(10)消波施設の有無との関係
第3章の「3.3現地調査の結果(全体集計結果)」において示した消波施設有無別・地盤高別のヨシの生育特性値の集計結果を図4.2.36に再掲する。
これによれば、ヨシ茎個体数密度はB.S.L.−40〜20cmの間において消波施設無しの方が消波施設有りを上回り、草丈はB.S.L.−80〜−10cmの間において消波施設無しの方が消波施設有りを上回る値を示した。
琵琶湖の平均的な水位状況下において波打ち際に比較的近いこれらの水深レベルのヨシ生育特性が、消波施設無しの方が勝ったという結果は、一見すると消波施設の存在がヨシに好ましい効果を与えているとは言えないように映る。
しかしながら、先の分散分析の結果からは、調査地区・測線の違いがヨシの生育特性に寄与していることが示唆されており、これには消波施設の有無による違いも反映されているものと考えられる。
図4.2.36は、今回調査した全てのデータを対象にしたものであるが、そもそも波浪の影響の程度が異なる地区のデータを、全て横並びで評価すること自体に無理があるとの見方もできる。消波施設が設置されている場所は、元々状況的に波の影響が大きいと判断される可能性の高い場所であり、潜在的に立地条件の厳しい状況下にあるとも考え得るからである。
図4.2.36 消波施設有無別の地盤高別のヨシ平均値分布(図3.3.10再掲)
このため、同一地区の、他の条件が比較的類似した場所同士を対比させて、消波施設の設置の有無による違いを見てみることとする。
ここに、同一地区内に消波施設の有る測線と無い測線の両方が存在するC地区及びD地区を抽出し、波の影響を受けやすいと考えられる各測線のヨシ群落内中間点より沖側のコドラートデータ(表4.1.3に示した陸沖区分の沖域)を対象に、ヨシの生育特性及び環境条件値を比較した。
表4.2.6に比較データの集計結果を、図4.2.37にそれをグラフ化したものを示す。
表4.2.6 消波施設の有無に着目したC、D地区各測線沖域コドラートデータ平均値の比較
地区 |
測線 |
自生・植栽
消波有無別 |
ヨシ平均
茎個体数
密度
(本/m2) |
ヨシ平均
草丈
(cm) |
ヨシ平均
茎径
(mm) |
底泥の粒度特性 |
粗砂以上
(%) |
細砂
(%) |
シルト以下
(%) |
中心粒径
(mm) |
10%粒径
(mm) |
均等
係数 |
曲率
係数 |
C |
C-1 |
植栽・消波無 |
51.5 |
156.0 |
4.3 |
73.1 |
26.7 |
0.2 |
2.10 |
0.250 |
16.0 |
0.2 |
C-2 |
植栽・消波有 |
67.7 |
147.3 |
6.7 |
40.1 |
33.4 |
26.5 |
0.28 |
0.018 |
23.4 |
1.3 |
C-3 |
自生・消波無 |
55.2 |
140.2 |
5.6 |
4.1 |
73.3 |
22.6 |
0.15 |
0.018 |
9.4 |
3.3 |
D |
D-1 |
自生・消波無 |
42.5 |
235.4 |
6.7 |
6.4 |
92.8 |
0.8 |
0.19 |
0.120 |
1.7 |
1.0 |
D-2 |
植栽・消波有 |
14.0 |
108.7 |
4.5 |
42.5 |
56.4 |
1.1 |
0.35 |
0.145 |
3.1 |
0.8 |
D-3 |
植栽・消波有 |
82.5 |
107.3 |
5.0 |
80.6 |
17.9 |
1.5 |
1.20 |
0.185 |
8.4 |
1.4 |
地区 |
測線 |
自生・植栽
消波有無別 |
底沼表層平均硬度 |
混生植物 |
平均地形勾配 |
底沼の科学的特性 |
平均種数 |
平均被度 |
pH |
強熱減量
(%) |
全窒素
(mg/g・dry) |
全リン
(mg/g・dry) |
硫化物
(mg/g・dry) |
酸化還元電位(mV) |
C |
C-1 |
植栽・消波無 |
563 |
0.0 |
0.0 |
-0.01 |
6.7 |
1.0 |
0.20 |
0.180 |
0.03 |
-52 |
C-2 |
植栽・消波有 |
568 |
2.0 |
4.2 |
-0.01 |
7.8 |
1.8 |
0.25 |
0.260 |
0.37 |
18 |
C-3 |
植栽・消波無 |
464 |
0.0 |
0.0 |
-0.01 |
6.4 |
