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「E・M・T」
Emergency Maneuver Training
Rich Stowell のEMT (Emergency Maneuver Training) No.4
鐘尾 みや子
第2章 基礎空力
 飛行機の動きは不変の空気力学的法則に支配されており、飛行機は、エンジンの数、翼の取り付け位置や尾翼の形にかかわらず、揚力、抗力、迎え角、そして安定性の変化に反応します。この章では、EMTの骨格をなす「飛行の基本原理」について復習します。
 ベルヌーイによれば、気流の流れにより生み出される圧力の総和(全圧:H)は、静圧(p)と動圧(q)の合計(H=p+q)となります。全圧は常に一定ですから、静圧の低下は全圧を維持するために動圧の増加をもたらします。同様に、静圧の増加は動圧の低下をもたらします。
 ニュートンは、「物体に作用する力の大きさは、質量と加速度によって決定される」と定義しました。有名なF=mαの式です。また、「全ての作用は、同量の反作用を伴う」ことも理論付けしました。
 これらの法則を、板きれを使って試してみることにしましよう。
 板きれを風洞に入れると、周りの空気はこの左右対称の板きれの表面に沿って加速します。部分的な静圧と動圧の不均衡は発生せず、従ってベルヌーイの法則から正味の揚力は生み出されません。気流の流れも板きれの周辺で等しく進路をそらされているので、ニュートンの法則からも効果は生み出されません。(図2−1)
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図2−1 迎え角ゼロのときの気流の流れ
 しかしここで、この板きれをほんの少し傾けると、A点からC点への流れは上面の方が下面に比べ少し長くなります。すると上面を流れる気流は下面を流れる気流より加速され、この結果、上面においては動圧の正味の増加が起こるとともに、同量の静圧の減少が発生します。減少した静圧は板きれを上へ引き上げ、下面のより高い静圧は板きれを上へ押し上げます。また、下面を流れる気流は板きれの表面にぶつかり、板きれはこの作用と同量の反作用を受けるため、上方と後方に押し上げられます。(図2−2)
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図2−2 迎え角が小さいときの気流の流れ
 このように、相対風の方向に対して垂直方向に作用する成分が揚力で、相対風の方向に対して平行に後ろ向きに作用する成分が抗力です。揚力は役に立ちますが、抗力は実用上役に立ちません。しかし、揚力を得ようとするとき、抗力は必ずついてくるものなのです。また、傾きがある一定角を越えると、板きれの上面の気流はその表面から突然引き離されることもわかりました。
 こんな板きれでも飛ぶには飛びますが、抗力が大きく、大馬力が必要で、あまり実用的ではありません。そこで飛行機の翼として、実際には流線型の翼型が多くの機体に採用されています。(図2−4)
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図2−4 流線形の翼型
 ここで、いくつかの用語について、おさらいをしておきましょう。
 「相対風」は、翼に作用する空気の流れです。
 「揚力」は、相対風の方向に対し垂直に働く力で、次のように定義されます。
 L(揚力)=C1(揚力係数)×q(動圧)×S(翼面積)
 「抗力」は、相対風の方向に対し平行に働く力で、次にように定義されます。
 D(抗力)=Cd(抗力係数)×q(動圧)×S(翼面積)
 「迎え角」(AOA:Angle of Attack)は、翼弦線と相対風とのなす角度です。
 「臨界角」は、翼表面の円滑な気流の流れを乱すことのない最大迎角です。
 「失速」は、臨界角を越えると発生する、翼面からの気流の剥離です。
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図2−5 揚力/抗力係数 対 迎え角
 図2−5は典型的な翼の揚力係数C1及び抗力係数Cdと、迎え角との関係を示したものです。以下の点が重要なポイントです。
 1. 揚力係数、抗力係数は速度に左右されません。
 2. 迎え角の臨界は一定で、速度や機体の姿勢に左右されません。
 3. 迎え角の臨界を越えても翼はまだ揚力を発生していますが、抗力に比べその割合は小さくなります。








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