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第4分科会「家族のためのSST(生活技能訓練)」
精神分裂病と脳神経
 ここでは、患者さんたちの脳の中にどのような変化が起こっているかについて説明したいと思います。
1.神経伝達物質
 人間の脳の中には、非常にたくさんの神経細胞がつまっていて、それらが互いに連絡し合うことで色々な情報が伝わって行き、考えたり行動したりすることが出来ます。神経と神経の間は非常に狭い隙間があって、そこでの情報の伝達は「神経伝達物質」と呼ばれる色々な物質が役割を担っています。 すなわち、前の方の神経を伝わってきた情報は、神経の終わりの部分で「神経伝達物質」を出し、それらが次の神経の始まりの部分にある受け皿(専門的には「受容体」と呼ばれています)に取り込まれることによって、この隙間を情報がうまく伝わっているわけです(出す量を多くしたり少なくしたり調整しながら)。(図4参照)
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図4 情報と神経伝達物質
2.精神分裂病とドーパミン
 さて、「伝達物質」のひとつにドーパミンという物質がありますが、今までの研究から、分裂病の人の脳ではドーパミンが過剰に出ており、そしてこの過剰なドーパミンの結果として幻覚・妄想・興奮といった症状が出現すると考えられています。必要以上のドーパミンが出るということは、必要以上の信号が神経に伝わるということです。脳の神経の回路の中で、同時にたくさんの信号(情報、メッセージ)が無理矢理伝えられようとしているわけです。例えば、同時に10人の人があなたに指図してきた状況を想像してください。誰のことばに耳を傾け、どう答えればよいのか判断出来るでしょうか?誰が何と言っているのか理解出来るでしょうか?聖徳太子でないかぎりそれは無理だと思います、しかしながら、分裂病の患者さんが体験している世界はしばしばこういうものなのです。このような状態を「メッセージの大量爆撃」と呼びます。
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図5 ドーパミンと薬物

 さて、この「メッセージの大量爆撃」を和らげるにはどうすればよいか。 それは、言い替えると過剰なドーパミンをどうすれば抑えることができるかということです。そして、過剰なドーパミンを抑えてくれるのが、おくすり現代の薬物療法だといえます。(図5参照)
感情表出(EE: Expressd Emotion)と再発
 精神分裂病、躁うつ病などでは、周囲の人(家族とは限らない)の感情表出(EE)が高い環境では再発(悪化)しやすい。(最近は他の精神障害や身体疾患でも慢性の場合は当てはまると言われている)
 
例)精神分裂病72名の退院後9ケ月後の再発率(伊藤、大島ら 1994年)
全体: 25.5パーセント
同居家族の感情表出が低い: 8.1パーセント
 感情表出が高い: 45.7パーセント
 
感情表出(EE)とは
    「批判」
    「敵意」
    「過度の感情的巻き込まれ」
 を強く言葉や行動で示す感情の表し方を言うが、EEが高いとか低いという判断は定められた面接方法と分析方法による評価を行わなければならない。
 家族教室・心理教育を通して、あるいは対応の仕方を練習したりすることで大部分の家族は感情表出を高くしないで患者と生活できるが、そのためには以下のような条件が必要である。
[1] 患者さんの病状がひどく悪くない
[2] 家族が現在の病状、経過を良く知っている
[3] 家族の中で助けてくれる人がいる
[4] 家族以外でもいろんな話をできる人がいる
[5] 経済的、肉体的負担が重くない(将来への心配も)
[6] 患者さんのできているところ(こと)を見ることができる
[7] 専門家の助けが比較的速やかに得られる
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良い分裂病治療の条件(西園)
1. 精神症状に対する適切な薬物療法
2. 社会生活技能の障害に対する生活技能訓練
3. 自己喪失の挫折感により救出するための精神療法
4. 社会的支持・家族機能の回復による社会的不利益の改善
・・・これらを統合的に行うこと
家族の患者への接し方の要点
I 共通する要点
a 家族内に精神障害者がいることを後ろめたく考えないこと
b 患者の言動によって夫婦の仲をさかれない
c 症状と性格の区別をする
d 服薬が重要である
e じっくりと待つ(年単位で)
f よい聞き役となる(治療的役割)
g 患者の立場づくりをする
h 患者の不足を補う(啓発型は×)
II 両親と兄弟の違い
III 依存型と啓発型との違い
依存型 困った時、その都度、判断基準を教える。 くどくど言わず
1 具体的、2 断定的に、3 くり返し、
4 時期を逃さず、5 余計な事を言わない
啓発型
 その裏返しである 時間の許す限り、話し相手になる。
 決して指示的コメントはしない
引き出す対話
(相手の自己反省にもとづく自己探究を助ける)
1. 関心表明・うなづき・あいずち・視線をあわす。
2. 反復確認・感情の込められている所をくり返す。
3. 想起援助、より具体的に話せる様に問いかける。
4. 自覚援助、言動の奥の欲求の洞察。
5. 視点転換、相手の欲求を推察できるよう問う。
6. 過去、欲求充足の仕方−どんな過去から?
