「E・M・T」
Emergency Maneuver Training
Rich StowellのEMT (Emergency Maneuver Training) No.11
鐘尾 みや子
第4章 ピッチとパワー(その2)
第2章「基礎空力」で学んだように、迎え角と相対風は揚力を生み出すのに不可欠な要素です。機体の重量に釣り合うだけの揚力を生み出すために必要な相対風、すなわち機体の速度は、それぞれの迎え角ごとに決まっています。空力的にみると、機体の速度はエレベーターによりコントロールされている迎え角の変化に直接左右されます。
図4−5 迎え角に対応する速度
前回において、「速度のコントロールはどの操縦系統で行うのか」という疑問を提起しましたが、これに対する答が「エレベーター」です。すなわち、エレベーターが迎え角をコントロールし、その変化が速度の変化に連動していることから、「エレベーターが速度をコントロールする」ということになります。前回グライダーでの実験で確認したように、操縦桿を押して迎え角を少なくすれば速度は増加し、操縦桿を引いて迎え角を増やせば速度は低下します。
前回ではさらにもう一つ、「高度のコントロールはどの操縦系統で行うのか」という疑問を提起しました。速度をコントロールするのがエレベーターであるなら、高度のコントロールは「パワー」ということになるのでしょうか? このことを、グライダーに動力を与えて実験してみることにしましよう。
動力を与えられモーターグライダーに変身した機体は、もう丘の上まで手で押し上げる必要はありません。今やエンジンを使って運び上げることができます。言い換えればパワーを使うことで、高度という位置エネルギーを機体に貯えることができるのです。
図4−6 パワー使用による位置エネルギーの増加
頂上に着いたらパワーを絞り、エレベーターの位置により速度をコントロールしながら下に向かって滑空します。動力のないグライダーの場合は、前回お話したように滑空速度に対応する経路はそれぞれ一つだけで、いずれも地面に向かうのみでしたが、動力を与えられたモーターグライダーはパワーを使い、速度を保ったまま飛行高度を変えられます。パワーは、グライダーの時には望み得なかった水平飛行や上昇などの飛行領域を与えてくれたのです。
飛行機とグライダーが最も大きく違うところは、エンジンやプロペラなどの外観上のものではなく、燃料を持っているかいないかという点です。燃料は、タンクに貯えられ、運動エネルギーへの変換を持っている位置エネルギーであり、「液化された高度」であるとも言えます。機体に給油するたびに、位置エネルギー(高度)をタンクに注ぎ込んでいるというわけです。
このモーターグライダーを丘の頂上から発進させた時点で、高度(燃料)はいくらか消費されています。飛行機がグライダーに勝るのは、燃料を消費して高度を正確にコントロールする能力です。これで、パワーが高度をコントロールする第一の要因であることがわかり、第2の疑問に対する答がでました。
図4−7 パワーによる高度のコントロール
もちろん、パワーそのものが機体を丘の上に運び上げて飛行を始めるわけではありません。まずエンジンによって燃料が急速に速度に変換され、機体は滑走路上を滑走して離陸します。それから燃料は高度に変換され上昇します。水平飛行で一定の速度を保つにも「液化された高度」である燃料は消費されます。もし燃料タンクが空になれば、高度として貯えられていたエネルギーは滑空速度に変換されなければなりません。
これまでの要点をまとめると次のようになります。
1.ピッチ(エレベーター)は、速度をコントロールする第一の要因です。
2.パワー(スロットル)は、高度をコントロールする第一の要因です。
3.燃料(位置エネルギー)は「液化された高度」と考えられます。
4.速度(運動エネルギー)を得たり、維持したりするには、高度(位置エネルギー)をいずれの形にしろ消費する必要があります。
(以下次号)