漢詩初学者講座 伊藤竹外
吟詠家に漢詩のすすめ―(四十六)
伊藤竹外
伊藤竹外先生プロフィール
愛媛漢詩連盟会長
(18吟社、会員200名、毎月指導、添削)
六六庵吟詠会総本部会長(吟歴60年)
財団公認愛媛県吟剣詩舞道総連盟会長
財団法人日本吟剣詩舞振興会理事
平成5年文部大臣地域文化功労賞
平成8年財団吟剣詩舞大賞功労賞
著書 豫州漢詩集(編著)
南海風雅集(編著)(2版)
漢詩入門の手引き(10版)他。
一、一字之師
前月号で作詩上達の過程の中での添削が是非必要であることを述べました。
「呂山草堂詩話集」によく添削例を示していますが、次の例なども参考になりましょう。
「高秋日麗径紅楓」の原作に対し、呂山師は「径紅楓」が讀めないとして
と添削したが、原作者は「径紅楓」と讀み路一ぱいに紅楓が彩っているさまの心算だという。
であれば一径紅楓の意になって通るだろうが「日麗」に續くとしたら文法に無理が生じて讀めないことになると。又、
を添削して
としたら原作者から「

」をゆきつもどりつの意かと問われたが、「

」もどるは国訓であって漢詩文には使うことができない。これは
とよみ、中庸にでてくる名文句をとって古典的香気を添えて調和美を目的とした。と説明しています。
さて「一字之師」は唐以後五代の時代に斉巳という詩人が、早梅と題して「前村深雪裏昨夜数枝開」の句を得て、師の鄭谷に示した処、評して曰く「数枝」は早梅に適せず「一枝」とするに如かず」と、斉巳覚えず下り拝す。世人、鄭谷を評して「一字の師」という。この故事より詩文中の一字を改めてくれる人を尊びていう」と辞源に載せています。添削を受けるものは一字たりと疎かにせず尚疑問を正すことが正に上達の秘訣の所以であります。
二、課題「壬午新春書感」について
募集要綱でも述べていますが「昭和十四年は内外共に多事多難なれば新なる感慨をこめて賦して下さい」と但し書のとおり、書感は感を書すで作者の感慨を書きとめる意で、一族康健を謝し椒酒を酌んだという単なる「新年作」ではない課題のはずです。
昨年は米国のテロによる国際ビル二棟に自爆して崩壊せしめてから報復戦争が始まり、中東の沙漠には日夜砲煙が渦巻き、日本も自衛艦艇を印度洋に派遣するなど、世界は一朝にして平和が崩れ不安な期を迎えました。
一方、日本では経済界不安の中で皇室では皇孫「愛子さま」のご生誕により明るい夜明けともなりました。
これらを背景にした作詩こそ現代にふさわしいものと思います。
三、詩は現代を詠うもの
さて、各位の投稿詩を見るに、旧来の詩語集から選んだ明治以前の感覚そのままの常套的な詩語を応用した作品が多いようです。
瑞雲佳辰吉祥祝歌和気聖代
吉辰淑氣瑞色煕春瑞氣太平
詩語集の新年作の処を見れば右の如くめでたい語ばかりで、今日の憂うべき時勢に適した詩語がないため現代を詠うにしても初学者にとって新しい詩語を考え、創作することは正に至難のことでもありましょう。
四、平仄を誤らないこと
先般のぐんま全国漢詩大会で入選作決定の審査会議で、折角入選候補に上っていたのに一字平仄を誤っていただけで落選となりました。投稿詩にも随所に平仄誤用が見受けられます。多くは思い違いとか両韻の意によって平仄の違いが分っていないのではないかと思われます。詩ができたらあらためて辞書をよく調べて下さい。(平灰は作者が付す)