7. 未来の予想、欲求充足の仕方−どんな未来を形成するか。
8. 状況対処、現在の状況にどんな対処がいいか。
9. 吟味検討、対処の仕方は適切か問いかける。
10. 助言提案、1つの可能性として自分の対処の仕方を提示する。
共感・・GOサイン、NO・GOサイン
生活のしづらさ
1. 生活技術の不得手
食事の仕方 金銭の扱い 服装の整え方 服薬の管理 社会資源の利用の仕方
2. 対人関係
人づきあい あいさつ 他人に対する配慮・気配り 尊大と卑下のからんだ孤立
3. 就労能力の不足
生まじめと要領の悪さ 持続力に乏しい 習得が遅い 手順への無関心
能率 技術の低さ 協力が下手
4. 安定性に欠け、持続力に乏しい
5. 現実離れした空想にふけることが多い
動機付け乏しく、生きがいの喪失
会話の練習(虎の巻シート)
Blackwell 行動療法的家族指導ワークショップ配布資料から1990
挨拶をしよう
★知り合いの人には必ず挨拶をしよう。挨拶ができれば社会人です。
★相手より先に言おう。お返しがなくても言おう
★短くてよい。態度を感じよく言おう
上手に感謝しよう
★すぐに感謝しよう
★相手を見て、嬉しそうに
★嬉しかった行動や言葉を伝えよう(又、やってもらえる)
★どんな感じがしたかを伝えよう
いいところを見つけよう
★相手は何をほめてほしいのかな
★すぐに表現しよう
★賞賛を正直に
★明るい表情で
うまく会話を交わすために
★答えやすいように、具体的に聞こう
★相手を見て、身を乗りだして聞こう
★うなづいたり、あいづちをうとう
★興味をもっていることを示すために、1.質問したり 2.聞き取ったことを確かめよう
上手にお願いしたい
★名前を呼びかける  ★切り出しの言葉を言う(すみませんけど、お願いがあるんですけど)
★相手の方を向き、感じのよい表情や声の調子
★どんなことをしてほしいか、正確に手短に答えよう
★そうしてもらえると、どんな感じがするかを表現しよう
★要求がかなえられたら、うんと感謝しよう
★駄目なときはあっさり引っこめよう
嫌な気持ちをうまく伝えたい
★人がなにかして、あなたが嫌な気持ちがした時は、ちゃんと伝えよう
★すぐにその場で言おう
★手みじかに言おう
★相手を見て、真剣な表情や声の調子で話しかけよう
★腹が立った行動や言葉を伝えよう(全人格を否定しないこと)
★どんな感じがしたかを表現しよう
★今後どうしたらよいかを提案しよう
長引く会話をうまく終わらせたいとき
★早めに切りあげよう
★話しの切れ目を見つけ、まずストップをかける
★困った気持ち、ストレスであることを伝えよう
★一時的に休んだほうがいいことを伝えよう
★いつ話しあうか、今後の提案をしよう
★気分転換をもちかけよう
もっと上手に断りたい
★早めに断ろう
★まず感謝(好意を断る時)  又は★ごめんなさい
★理由を手短に、堂々という
★自分の気持ちや状態を言う
★他の案を出すor話題を変える
★身振りをそえて
グループに入るときは
★人の横に立つ。それでクループに入れたということ
★ニコニコして、今話している人の方を見よう
★話しにうなづく
★話の切れ目に言葉をはさむ。1. 話を繰り返したり 2. 質問をしよう
★話題にすることは何気ない世間話です
グループから出るときは
★話の切れ目を見つける
