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市町村における精神保健福祉業務マニュアル
1.はじめに
 
 精神障害者の社会復帰を促進し、地域生活の支援を充実させるため、精神障害者の社会復帰対策のうち、身近で利用頻度の高いサービスについては、市町村において利用できるよう平成11年に精神保健福祉法の改正が行われました。この改正で、ホームヘルプなどの在宅福祉サービスが創設され、平成14年度より市町村を中心として、個々のニーズに合ったきめ細かなサービス提供をしていくことになります。
 本マニュアルは、市町村の方々が業務計画を策定し、精神障害者の社会復帰を促進させるための体制整備を図る際の参考にしていただくために、今後の精神保健福祉行政の枠組みを概説し、精神保健福祉に関する資料をまとめたものです。本マニュアルは、すでに精神障害者に対する支援を行っている市町村に対して、業務内容等を制限するものではありません。
 
2.これからの地域精神保健福祉活動における市町村の役割
 
 これまでの精神保健福祉行政は、都道府県及び保健所を中心に行われてきましたが、その施策の範囲が、入院医療中心の施策から社会復帰を促進するための福祉施策に広がるにつれて、利用者にとって身近な自治体である市町村の役割が大きくなってきています。
 平成5年に成立した障害者基本法では、身体障害者・知的障害者と並び精神障害者(精神障害があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者)も障害者施策の対象と位置づけられ、障害保健福祉サービスの一元化が求められるようになりました。
 このような流れを受けて、精神障害についての正しい知識の普及のための広報活動等の業務に加え、平成11年の精神保健福祉法改正で、次の業務が市町村の業務と規定され、平成14年4月から施行されます。市町村は、身近なサービスである下記の[1]〜[5]の業務を主体的に行うほか、市町村の実状に応じ、保健所と協力して精神障害者が利用できる各種社会資源の整備等、事業の展開を図っていきます。
 
 [1]精神障害者社会復帰施設、精神障害者居宅生活支援事業(ホームヘルプ、ショートステイ、グループホーム)、精神障害者社会適応訓練事業の利用に関する相談、助言
 [2]必要に応じて、上記の事業の斡旋、調整及び利用の要請
 [3]精神障害者居宅生活支援事業の実施
 [4]精神障害者保健福祉手帳の申請受理等
 [5]通院医療費公費負担に関する手読きの申請受理等
 
 これらの事務を円滑に行うためには、保健所等と協力して、早急に市町村の体制整備を進めていく必要があります。
 平成14年度以降、保健所は市町村が新たに行う業務の支援、広域にわたる業務の調整の他、これまで実施してきた精神保健福祉に関する相談、訪問指導等を行います。
 平成14年4月以降の窓口変更については、都道府県(保健所)と協力し、充分なゆとりをもって地域住民へ周知するよう努めることが必要となります。市町村と保健所の業務分担の概要は別表のとおりです。
 
3.精神保健福祉業務の推進
 
 精神保健福祉業務を計画的に進めるには、市町村の総合計画や市町村障害者計画等との整合性を図る必要があります。そのためには、人口規模や地理的条件なども考慮しながら精神障害者の在宅保健福祉サービス等に関する需要と供給を把握し、課題を明確にすることが必要です。
 在宅保健福祉サービス等に関する需要は、精神障害者保健福祉手帳の交付件数、通院医療費公費負担の受給者数、精神科医療機関の患者数、従来の相談の件数・内容に関する実績、障害年金受給者数等の資料により把握します。
 また、市町村が行う母子保健サービス、老人保健サービス等を通じて潜在している需要が把握されることがあります。
 在宅保健福祉サービス等に関する供給は、地域精神保健福祉活動の実施状況、管内の精神障害者社会復帰施設、地域生活援助事業(グループホーム)、精神障害者社会適応訓練事業所、精神科医療機関、小規模作業所等の社会資源の数や利用状況、患者会、家族会、精神保健ボランティアなどの地域組織の活動状況等をもとに把握します。
 これらの結果に基づき、相談体制、ホームヘルパーの派遣体制など具体的に業務を進める計画を立てます。
 精神保健福祉業務の基本となる台帳や情報は、保健所からも市町村へ提供されることとなります。情報の授受に当たっては、プライバシーの保護に十分配慮し、必要な情報を取捨選択し、活用することが望まれます。
 また、精神保健福祉業務を円滑に行うためには、地域内の社会復帰施設、医療機関、在宅福祉サービス事業者等との密接な連携が必要となります。そのためには、関係者が集まる会議を柔軟かつ積極的に開催することが必要です。
 
