(2) Smith&Sandwell(1994)導入時の留意点
本研究にSmith&Sandwell(1994)の手法を導入する際、昨年度までに以下の工夫を行っている。
1) 高速フーリエ変換(FFT)時の境界の影響抑制
バンドパスフィルター処理やロウパスフィルター処理などでFFTを実行する際、領域の境界の影響を抑制するため、以下の二つの工夫を行った。
・計算領域の外縁部にコサインテイパー処理を施し滑らかにした。
・計算領域として水深予測対象領域より広い範囲を設定、FFT後に対象領域のみを抽出した。
2) バンドパスフィルターに深さ依存性を導入
重力データの処理においてバンドパスフィルターにSmith and Sandwell(1994)と同じものを採用した。(Smith and Sandwell(1994)eq.(14))これは深く下方接続する時ほど短波長成分をカットする形状であり、結果的にノイズ(予測水深結果のリップル)を抑制することができた。'
1)、2)に関連して、フィルターの形状、インパルスレスポンス、ボックスカー入力とコサインテイパー入力のテスト結果を図2-9〜12に示す。
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図2-9 Smith&Sandwell(1994)バンドパス+下方接続フィルターの形状
図2-10 S&Sバンドパスフィルター+下方接続インパルスレスポンス
図2-11 S&Sフィルターのボックスカー入力テスト(断面図)
図2-12 S&Sフィルターのコサインテイパー入力テスト(断面図)
3) 標準偏差による伝達関数Sの計算
重力と水深の関係は伝達関数Sによって表現される。
S = σ_h / σ_g
ただし、
σ_h:観測水深バンドパス成分の標準偏差、σ_g:重力異常バンドパス成分の標準偏差
Smith and Sandwell(1994)では、このSの計算時に標準偏差ではなく重み付き中央値の絶対値を用いている。これは、データ数が少なく正規分布と見なせない場合の便宜的手法である。本研究ではSmith and Sandwell(1994)で用いられていない良質な観測水深点データを独自に品質管理することで対象海域内でのデータ数を確保した。その結果、対象海域内で十分なデータ数密度があるとみなし、重み付き中央値の絶対値ではなく標準偏差を用いた。
4) Nettleton格子サイズ
Smith and Sandwell(1994)では伝達関数Sを計算する際のNettleton格子サイズとして経度方向1度×緯度方向2度を採用した。本研究ではより局所的に重力と水深の関係を捉えるため、Nettleton格子サイズを0.5度×0.5度とした。これは緯度30度付近でおよそ東西方向48km×南北方向55kmに相当する。
5) 予測水深の格子サイズ
Smith and Sandwell(1994)では予測水深の格子サイズとして経度方向3分×緯度方向1.5分を採用した。本研究ではより詳細に水深データを整備するため、格子サイズを1分×1分とした。これは緯度30度付近で東西方向1.6km×南北方向1.8kmに相当する。