3.7 |
0.55 |
0.190 |
0.04 |
150 |
D |
D-1 |
植栽・消波無 |
374 |
0.3 |
0.7 |
-0.05 |
6.0 |
0.7 |
0.10 |
0.100 |
0.04 |
76 |
D-2 |
植栽・消波有 |
232 |
1.0 |
2.0 |
-0.01 |
6.6 |
0.9 |
0.10 |
0.140 |
0.18 |
-141 |
D-3 |
植栽・消波有 |
248 |
1.0 |
3.0 |
0.00 |
6.7 |
4.2 |
0.45 |
0.240 |
0.05 |
-188 |
注)各側線ともヨシ群落中間点より沖域のコドラートデータを対象とした。
(拡大画面: 280 KB)
図4.2.37 消波施設の有無に着目したC、D地区各測線沖域コドラートデータ平均値の比較
これによれば、C地区ではヨシ平均密度及び平均茎径において、消波施設有のC−2測線が消波施設の無いC−1及びC−3測線の値を上回り、ヨシの生育特性値に対して消波施設の設置がプラスに寄与している可能性がうかがえる。
しかし、D地区に関しては、D−3測線のヨシ密度が相当に高い値を示したものの、平均草丈及び平均茎径に関しては自生で消波施設の無いD−1測線が最も高い値を示している。D−3測線の高密度は局所的に密度の高い株立状のヨシ(276本/m2)が計測されたことが影響しており、このデータを除けば平均ヨシ密度は18本/m2となる。外観上も明らかにヨシ群落としてはD−3よりもD−1測線の方が良好な生育状態を呈しており、D地区に関しては、ヨシの生育特性の面で、消波施設の有るD−2、D−3測線と比べ、消波施設の無いD−1測線の方が勝っていると判断される。
C地区に関し、消波施設有りのC−2測線と消波施設無しのC−1、C−3測線とで顕著に傾向の異なる環境条件指標を抽出してみると、下記の項目について、消波施設有り(C−2)が無し(C−1、C−3)よりも明らかに値の高い値を示していることが示された(数値の単位は省略)。
《C地区》消波有りが無しよりも高い指標
◇均等係数(有:23.4、無:9.4〜16.0)
◇混生植物種数(有:2.0、無:0)
◇混生植物被度(有:4.2、無:0)
◇pH(有:7.8、無:6.4〜6.7)
◇全リン(有:0.26、無:0.18〜0.19)
◇硫化物(有:0.37、無:0.03〜0.04)
D地区についても同様に抽出すると、次のとおりであった(数値の単位は省略)。
《D地区》消波有りが無しよりも高い指標
◇中心粒径(有:0.35〜1.2、無:0.19)
◇10%粒径(有:0.145〜0.185、無:0.12)
◇均等係数(有:3.1〜8.4、無:1.7)
◇混生植物種数(有:1.0、無:0.3)
◇混生植物被度(有:3.0〜5.0、無:0.7)
◇平均地形勾配(有:0〜−0.01、無:−0.05)
◇pH(有:6.6〜6.7、無:6.0)
◇全リン(有:0.14〜0.24、無:0.10)
《D地区》消波有りが無しよりも低い指標
◇底泥硬度(有:232〜248、無:374)
◇酸化還元電位(有:−141〜−188、無:76)
上記より、均等係数、混生植物種数、混生植物被度、pH、全リンの各指標については、C、D地区共通で抽出されたことから、消波施設の設置に伴い値が高くなる傾向のあることが示唆される。しかしながら、C地区においてはこれがヨシの生育に対してプラスの寄与、D地区では逆にマイナスの寄与となっている可能性のある点には、留意が必要と考えられる。
**第4章引用・参考文献**
1)中村義作.1997.よくわかる実験計画法.海鳴社
2)桜井善雄・苧木新一郎・田代清文.1989.湖岸・河岸帯の植栽時における侵食防止材料の検討.日本陸水学甲信越支部会報
3)滋賀県琵琶湖研究所.1987.3.湖岸システムの機能とその評価に関する総合研究報告.滋賀県琵琶湖研究所プロジェクト研究報告書.65−102、110−131.
4)土質工学会編.1979.土質試験法(第2回改訂版).学芸出版社
5)鈴木紀雄・川嶋宗継・遠藤修一・板倉安正・木村保弘.1993.琵琶湖におけるヨシ群落に関する研究―ヨシ群落内の物理・化学・生態的性状―.滋賀大学教育学部紀要 自然科学・教育科学No.43. P19−41
6)宇多高明・小菅晋・伊藤正光.1998.風浪の作用下での湖岸への植生の繁茂条件について.海岸工学論文集.Vol.45.p1116−1120