4.精神保健福祉業務に関するQ&A
(1)組織・体制に国する事項
 
Q1 所管課の設定はどのようにすればよいのですか。
 
 精神保健福祉業務を所管する課(部署)は、保健事業所管課、福祉事業所管課、あるいは保健福祉事業所管課が考えられます。
 従来から精神障害者への相談、訪問指導等を行っている保健事業所管課では、地域内に居住する精神障害者と家族および周囲の支援状況を把握しやすいと考えられます。保健医療面からの支援を活用するうえでは、保健部門が業務を所管するメリットがあります。
 また、障害者保健福祉に関する都道府県からの連絡は、主に障害福祉担当部門を通じて各市町村へ伝達されると考えられます。福祉サービスの総合的な展開という観点では、福祉事業所管課が業務を所管するメリットが大きいといえます。
 いずれの課(部署)が業務を所管するにしても、精神保健福祉業務を推進していく上で大切なのは、身体障害、知的障害、精神障害の3障害が障害者施策を一元的に推進していくという理念に基づいて所管課(部署)を考えることが重要です。また、保健部門と福祉部門との意志疎通を促す仕組みを確保し、適宜情報を共有し、利用者の利便性の観点に立った支援の仕組みづくりを進めます。
 
Q2 精神保健福祉業務を担当する職員には、何が求められるのですか。
 
 精神保健福祉業務を遂行するためには、精神保健福祉に関する知識や関係機関との連携、チームワークが必要となります。この業務を担当する職員は、都道府県が行う障害者ケアマネジメント従事者養成研修を受講した者が望まれます。
 なお、今後、精神保健福祉士、保健婦(士)等の専門的技術を持つ専門職の活用や、精神科嘱託医の委嘱が望まれます。
 社会復帰施設等の利用に関する相談、助言については、精神障害者地域生活支援センターに委託できる(精神保健福祉法第49条)としていますので、ここで相談業務に従事する者も同様に、障害者ケアマネジメント従事者養成研修を受講した者が望まれます。
 
(2)業務に関する事項
Q3 社会復帰に関する相談業務はどのように行うのですか。
 
 精神障害者の社会復帰に関する相談は、保健医療と福祉にまたがることも多いと考えられますが、基本的には、福祉サービスの利用に関する相談は市町村、保健医療に関する相談は保健所等の担当となります。
 相談を受けた時には、相談者がどのような援助を必要としているか、十分な把握に努めるとともに、継続した相談支援が行えるよう配慮します。
 精神障害者保健福祉手帳の未取得者からの相談を受けた場合で、手帳交付が必要と思われる場合には、手帳の趣旨をよく説明します。
 専門的事項に関する相談(疾病の理解や障害受容、医学的配慮を要する者への対応、緊急対応、就労支援、地域内の社会資源の把握等)については、保健所等がその役割を担っていることを説明するとともに、必要な場合には紹介します。
 市町村は、精神障害者、家族、居住環境等の身近な情報に基づき、個々のニーズに応じた相談、助言を行います。
 なお、保健所等の技術的支援を必要とする場合には、それぞれの事例に応じて、保健所等と連携を図ることが重要です。
 また、相談や紹介に当たっては、プライバシーの保護や相談者の同意に十分配慮して下さい。
 
Q4 福祉サービスの斡旋、調整業務はどのように行うのですか。
 
 福祉サービスの斡旋、調整業務を円滑に行うに当たっては、日頃より、精神障害者社会復帰施設、精神障害者居宅生活支援事業、精神障害者社会適応訓練事業等の状況(施設・設備、訓練内容、スタッフ、利用料等)の情報収集を行うことが必要です。可能な限りあらゆる場面、あらゆる機関を活用し、利用者の希望、ニーズを把握し、適切に実施するよう努めます。
 サービス提供に当たっては、医療の維持が必要となる場合が多いため、利用者と相談の上、医療機関等と連携を図ります。
 なお、サービスの斡旋、調整に当たっては、「精神障害者ケアガイドライン」を参照し、ケアマネジメント手法による援助を行うことが望まれます。
 
Q5 通院医療費公費負担、精神障害者保健福祉手帳に関する業務は、どのようになるのですか。
 
次の業務を行うこととなります。
[1]制度の普及、周知
[2]取得のための相談
[3]申請書の受理(記載内容の点検をします。)
[4]都道府県への書類進達
[5]申請者への通知
 
 通院医療費公費負担の有効期間の始期及び精神障害者保健福祉手帳の交付日は、原則として、市町村窓口での受理日とします。
 
Q6 保健・医療・福祉の連携をどのように図ればいいのですか。
 
 市町村内の社会資源を効果的に活用していくためには、精神障害者社会復帰施設、居宅介護等(ホームヘルプ)事業者、精神障害者社会適応訓練事業協力事業所、医療機関、保健所、福祉事務所などの関係者による事例検討やサービス調整のための会議を開催する必要があります。
 市町村内に十分な施設が整っていない場合には、保健所等の協力を得ながら近隣の市町村や社会復帰施設等と連携をとり、各種社会資源の整備等、事業の展開を図っていきます。
 保健所が関係機関、市町村、施設、団体の代表者が参集する地域精神保健福祉連絡協議会や、実務者レベルの担当者連絡会議を開催しますので、これに参加して下さい。
 
(参考)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 ―抜粋―(平成14年4月施行予定)
 