★「今日はこれで失礼」「そろそろ帰る」と離れる挨拶
★ジェスチャーをそえて、手短に言う
★晴れやかな大きな声で(悪いことをしているわけではない)
★気の弱い人は二段がまえで抜ける
まずトイレに立つ。帰ってきて「今日はこれで帰ります」
親子の会話/あなたの愛が伝わっていますか
久野 信
愛は「心を受ける」と書く不思議[1]
 三十八年間の教師生活を終えて、今また学校に行けない不登校の子どもたちとともに悪戦苦闘している札幌教区山鼻教会の久野信(まこと)さん(65)が一九九四年十二月、親子のコミュニケーションを図るための著書「あなたの愛が伝わっていますか−子供を自立させる為の子育てカルタ」を出版、注目を集めた。今号からその中の幾つかをシリーズで紹介する。
 愛という字を分解すると、心と受けるという字になっています。
 長い間の教員生活から子どもが成長するために絶対に必要なこと。それは、しっかりした自我の確立です。そして、そのためには「私は愛されているのだ」という実感が必要なのです。
 「あるがままの自分はいいのだ」と思える積み重ねが、「自分」というものを少しずつ確実につくり上げていくのです(アイデンティティーの確率)。
 それでは、どんなときに子どもは「愛されている」と感じるのでしょう。
 それは「自分の気持ち」を分かってもらえたと感じるときです。
 逆に、愛されていると感じられないとき。それは、自分の気持ちを分かってもらえないと感じるときです。大事なのは共感なのです。
 例えば、「ボクあの先生、怖くてキライ」と言ったとします。そのとき、「怖くないの、先生をきらっちゃダメよ」と注意します。しかし子どもには何か怖いと感じたこと、つらいこと、悲しいこと、腹の立つことがあったのかもしれません。そしてそれは、正直な自分が感じた「正直な自分」なのでしょう。このあるがままの、正直な自分を否定されることは、実は「自我の確立」を妨げる大きな要因となるのです。
 そのようにではなく、「そう、先生が怖くてキライなの」と子どもの気持ちを聞いてやったとします。子どもはきっと安心して次から次へと話すでしょう。聞いてもらいたいのですから。そして、聞いてもらうことで自分で解決の道を開いていくのです。
 これが、共感です。必要なのは共感なのです。
 気を付けなくてはならないのは、共感と同意は違うということです。同意は、「そう、お母さんあの先生怖くてキライよ」と対応することで同意をしなければ話を聞いたことにならないと考える必要はないのです。
 今あるがままの、正直な気持ちをしっかりと聞いてあげることです。
 そうです。話を聞いてやろうと決心したら、こうすればいいのです。
 私は今は子どもの気持ちを写す「鏡」と思うことです。「お前の気持ちはこうなんだね」と私がしっかり受け取ったと返してやることが、一番よい助けになるのです。
 子どもが「明日の遠足、雨が降ればいいなー」といったとき、「そう、雨が降ればいいと思っているの」と返してやれば、安心してその後が出てくるでしょう。そう話しながら自分を落ち着かせ、大切な何かに気づき、自分で解決していくのです。
 そのとき、子どもは確実に愛が感じられ、自信の胸がふくらむのです。








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