(8)過去の植栽工法との関係
調査したコドラートのうち、過去の植栽帯の中に含まれるものを対象に、植栽当時に採用された工法とヨシ生育特性との関係を見てみる。
植栽帯に位置するコドラー卜数と植栽工法は表4.2.4に示すとおりである。
表4.2.4 過去の植栽帯内のコドラート数及び採用された植栽工法
工法 |
測 線 |
計 |
A-2 |
A-3 |
B-1 |
B-2 |
B-3 |
C-1 |
C-2 |
D-2 |
D-3 |
E-2 |
E-3 |
挿し木苗法 |
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2 |
4 |
9 |
8 |
3 |
4 |
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5 |
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35 |
マット法 |
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2 |
7 |
9 |
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5 |
23 |
実生苗法 |
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6 |
3 |
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9 |
大株法 |
1 |
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1 |
堀取苗法 |
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3 |
4 |
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7 |
計 |
1 |
2 |
4 |
18 |
15 |
3 |
6 |
7 |
9 |
5 |
5 |
75 |
なお、同一カ所で複数回植栽が実施されている箇所の植栽工法は最新年度の工法とした(ただし、部分的補植のみのものを除く)。
また、表中の工法のうち、挿し木苗法は第2章で既存の知見として紹介した淡海環境保全財団の特許による方法であり、計7測線で採用されている。
また、同財団による堀取苗法は、第2章で紹介した一般的植栽工法のうちの小株法に、実生苗法はポット法に該当する工法である。
大株法は水資源開発公団が採用した工法であるが、調査地区にはA−2測線の1コドラートのデータしか存在しない。このため、以下の分析においては、同様の手法である堀取苗法(小株法)と合わせ、「株植え法」として一括した。
[1]植栽工法別のヨシ生育特性の比較
図4.2.33にこれらの植栽工法別・ヨシ生育特性分類別のコドラート数とその構成割合を示す。また、図4.2.34には、植栽工法別の植栽帯内コドラートの平均ヨシ茎個体数密度、平均草丈、平均茎径の比較を示す。これらの図をもとに、各工法の特徴を見ると次のようである。
図4.2.33 植栽工法別コドラートのヨシ生育特性分類別の数と構成割合
注.株植え法:大株法+堀取苗法
図4.2.34 植栽工法別ヨシ平均生育特性値の比較
◆挿し木苗法
挿し木苗法はコドラート数が各工法の中で最も多く35コドラートが存在する。本法ではヨシ密度の高い(高多、低多)コドラートが10ヶ所存在するが、ヨシ無しコドラートもほぼ同数の11ヶ所ある。この結果、平均ヨシ密度は全工法の中で最も低い結果となった。平均草丈や平均茎径はマット法、実生苗法とほとんど変わらないが、植栽成功率という面ではやや見劣りするように思われる。
◆マット法
マット法は挿し木苗法に次いでコドラート数が多く23コドラートが存在する。ヨシ密度の高いコドラートは7ヶ所であるが、ヨシ無しコドラートの数は上記の挿し木苗法よりも少ない4ヶ所であり、比率的に見れば上法よりもヨシの生育状態は相対的に良いと判断される。ヨシ密度、草丈、茎径ともに全工法の中では平均的と言える。
◆実生苗法(ポット法)
実生苗法では、密度の高いヨシ(高多)と密度の低いヨシ(低少)、及びヨシ無しコドラートがそれぞれ約1/3程度ずつ存在する。高密度のヨシの比率はマット法よりもやや高いが、逆にヨシ無しコドラートの比率が全工法の中で最も高く、植栽失敗となる可能性も高い工法であることが示唆される。平均ヨシ密度は全工法の中で最も高いが、これはサンプル数9コドラートのうち、B−2測線の沖寄りで高密度の株立ちヨシをカウントしたコドラートが2ヶ所(136本/m2、312本/m2)含まれたことによっている。
◆株植え法
大株法と堀取苗法(小株法)を合わせた株植え法では、ヨシ無しコドラートが存在せず、密度の高いヨシ(高多、低多)のコドラートの占める比率は全工法の中で最も高い。ヨシ密度は全工法の中で平均的であるが、平均草丈と平均茎径はともに最も高い。背が高く、茎の太いヨシが標準的な密度で生育していると言える。
[2]植栽工法と地盤高
図4.2.35にヨシの生育特性分類別のコドラート地盤高分布を、各植栽工法別に示す。
図4.2.35 植栽工法別のコドラート地盤高分布
これによると、挿し木苗法は、地盤高B.S.L.40〜−70cmまで幅広いエリアが対象となっている。ヨシ存在コドラートのうち陸上部(B.S.L.プラス)のものはいずれも、密度の低い(高少、低少)ヨシであり、密度の高い(高多、低多)ヨシは全て水中(B.S.L.マイナス)の領域である。ヨシ無しコドラートのほとんどはB.S.L.+20〜−40cmの区間にあり、挿し木苗法では、概してこの地盤高において植栽ヨシが定着する確率の低いことがうかがえる。
マット法のコドラートは全てB.S.L.マイナスの領域にある。この工法では背丈の高いヨシ(高多、高少)が水深の浅い側(B.S.L.−30cmまで)に分布し、背丈の低いヨシ(低多、低少)及びヨシ無しコドラートが水深の深い側(B.S.L.−30cm以深)に分布している。植栽後のヨシの生育・定着という点からすると、マット法では水深の浅い領域がやや有利のように見受けられる。
実生苗法のコドラートは全てB.S.L.−40cm以深の比較的水深の深い領域にあり、概ね同じ地盤高領域に「高多」と「低少」と「ヨシ無し」が同数存在している。植栽成否に関わっている主要な要因が、地盤高以外の要素である可能性をうかがわせる。
株植え法は、全てB.S.L.プラスの領域が対象となっている。高密度のヨシと低密度のヨシとで地盤高の差がなく、本法も植栽成否に関わっている主要な要因が地盤高以外に存在している可能性が示唆される。