日本財団 図書館


(1)基本水準面モデルの信頼性
 
 験潮による海面高測定の精度についての考察(地殻変動と地盤沈下の影響について)
 
 海面高モデルを作成するにあたって、一つの誤差要因は、今回、基本水準標のGPS測量を実施した時期(2000年〜2001年)と、短期(1ヶ月程度)の潮位観測により基本水準標と海面高との結合を実施した時期(古いものでは、1948年に実施)が異なるために生じる問題がある。長期的な地殻の上下変動、地盤沈下、また、水面高の長期変動により、海面と基本水準標の高さの差が、長年の間に変化してしまう影響である。
 温暖化に伴う水面上昇は、今回の海域が瀬戸内海と比較的に狭く、今回のデータだけでは周辺の地殻変動との分離が難しいこと、また、地球温暖化にともなう海面高上昇はその現象が仮に有意に生じているとしても、この10年間程度で地殻変動の影響よりずっと小さいと見られることから、今回は考慮していない。ただし、今後、有意な海面高上昇に関する信頼できる報告が得られた場合は、その成果を取り込むことを検討する必要がある可能性がある。
 地殻変動に関しては、国土地理院海岸昇降検知センターが、常設験潮所の永年のデータを整理し、加藤・津村(1979)の方法により、潮汐等をのぞいて各験潮所の地殻変動と地盤沈下を見積もっている(地震予知連絡会会報、第66巻;国土地理院,2001年)。その結果を図20,図21に示す。中国地方の瀬戸内海沿岸の宇野や広島で比較的速い年間5mm程度と比較的に速く沈降している。概ねこの範囲では、南の方が隆起し北の方が沈降していることによる。南側の四国地方と北側の山陰の海岸では変動は小さい。この変動の主な原因は、西南日本南側のフィリピン海プレートの沈み込みによるものと考えられ、瀬戸内海全体の大まかな傾向を示すと見られる。
 沈降5mmの速度の場合、50年間で25cmになることから、補正が必要と思われ、今後の検討課題である。
 なお、特筆すべき事として、1995年1月の兵庫県南部地震にともなう20cm程度の大きな地盤の沈降による地殻変動があり、神戸の験潮所の記録に明確に現れている。神戸の1995年の大きな変動は、兵庫県南部地震による地殻変動の影響を示す。今回の基本水準標のGPS測量の中で、明石の結果については検討を要する。その他について、瀬戸内海から四国にかけては、図20に同じく、洲本、小松島、宇和島、高知など南が隆起し北が沈降する。さらに北よりの山陰地方の境、浜田では、山陽地方よりも沈降が遅いことによる。
 また、これらの常設験潮所の結果では顕著に現れなかったが、場所によっては地下水のくみ上げなどにより地盤沈下が進行し、日本の主なところとして、関東平野、新潟平野、濃尾平野、および大阪平野のそれぞれ特に海岸に近い場所など大きい場合には数メートルの沈降が生じた場所もいくつかある。
 最近、国土地理院では、明治時代以降の水準測量の成果を整理して、日本列島全域のこの100年間の地殻上下変動をまとめた、これは、比較的狭い場所で集中的に起こる地盤沈下と広域の地殻変動のどちらも含んでいる。地殻変動については概ね常設験潮所の結果と一致している。
 一方、地盤沈下に関しては、図22に示すように瀬戸内海沿岸では、広島平野と岡山平野で大きな変動があったと見られている。ただし、図20に示すような広島験潮所の記録には現れていない。これらの影響を、水準測量成果等を用いて見積もり、今回のGPS測量結果への影響を補正するかどうか検討する必要がある。
 
(拡大画面: 175 KB)
z1032_01.jpg
図20. 瀬戸内海における加藤・津村(1979)の方法による常設験潮所の験潮記録からえられた各地の長期的な地殻変動。(数値は平均的な変動速度;国土地理院(2001))








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION