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剣詩舞の研究(特集) 現代リサイタルの展望(3) 石川健次郎
 現代の剣詩舞界で開催されているリサイタルの企画制作について、その規模の大小を含めた大要を前回迄に述べさせて頂きました。
 さて、剣詩舞家で自己の芸能を発表する“場”としてのリサイタルは大きな願望ではありますが、然し現実にはリサイタルと云う名に相応しく企画の大会は、残念ながらあまり見受けられません。
《企画の分類・考》
 そこで今回は一般的な「剣詩舞道大会」の企画を四種類に分類してお話を進めます。
 [1]会員の勉強会(おさらい)で、主として既成の剣詩舞を並列的に舞台展示する。
 [2]来賓演者との交歓会的な目的の企画で、お互い同士の親睦を計る。
 [3]既成の吟詠による剣詩舞作品を、物語り、人物、季節などのテーマに従って構成する企画番組。
 [4]新規なねらいで、作詞、作曲、振付を行ない、剣詩舞の創作作品を発表する。なお[3]項と合体化する場合もある。
 以上、一応大掴みに四つの例を挙げましたが、さてこの中からリサイタルと呼ぶに相応しい内容のプログラムは[3]と[4]の範囲でしょう。
 ところで、会を開催する運びになった場合、リサイタルらしく[4]の様なシンプルなものにしたいと思っても、実際問題として、制作の準備、経費調達などの問題があったり、それ以外にも、会には多くの門下生が出演する[1]が必須条件である場合も多い様です。
 そこで「現代リサイタルの展望」[3]では、如何に無理なく企画の複合化が実施できるかを、今回は四名の剣詩舞家の先生から順不同で伺いました。いずれも最近の舞台公演の実例ですが、ご参考になると思います。
《多田正満師に聞く》
 「正満・正稔二人会」と云うご兄弟の所謂ジョイントリサイタルが早くから大阪の国立文楽劇場で定期的に開催されて居りました。その第四回は平成五年に東京の国立劇場で行なわれ関東地域の剣詩舞家の度肝を抜きましたが前述の[4]に該当する企画でした。昨年の二人会はお休みで、代りに当二人会が主催する「近畿剣詩舞道祭」を平成13年9月6日、大阪の国立文楽劇場で開催されました。この企画意図は同地域の約十五の剣詩舞各流の代表が、[2]に該当する企画で交歓番組二十二番と、やや[3]に該当する、正満・正稔二人の構成・演出による、剣詩舞構成「歴史街道を行く」を、多田兄弟が矢次さん喜太さんよろしく司会役に扮してプログラムを進めました。演目と出演者は「幾山河」棉生珠実(棉生流)、「佳賓好主」田中霞風、小室桜風(大雅流)、「奥の細道」青柳芳寿朗(青柳流)、「和歌・やわらかに」岡田桜風(桜風流)、「五稜郭の戦」多田正満(正義流)、「九月十三夜」富田正親(正親流)、「坂本龍馬を思う」早渕鯉將(早渕流)、「和歌・東風ふかば」天津扇三(天津流)、「涼州詞」小嶋水扇(倭水心流)、「和歌・わが胸の」多田正稔(正義流)、「母を奉じて嵐山に遊ぶ」早渕鯉操・永留鯉聖(早渕流)、以上の十一番の運びは楽しく、演技は充実した舞台で、上演時間も交歓番組80分、構成番組50分と適切だったと思います。
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「五稜郭の戦」多田正満
《入倉昭星師に聞く》
 日本壮心流の創流95周年記念「全国剣詩舞道大会」が平成13年8月5日、豊橋勤労福祉会館大ホールで、午前9時50分から午後5時30分迄の長時間にわたり開催されました。
 壮心流全国大会の場合は、前述
 [1]に該当する会員演舞が61番組。
 [2]に該当する来賓吟剣詩舞も交際の広さから31番組ありました。そして前月号で紹介したミニリサイタル「火焔の如く」があって、いよいよ大会の終りを飾る構成演舞「威風堂々」が開催されました。