 精神保健福祉法第49条第3項
 都道府県は、前項の規定により市町村が行うあつせん、調整及び要請に関し、その設置する保健所による技術的事項についての協力その他市町村に対する必要な援助及び市町村相互間の連絡調整を行う。
 
Q7 精神障害者社会適応訓練事業で市町村はどのような役割を担えば良いのですか。
 
 精神障害者社会適応訓練事業の推進、管理は都道府県が行います。
 市町村は、まず当該事業の周知と利用に関する相談、助言を行います。
 社会復帰に関する相談の過程で、精神障害者社会適応訓練事業の斡旋、調整が必要となることがあります。この場合、当該事業の利用に関する広域的な調整や、事業所における訓練のフォローアップは保健所が行いますので、事業が効果的に行われるよう連絡して下さい。
 
Q8 精神障害者居宅生活支援事業(ホームヘルプ、ショートステイ、グループホーム)の実施体制はどのようになるのですか。
 
 市町村内の事業者の把握に努めるとともに、当該事業の運営状況、事業利用者の状況等を都道府県に伝えるなど、地域内の精神障害者居宅生活支援事業が充実していくよう配慮して下さい。
 また、新たに開始される当該事業について、地域住民に周知して下さい。
 ホームヘルプについては、市町村が直接実施するか、あるいは委託して実施するかを検討します。委託する場合は、精神保健福祉法第50条の3の規定により、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出た事業者に委託して下さい。
 なお、ホームヘルプサービスの基本的なあり方については、「精神障害者訪問介護(ホームヘルプサービス)評価検討委員会中間報告書」を参照して下さい。
 グループホームやショートステイの施設が市町村内にない場合には、広域での連携を検討します。
 
Q9 組織育成や普及啓発についてはどのように行うのですか。
 
 患者会、家族会、断酒会等の自助グループや、職親会、ボランティア団体等の組織育成は、これまで保健所を中心に行ってきたところですが、市町村において取り組んでいるところもあります。
 今後は、患者会や家族会、その他の自助グループへの育成や、地域内のボランティアを育成することも望まれます。実状に応じて、保健所等と連携し、当事者である精神障害者、家族、組織等の意見を反映できる体制づくりを検討して下さい。
 また、精神障害に対する正しい知識の普及啓発については、地域住民への講演会、家族教室、患者家族が地域住民と交流する会を開催する市町村も多くなっています。
 
(3)支援体制
Q10 保健所等による支援体制はどのようになっていますか。
 
 保健所は、こころの健康、社会復帰、アルコール、思春期、青年期、痴呆、診療を受けるに当たっての相談、あるいは、本人・家族に対する危機介入的な訪問、医療継続・受診等に関する訪問指導等、専門的な相談、指導を行います。必要に応じて、保健所に紹介して下さい。
 また、平成14年度から市町村の役割と規定された業務のサービス提供体制の整備や、これらのサービスの利用に関する調整等について、専門的・技術的に支援する機能を持ちますので保健所を活用して下さい。
 精神保健福祉センターは、精神保健福祉に関する知識の普及、調査研究、複雑困難なケースに対する相談指導、アルコール相談、思春期相談、組織育成、精神医療審査会の事務、通院医療費公費負担、精神障害者保健福祉手帳の審査・判定の事務等を行います。
 従って、精神保健福祉業務を円滑に行うためには、日頃より保健所等と連携を密にしておくことが重要となります。
 
Q11 職員研修はどのようにすればよいですか。
 
 精神保健福祉業務担当職員の資質の向上を図る観点から、都道府県が行うケアマネジメント従事者養成研修を受講する機会を確保して下さい。
 
 
(4)財政的支援
Q12 平成11年法改正に伴い、平成14年度以降の市町村の財政負担はどうなりますか。
 
 平成14年度から精神障害者居宅生活支援事業が実施されることに伴い、従来、都道府県が負担していた、精神障害者短期入所事業(従来のショートステイ施設)及び精神障害者地域生活援助事業(グループホーム)のほか、精神障害者居宅介護等事業(ホームヘルプサービス)の経費について新たに負担することとなります。
 負担割合は、国1/2・都道府県1/4・市町村1/4(指定都市1/2)が想定されます。
 
(参考)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 ―抜粋―
 
(国及び地方公共団体の補助)
第51条 市町村は、精神障害者居宅生活支援事業を行う者に対し、当該事業に要する費用の一部を補助することができる。
2 都道府県は、市町村に対し、次に掲げる費用の一部を補助することができる。
(1)市町村が行う精神障害者居宅生活支援事業に要する費用
(2)前項の規定による補助に要した費用
3 都道府県は、精神障害者社会復帰施設の設置者に対し、当該施設の設置及び運営に要する費用の一部を補助することができる。
4 国は、予算の範囲内において、都道府県に対し、次に掲げる費用の一部を補助することができる。
(1)都道府県が設置する精神障害者社会復帰施設の設置及び運営に要する費用
(2)都道府県が行う精神障害者社会適応訓練事業に要する費用
(3)前2項の規定による補助に要した費用








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