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「ラダー操作」  奥貫 博
 
 パイロットのライセンスを取得する訓練の中に失速からの回復操作があります。これは非常に重要視されていまして、単独飛行前の段階から始まり、様々な失速形態の認知と、その回復操作が教育されます。
 この失速回復訓練の中で特徴的な事項がいくつかあります。最初は、エレベータ操作でしょう。それまでは、機首が下がったらエレベータを引くと教わっていたものが、失速して機首が落ち込む状況からの回復では、逆に、エレベータも押す操作が必要になります。これは、十分な速度がある場合とは逆方向の操作になります。
 失速回復訓練では、その点がきちんと訓練されますから、先ず問題は発生しませんが、異常姿勢からの回復訓練をしてみますと、押さなければいけないところで引いてしまったりといった誤操作が顔を出します。滑りを伴う失速から、真下を向いてしまったような場合です。このような場合は下を向いていても、極めて低速な場合がありますから、一瞬押して、速度が付いてから引く操作手順が必要となります。しかし、これはそれほど難しくはありません。
 難しいのはラダー操作です。操縦教本におきましては「失速回復操作中は、翼の水平を維持しようとしてエルロンを使用してはならない、左右の傾きはラダーで修正する」等とされています。失速体験と、その回避訓練中の操作としては、早め早めの細かいラダー操作で傾きが発生しないように支えると言った感じになろうかと思います。
 そこまでは良いのですが、何らかの事象で、失速と共に主翼が急に大きく傾くような場合が問題です。この場合も、回復操作の正解は「ラダーで水平に復帰させる」となりますが、この操作が難しいのです。
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このような傾きへのラダー操作は難しい
 ラダーで水平を維持することは、主翼の上反角効果を利用する訳です。従って多少の時間遅れがあります。ラダー操作が、ダイレクトに傾き修正となるのではなく、滑り発生、上反角効果発生、そして傾き修正の順となるので、この時間遅れが生じるのです。
 実際に、急激な傾きを伴う失速等の回復訓練をして見ますと、先ずは、急な傾きに惑わされて、エルロン操作が先に出てしまいます。失速状態でのエルロン操作は禁止ですから、ラダーのみの操作にトライしてみますと、これが難しくて、オーバー・コントロールになってしまいます。思いきってラダーを踏みこみ、翼が水平になるまでそのまま保持しているものですから、水平を通り越して反対側に大きく傾き、それをまたラダーで修正しているうちに、傾きの揺れが発散状態になってしまうのです。
 これでは、何が何やらの状態になってしまいます。従って、翼が水平になる相当前の段階から、ラダーは中立に戻すか、あるいは若干逆に踏みこむ操作が必要となるものですが、これは実に微妙なタイミングを必要とする難しい操作ですので、訓練なしに出来るものではありません。
 そのような訳で「失速状態での傾きへの対処はラダー操作」というのは正解なのですが、合わせて、大きな傾きを伴う失速状態の回復のラダー操作は極めて難しいということも認識しておく必要があると思います。








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