 この作品は西郷南洲を多角的に描いた剣詩舞による歴史劇的な構成番組で、前述[3]に該当しますが、プログラムの進行は構成・演出を任された入倉昭山の独壇場の観がありました。イントロの「至誠一貫」は烏帽子、鉢巻、法被姿の昭星、昭山、壮心、壮星を四方に配し、以下自然の流れを見せる。二景「活眼鋭開」は一葦わずかに…で8人の情景群舞が美しい。ブリッヂは南洲、月照の入水事件。三景「遠島流人」は5人の群舞で沖のエラブ島の南洲を描く。四景「維新回天」は子供達のドラム行進が稽古充分で意表をつく。五景「無血開城」は西郷、勝の会談を昭星、壮心で再現、他に5人群舞。六景「敬天愛人」は若手11名の黒と赤の抽象群舞。七景「剽悍無誅」は勝てばこれ官軍…で、藩校学生の血気を十分に発揮。ブリッヂは田原坂を琵琶唄と吟詠でつなぐ。八景「城山残影」は両軍の戦いを立体的な14名群舞で見事に描き、孤軍奮闘、囲を破って…と余情切切。島津斉彬(鈴木昭麗)の述懐でまとめ、最後はマーチのリズムで楽しく「威風堂々」を締め括りました。なお照明や音楽効果もよく、多数の少壮吟士他の友好出演で奥行のある60分でした。
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江戸開城談判の図
《青柳芳寿朗師に聞く》
 関西地域で活躍される青柳師のリサイタルは、前述の[4]に該当するような創作作品一本で、然も可成純度の高い作品を発表して来られました。平成元年4月29日と云えば大変旧聞になりますが、この日の「原義人(旧称)吟剣詩舞リサイタル」では神戸文化ホールで「西行桜」3部22景の大作(約3時間半)が発表されました。内容は北面の武士を捨て、歌の道を選んだ西行法師の世相観を描いたもので、第一部「有情無情」では警固の武士として仕えたが上皇と天皇の狭間に立たされ、出家する苦悩を描く。第二部「青雲飛翔」では、諸国修行から帰国した西行の見た都は、天皇間の争いに平清盛、源義朝が荷担、そこに崇徳院の哀れを見、更に乱れた世は平家のものとなる。第三部「有為天変」、平清盛の横暴は因果応報、一門は西海に消える。西行は弘川寺の桜の土手で、村の娘達に語りつづける。各景の延べ出演者合計は約二百名、賛助吟士は約三十名だった。因みに青柳師は本年4月29日に神戸文化ホールで「源氏物語」(約二時間)のリサイタルを企画制作中とのことです。
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「西行法師」青柳芳寿朗
《杉浦容楓師に聞く》
 名古屋の愛知県芸術劇場大ホールで、昨年9月24日「舞ひとすじ・容楓、英容リサイタル」が午前10時から開催されました。主催者は財団の剣詩舞コンクールで常に好成績をあげる指導者杉浦容楓、英容です。リサイタルと銘を打っていますが、会の内容は前述の〈日本壮心流〉と同様で「会員演舞」と「来賓吟剣詩舞」が多くの時間を費しています。しかし眼目である最後のプログラム「舞ひとすじ、容楓・英容リサイタル」は今迄にないユニークな発想の構成演目で、杉浦師の英知とも云うべき彼女の振付作品で埋まっています。踊り始めて50年と云う節目に、彼女の作品アンコールが即ち彼女のリサイタルになったわけです。その作品と制作記録を述べましょう。
 (一)「悲恋毬藻の歌」杉浦英容ほか6名(平成12年北海道名流)。(二)「七夕」杉浦容楓ほか20名(平成12年武道館大会)(三)「東照公御遺訓」杉浦盛容ほか14名(平成9年武道館大会)。(四)「寒梅」杉浦容楓(昭和55年コンクール優勝作品)(五)「水戸八景」建部奨容ほか4名(平成4年群舞コンクール優勝作品)。(六)「日本武尊」杉浦英容ほか9名(平成6年国民文化祭)。(七)「源氏彷徨」杉浦容楓ほか6名(今回の創作)。(八)「小手鞠の歌」杉浦容楓(今回の創作)。(九)「本能寺」建部奨容ほか6名(平成3年群舞コンクール優勝作品)。(十)「姫百合の塔」杉浦英容ほか16名(昭和63年国民文化祭)、それに協賛吟士は15名でした。
 さて皆さん、この様に色色な会を展望しますと、リサイタルも発表会もその内容は知恵を凝らして、是非お客様に楽しんで頂けるものにしたいものです。
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「源氏彷徨」杉浦容楓








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