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「スピン対処訓練」  奥貫 博
 
 エアロンカの先月号から、EMT(緊急機動訓練)の連載が始まりました。今まで、異常姿勢対処の話を様々な形で紹介してきました立場としましては、大変喜ばしく、また、肩の荷が下りたといった感じです。経験豊富なアメリカの空でまとめられ、原理原則に沿った本物の内容ですから、じっくりと読んで、身につけていただければと思います。 そのような訳で、私の異常姿勢分野の話は、今回のスピン対処訓練を持って一区切りにできればと思っています。
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機首の位置が高く、地平線の見えるスピン
 私は、常々、体験した異常姿勢領域の先には、また新しい異常姿勢領域が存在すると言い続けてきました。今回は、その辺をスピンを例にとって説明したいと思います。
 先ず、スピン訓練の現場を考えて下さい。それは、理想的な飛行機、重量重心、手順、空域、気象状態、高度等で実施されることと思います。下の表のAの組み合わせがそれです。そこから、エレベータの引きを緩めますと、機首が下がってBの状態になります。通常のスピン訓練で体験させられる領域は、先ずは、この辺までであろうかと思います。
 もちろん、アクロ訓練に先だって行われる本格的な異常姿勢対処としてのスピン訓練であれば、C、E、Fといった組合せも実施されることと思います。Dは少々特殊な例で、機体メーカーの立場では、U類の重心最後方と着陸形態フラップの組合せでスピン試験を実施したりしますが、スピン中の機首の上下の揺れが大きく、全く別のスピンになります。上の写真はそのようなスピンのものですが、雲と地平線が見えていますので、機首位置の高さがお分かりいただけると思います。
 さて、実際の予期せぬスピンを考えてみましょう。いつどのような場合でもと考えますと、重心はN類の最後方のこともあるでしょうし、フラップや、エンジンパワーの組合せも様々でしょう。また、視程不良あるいは夜間等で地平線の目標がとれず、機首の上下位置が把握できないこともあるでしょう。先日紹介させて頂きましたスパイラル・ダイブなどは、旋転と言った意味からはスピンに似ているともいえますが、この表にも含まれない、極めて危険な領域ということになります。
 まして、低高度であれば、適切なスピン対処の実行などは、極めて難しいものになるでしょう。 そのような訳で、結論としましては、スピン対処訓練は、スピンの回復を覚えるためのものではなく、スピンに入れないことを覚えるもの、と解釈した方が身のためであると思っています。
様々なスピンの例−通常のスピン対処訓練で体験できるのはA又はBまで
機体形態、飛行姿勢等の様々な状態 組み合わせの例
A B C D E F
機首下げ状況 通常の機首下げスピン        
機首が下がらないフラットスピン      
極端に下を向いた加速スピン          
エンジン出力 アイドル出力        
上昇、巡航等の高いエンジン出力    
フラップ位置 上げ状態  
離陸、着陸位置等の下がった状態          
重心位置 前方(スピン実施許容範囲内)      
後方(後席搭乗、後方荷物搭載等)        
重量状態 軽量(スピン実施許容範囲内)    
全備重量等の重い重量状態        
飛行姿勢 通常姿勢(上下正常)    
背面姿勢(上下逆)        








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