吟剣詩舞の若人に聞く 第三十七回
松本典子さん(十五歳)
●豊橋市東田町在住
(平成十二年度全国剣詩舞コンクール決勝大会詩舞少の部第三位)
祖母・・松本よしみさん
弟・・松本全伸くん
指導者・・鈴木水心さん
家元・・入倉昭星さん
(日本壮心流昭武館総本部)
内に秘めた天分が、開花する日がくる。
物静かなロ調の中にも、人一倍の負けん気を見せる松本典子さん。幼年、少年の部では続けて三位となり、いま決意も新たに優勝に向けて練習に励む彼女を、家元、指導者、ご家族を交えて、その心境をお聞きしました。
松本典子さん
豊川道場で、写真左より松本よしみさん(祖母)、入倉昭星家元、松本典子さん、鈴木水心さん(師)、松本全伸くん(弟) |
いつ頃から始めたの?
典子 「五歳ぐらいからです。祖母がしていましたので、自然に始めるようになりました」
お婆さまもなさっていたのですか?
よしみ 「私は詩吟をしていましたが、定年を機に何か新しいことを始めようと思っていたとき、詩吟の先生が壮心流を紹介してくださいまして、それで始めました」
お孫さんにさせようと思ったのですか?
よしみ 「私がお稽占に行くとき、孫も連れて行きましたので、いつのまにか詩舞を始めたという感じで、とくにさせようとは思いませんでした」
初めて典子さんを見た印象はどうですか?
水心 「とても愛くるしい子で、最初から抵抗なく入っていただきました」
習い始めて、お稽古は大変だと思った?
典子 「最初はただ好きでやっていましたが、小学校に入ってから練習が少し嫌になった時もありました」
それはどんな理由で?
典子 「友達とあんまり遊べなくなったからです」(笑)
お稽古では、どんなことを教えているのですか?
水心 「まず、礼儀作法から教えます。それができるようになったら、お扇子を開いたり閉じたり、そういうことから入ります」
礼儀作法から始めるのですか?
水心 「私もお家元から礼節を教わりましたし、お稽古事はまず挨拶からと思っていますので」
習う前から礼儀作法はできていた?
典子 「たぶん、できていたと思います」(笑)
こちらでは礼儀作法に重点をおいているのですか?
入倉 「重点というより、毎回毎回の稽古の時に、礼に始まり礼に終わることだけは厳しくしています。途中では、他の者に迷惑をかけなければ、転がっていようと文句はいいません」(笑)
典子さんの特色は何ですか?
水心 「典子さんは小さい時から何か持っているものかありまして、とても間合いが良く、お扇子も上手に扱いますし、私としては教えるのが楽でした」
自分の踊りを振り返り、得手、不得手は何ですか?
典子 「得意なのは扇子が綺麗にできるところで、苦手なところは感情表現があまりできなくて、呼吸の使い方も下手だと思います」
感情が表に出ないタイプなの?
典子 「そんなこともありませんが」(笑)
よしみ 「まだ、詩の内容をわからずに踊っているところがありますからね」
踊るときは何を思っているの?
典子 「詩のことを思い、川があったら川を見るように、踊ります」
入倉 「難しいけれど、友達を見るのと親を見るのでは違いますし、詩の内容を他に置き換えて教えるようにしています。また、何度言っても理解できない者と、言えばわかる者と、個人差もありますね」
典子さんはどうですか?
入倉 「コンクールの時ぐらいしか見ないから、わからないね」(笑)
逆に、典子さんの優れている点は?
水心 「おとなしい顔をしていますが、負けん気が強く、それがストレートに出て…。これに丸さも加わればさらに良くなると思います」
◎ ◎
コンクールについて聞きますが、全国大会の幼年の部には出ているの?
典子 「はい」
その結果はどうでしたか?
典子 「三位でした」
よしみ 「扇子が開かずに失敗してしまいましたから」
扇子は上手いといっていましたね?
典子 「…」(笑)
開かなかったときの気持ちはどんなでしたか?
典子 「まずいな、と思いました」(笑)
水心 「踊りはダイナミックで、よくできたのですがね」
入倉 「釣りそこなった魚は大きいものだよ」(大笑)
少年の部は初めてですか?
典子 「二回目です」
よしみ 「少年の部は十一年と十二年に出て、どちらも三位でした」
ずっと三位だね、上を欲しいと思う?
典子 「もちろん思います(笑)。名前を呼ばれるのは嬉しいけれど、何かもうひとつという気持ちもおこるから」
今年はどうですか?
典子 「まだですが、中部で全国大会の切符をもらえるように、頑張りたいと思います」
今年の演題は何ですか?
典子 「「春日、家に帰る」です」
気をつける点は何でしょうか?
典子 「先ほどから出ていますが、感情表現だと思います」
弟から見たお姉さんの踊りはどう?
全伸 「扇子の使い方や、正確な踊りはすごいと思いますし、勉強になります」
お姉さんから弟を見てどう?
典子 「感情表現が上手くて、私に足りないものを持っていると思います」
弟にライバル心はある?
典子 「はい、あります」(笑)
典子さんにとって詩舞とは何ですか?
典子 「学校で習えないことを学べる場所だと思います。また、練習に行くと先輩や友達と会って、いろいろな話ができるので、私にとってかけがえのないものです」
どんな話をするの?
典子 「いろいろ世間話とか」(笑)
詩舞の話はしないの?(笑)
典子 「いろいろアドバイスをもらったりします」
友達は知っているの?
典子 「知っていますし、頑張れと応援してくれます」
今後、典子さんが向上するためには?
水心 「もう少し身体の動き、強弱とか粘りがプラスされると良いなと思います。身体は柔らかいのですが、全体にゆったりしたムードで、それはそれで独特の間があり良いのですが、動きにすばやさもほしいですね」
入倉 「うちは演舞の間をどうこうしろとは言わず、その人が持っている間を引き出すようにしています。また、彼女は剣舞もしているのですが、けっこうメリハリの利いた演舞をするので、それが詩舞にも出るかなと思っているのですがね」
剣舞と詩舞でどちらが自分に向いている?
典子 「剣舞は刀の使い方が難しく、自分には詩舞のほうが向いていると思います」
これから、どんな踊りがしたいですか?
典子 「同じ会の先輩方のような、感情表現を出せるように頑張りたいです」
感情表現を出すためにはどうするの?
典子 「人の踊りを見て勉強したり、詩をしっかり読んで意味を理解したりすることだと思います」
皆さんから典子さんへのアドバイスなどはありますか?
入倉 「目標を大きく持つことは必要ですが、それには努力が伴わないと結果が出ません。また、すんなりいくと有りがた味とか感激がないので、失敗した者の方が喜びも大きくなるので、あまりあっさり入らないように」(笑)
水心 「楽しくやりながらも、向上を目指して頑張ってお稽古してください」
よしみ 「素晴らしい先輩がたくさんおりますので、このまま続けてくれたらよいなと思っています」
全伸 「大会の時などはライバルになるけれど、悪いとこころは悪いと、互いに言い合えて、共に伸びていきたいです」
最後に、典子さんから何かありますか?
典子 「これからも皆と楽しくやっていきたいですし、詩舞を続けていきます」
今度は優勝しますか?
典子 「はい」(笑)
優勝宣言が出たところで、今日のインタビューを終わりたいと思います。お忙しい中、ありがとうございました。
インタビューに答える、左より、入倉昭星家元、師の鈴木水心さん、松本典子さん、祖母の松本よしみさん、弟の松本全伸くん |