摩擦撹拌接合,リニアー摩擦溶接,自己穿孔式リベット,クリンチ(かしめ)継手,Nd:YAGレーザ等が紹介された.
 また,近隣諸国における溶接工業会の現状と動向に関しては,シンガポール溶接学会長であるC.P.Ang氏よりASEAN諸国およびオーストラリアの溶接事情の紹介,ハノイ工大のH.Tung氏よりベトナムの溶接事情についてのコメント等が行なわれた.
 以上,本特別セッションは,姫路および京阪神地区等の地域製造業の参加者約50名を含めて,全体で100名以上の参加があり,活発な質疑応答のみならずASEAN諸国等の海外との協力,連携関係についても議論が行われ,大変に有意義なセッションであった.
 
セッション AA1
先進アーク溶接プロセスI
(株)ダイヘン 上山智之
 本セッションでは,最近話題のアーク溶接プロセスについて招待講演1件,一般講演5件が座長Dilthey教授(アーヘン工科大,ドイツ)と山根助教授(埼玉大)の司会によって行われた.なお,一般講演では当初6件の講演予定であったが,1件の講演につきキャンセルがあった.シンポジウム最終日で午後からのセッションにもかかわらず多数の聴講者を集め,活発な質疑がなされ盛会であった.
 招待講演では,Pekkari氏(ESAB,スエーデン)より,四半世紀におけるアーク溶接プロセスの普及状況の推移を西欧,米国および日本について解説がなされ,タンデムMAG溶接,レーザ・アークハイブリッド溶接,電磁パルス溶接やFSW等の現在の課題を克服する最近の成果について紹介がなされた.さらに,溶接・切断産業における環境維持への取り組みの必要性についても言及された.
 一般講演では,1)清水氏(神戸製鋼所)より,銅メッキレスソリッドワイヤによるMAG溶接の給電チップにおける接触電気抵抗および送給抵抗を測定し,銅メッキワイヤとの比較検討した報告がなされた.2)Kreindl氏(Fronius,オーストリア)より,1ノズル内に2電極ワイヤを配備したタンデムMIG/MAG溶接システムによる溶滴移行現象や波形制御法について示され,鉄鋼材料やアルミニウム合金における薄板から厚板にいたる様々な高能率溶接適用事例について紹介された.3)仝氏(ダイヘン)より,交流パルスMIG溶接のEN比率パラメータによる溶け込み制御に着目して,3Dレーザセンサによるギャップ情報を検出し,この情報に基づいてEN比率と溶接速度を適応制御する溶接システムについて紹介された.4)Huismann教授(Bundeswehr大,ドイツ)より,あるワイヤ突き出し長における短絡時とアーク時のワイヤ突き出し部の予熱効果が解析され,その解析結果に基づいて溶接電流値やワイヤ送給速度を制御することによって突き出し長が長くなっても安定したアーク溶接が行え高溶着溶接が可能であることが示された.5)中村氏(物質材料研究機構)より,数値シミュレーションによる評価に基づいて低周波パルス電流波形とワイヤ送給速度変動の位相差や低周波パルス電流波形とトーチ位置変動の位相差を変化させた場合の狭開先GMA溶接における溶け込み形状の制卸結果について示され,適切な位相差によって安定したアークが得られ狭開先内の入熱分布および溶け込み形状が制御できることが報告された.
 
セッション AA2
先進アーク溶接プロセスII
松下溶接システム(株) 印南 哲
 本セッションはJ.Kreindl氏,上山氏の司会により行われた.7件の一般講演があり,うち海外からの講演は3件であった.MAG溶接の自動化関連が3件,MAG溶接のシールドガス関連が1件,MIG溶接関連が1件,SAW関連が1件,品質モニター関連が1件と多彩で活発な質疑があった.以下にそれぞれの講演の概要を記す.
 1)開先溶接の初層溶接において,CCDカメラによって得られたギャップやワイヤ先端立置情報に基づいてパルス電流幅,溶接速度,ワイヤ送給量を制御することでアーク長およびビード高さを最適化する方法がL.H.Sharif氏らによって報告された.2)タンデムSAWの片面長尺溶接において,終端凝固割れを防止するために有限要素法による解析を基にして加熱装置を開発し,造船部材に適用した事例がH.Herold氏らによって報告された.3)S.W..Simpson氏らが開発した溶接時の電流・電圧波形情報を統計的に処理してリアルタイムに溶接欠陥を検出する方法がMAG溶接の狙い位置ずれ検出だけでなく,抵抗スポット溶接においても有効になりうることが紹介された.4)軽構造化で近年注目されているマグネシウム合金のMIG溶接に関してワイヤ,溶接出力制御形式,ワイヤ送給方式を開発して低スパッタ化と高品質溶接部を実現した報告がH.Wohlfahrt氏らによってなされた.5)T継ぎ手の片面溶接において裏波溶接を確実にかつ効率的に行うためにワイヤねらい位置を開先内の2カ所にずらせて溶接するBOB溶接法に関して施工裕度拡大検討がなされた結果が高谷氏らから報告された.6)船穀パネルの上向き溶接に適用する2トーチシステム(HDAW)において,溶融池の力学的平衡状態を表す数値モデルを用いて溶接プロセスの制御方法を検証した結果が西氏らから報告された.7)MA G溶接におけるシールドガスの効果がArベースで検討され,スパッタ低減,電着コーティング後の耐腐食性向上,亜鉛メッキ鋼板の耐ピット性向上のためには適量の酸素および炭酸ガス添加が有効であるとの結果が池上氏らから報告された.
 
