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吟詠のさらなる発展のための提言 舩川利夫先生に聞く
吟詠上達のアドバイス 第51回
本誌では、舩川利夫先生のご指導を頂きながら「発声の方法論づくり」の準備を進めています。これに先立つアンケート調査などのため、本論に入るのは少し先になります。今回はこれに関連した、読者からの質問に答えて頂きながら、方法論に関する舩川先生の考え方を伺いしました。
 
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船川利夫
 
舩川利夫先生のプロフィール
昭和6年生まれ。鳥取県出身。米子工業専門学校卒。
箏曲古川太郎並びに山田耕作門下の作曲家乗松明広両氏に師事、尺八演奏家を経て作曲活動に従事。現代邦楽作曲家連盟会員。
若くして全日本音楽コンクール作曲部門一位、NHK作曲部門賞、文部大臣作曲部門賞などを受賞されるとともに平成4年度(第8回)吟剣詩舞大賞の部門賞(吟剣詩舞文化賞)を受賞されている。
数多い日本の作曲家の中でも邦楽、洋楽双方に造脂の深い異色の作曲家として知られる。
おもな作品に「出雲路」「複協奏曲」その他がある。
また、当財団主催の各種大会の企画番組や吟詠テレビ番組の編曲を担当されるとともに、夏季吟道大学や少壮吟士研修会などの講師としてご協力いただいている。
出発点が肝心な方法論
本誌
 前月の誌上で「方法論づくり」の話を載せましたら、読者から「大いに期待します」など沢山の反応がありました。中には急を要するような質問がありましたので紹介します。内容は「私は長い間八本調子で吟じていましたが、最近は七本しか出なくなり悩んでいます。近く合吟の舞台に出なくてはならず、どうずれば八本の声が出るか、その発声法を教えてください」というのですが。
 
舩川
 これは本人にとっては大変深刻な問題だと思いますが、オイソレと解決できることではありません。年を取ると誰でも高い声は苦手になる。これは生理的なことですから仕方がないのですが、しかし人によっては、まだ高い声を出せる可能性はあります。正確には発声を専門に診る先生、ヴォイストレーナーと言いますが、その先生に相談しないといけません。一般的に言えることは、首から肩、胸、その辺の力を抜いて声を出すことを覚えるだけで、高い音程を出せるようになることがあります。
 人間って面白いもので、高い音だ、と思っただけで、全身に力が入ってしまうんです。いつも七本で練習していた人が、知らずに間違えて八本の伴奏で歌ったら、ごく自然に高い声が出た、なんていう話もあるほどです。歌う時、力むのがどんなにいけないことかということを、よく示しています。
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自分の「吟詠」をオーバーホールしてみる。
 
“力み”の功罪
本誌
 吟詠の一つの特色である、士気を鼓舞する詩文などでは、どうしても力が入ることが多いと思われますが。
 
舩川
 そう、これはかなり大きな問題です。私はこれを強い吟、強吟と呼んでいますが、激しい喜びとか、悲憤慷慨するなど人の心が昂ぶったときの描写には力むことが必要だと思います。だからといって、絶句の場合、起句から結句まで全部が強吟では、かえって効果が薄れてしまう。それに、歌い手も聞き手も疲れてしまいますよ。
 まして自然の移り変わりを詠んだり、しっとりとした心情を歌った詩では、力みでなく、響きで歌うようにしないといけません。今の吟を聞いていると、特に男性の吟者ですが、余分なところまで力んでいますね。
 
本誌
 その辺の話は“方法論”にも出てくるのですか?
 
舩川
 基本的なことですから当然出てきます。これは発声ばかりでなくて、呼吸、共鳴、日本語の発音と、とても広い範囲に関係してきますね。
 
メソッドって何ですか
本誌
 少し視点を変えて伺います。方法論というのは、最初の読者の質問にあったような個々の疑問にも応えられるようになるのですか?
 
舩川
 方法論というと、取り上げる項目はあくまでも基本的なことです。いい機会ですから、方法論とは一体どんなものなのか、ちょっとお話しておきましょう。私は「メソッド」という言葉を使っていますが、辞書によると元の意味はギリシャ語で、“道に従って行く”、つまり、教授法などの、論理的で組織立った方法とか方式、あるいは順序ということです。言い換えますと、この道に従っていけば、目的地へたどりつけますよ、という道程を示すものです。
 その道に乗るための基本的なことを先ず押さえ、決勝点に向かって少しづつ自分の水準を上げる方法を考える、ということだと思っています。
 
本誌
 そうすると、一番大切なのがスタート地点で、呼吸の仕方とか、声の響かせ方といった幾つかの基本を、しっかりと身につけなければいけない、ということですか。
 
舩川
 そうです。これを自分のものにできれば、道程の半分、いやそれ以上通過したと言えるでしょう。ですから、これから吟詠を勉強しようという人にはスンナリと受け入れられやすいと思います。なにしろ余分な垢がついてないから。(笑い)
 
本誌
 中級の人や指導者の先生方は、これをどのように活用するのがいいか、ということになりますが。
 
舩川
 先生方は長年経験を積まれてご自分の吟詠を作られた、いわば一国一城の主です。全ての面で「型」というものが出来上がっている人が多いと思います。そうしたクラスの方たちにとっては、たまには「初心に帰る」ための参考にしていただきたいのです。あるいは、ご自分の吟詠を一度解体してオーバーホールしてみる、これができれば、また新鮮な吟詠への道が開けると思いますし、より高いレベルで後進の指導に当たれると思います。
 
本誌
 「言うは易く…」にならなければいいですね。
 
舩川
 それから先は、個人の哲学の分野ですね。私から皆さんに逆にお聞きしたいことがあります。それは、メソッドを初心者向きとして作ったほうがいいか、初めから指導者用に作るべきか。その辺について、皆さんのご意見を是非ともお聞かせ下さい。
 
本誌
 これに関しては、財団事務局までお願いします。有り難うございました。








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