テクニカルツアー
大森 明,豊原 力,中田一博,山田 猛
 3日間の会期中,毎日午後にTechnical Visitとして近隣の工場・研究施設見学のバスツアーを実施した.第1日目1件(ツアーA),第2日目1件(ツアーB),第3日目2件(ツアーC,D)の合計4件である.いずれも有料(A,B,D:2000円,C:3000円)であり,30名規模のツアーとし,海外参加者を優先する措置をとった.しかし,明石海峡大橋を含むツアーCで海外参加者が8名と最も多かったのを除いては,海外参加者は3〜4名と低調であった.参加者合計は49名,うち海外参加者(国内滞在者も含む)は19名であった.ツアーは会場受付前に集合後,日本旅行手配の観光バスにて会場から出発し,見学後,また会場に戻るルートとし,実行委員会担当者および,もしくは見学先担当者がバスに同乗して見学に同行した.また一般観光地を含むツアーCと遠方まで出向くツアーDでは通訳を兼ねた添乗員も同行した.いずれのツアーも見学先担当者の万全の受入れ態勢に支えられて,事故も無く,無事予定どおりに会場に帰着することができた.実行委員会ツアー担当者一同より,見学を受け入れて頂いた(財)近畿高エネルギー加工技術研究所,三菱重工業(株)神戸造船所,川崎重工業(株)明石工場,(財)高輝度光科学研究センターの関係各位に厚くお礼申し上げます.なお,反省点として,参加者のキャンセル状況が見学当日もしくは直前まで判明せず,結果として受入担当者にご迷惑をお掛けしたことが挙げられた.以下に各ツアーの実施状況を示す.
 
 ツアーA:大森 明(大阪大学)
 1.日時:平成13年11月20日(火) 13:30〜17:00
 2.場所:(財)近畿高エネルギ加工技術研究所
 3.参加者:7名(うち海外参加者4名)
 4. 実施状況:研究施設並びにものづくり支援センターの概要説明,研究施設見学(50kWCO2レーザ加工装置,5.5kWYAGレーザ加工装置,減圧プラズマ・レーザ複合溶射装置),ものづくり支援センター見学(短波長レーザ加工装置,高精度CO2レーザ加工装置,プラズマPVD・アークイオンプレーティング複合薄膜装置他),質疑応答.
 
 ツアーB:豊原 力(三菱重工業(株))
 1.日時:平成13年11月21日(水) 13:30〜17:00
 2.場所:三菱重工業(株)神戸造船所
 3.参加者:16名(うち海外参加者4名)
 4.実施状況:三菱重工業(株)神戸造船所の概要紹介15分,見学に関連する技術説明40分(神流川水力発電所用HT100水圧鉄管溶接装置,大型コンテナ船の溶接施工要領),現場見学1時間,鉄構部(トンネルシールドマシーン鋼体,道路橋,水圧鉄管溶接装置),造船工作部(造船組立工場,多電極溶接装置,船台,大型コンテナ船,岸壁),機電工作部(つくば都市交通用トンネルシールドマシーン),質疑応答20分.
 
 ツアーC:中田一博(大阪大学)
 1.日時:平成13年11月22日(木) 13:30〜18:00
 2.場所:明石海峡大橋および川崎重工業(株)明石工場
 3.参加者:12名(うち海外参加者8名)
 4.実施状況:まず,明石海峡大橋を渡り,淡路ハイウエイ・オアシスより明石海峡大橋全景見学の後,再び明石海峡大橋を渡り,15:00川崎重工業(株)明石工場着.同社研修センターにて会社・明石工場・汎用機カンパニー概要説明の後,会社仕立てのバスにて工場まで移動後,現場見学(オートバイエンジン・車体組み立てライン,生産管理システム,完成車検査ライン),バスにて研修センターまで移動後,質疑応答.見学時間約2時間.
 
 ツアーD:山田 猛(川崎重工業(株))
 1.日時:平成13年11月22日(木) 13:00〜19:30
 2.場所:(財)高輝度光科学研究センター(SPring8)
 3.参加者:14名(うち海外参加者3名)
 4.実施状況:本ツアーはシンポジウム開催地である兵庫県井戸知事の肝入りで,7WSのために特にプログラムされたものである.SPring8を直接見て貰い世界に認知して貰おうとの願いが込められている.当日,13時にバスにてシンポジウム開催場所の神戸国際会議場を出発し,予定通り15時に兵庫県佐用郡播磨科学公園都市のSPring8に到着した.放射光研究所の吉良所長のご挨拶とSPring8の概要説明を受けた後,施設の見学を行った.本施設は平成9年に日本原子力研究所と理化学研究所が共同で完成させ,その後(財)高輝度光科学研究センターが世界中から多くの研究者を集めて運営している.電子ビームの加速エネルギーが80億電子ボルト(8GeV)に達する大型放射光施設で,世界最大のエネルギーを有する.蓄積リングの周長は1.4km以上あり,これに繋がるビームラインは64本に達する.見学では偏向電磁石,他の展示物があり,電子を加速させるメカニズムが分かる仕組みの模型や磁石の効果を体感出来る模型を実際に操作するとともに,蓄積リング棟内に入り実際のビームラインを見せて頂いた.これらのビームラインでは共用出来るものが30本あり,研究課題は公募されている.選定委員会の審査があるものの,成果を公表する場合は使用料が無料とのことであった.
以上








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