4.2 コドラートデータの分布特性による検討
前節では、2元配置分散分析により、ヨシ茎個体数密度に対して、地区、地盤高の主効果及び2因子交互作用の効果が有意であると示されたほか、1元配置分散分析により、地質・底質条件のうち均等係数や全リン濃度などの幾つかの指標がヨシの生育との間に何らかの関係を有することが示唆された。
前節の検討は地区や測線の特性的相違を支配する要因要素を見出すことを主眼として、統計的有意性の検定を含めた解析を行ったものであるが、本節では、この結果を踏まえつつ、やや別の視点から主として個々のデータの分布特性に着目した場合のヨシの生育の傾向を細かく分析してみることとした。
(1)生育特性に基づくコドラートデータの分類
本調査研究はヨシ植栽の効率向上を目的として、今後の植栽にあたり留意すべき条件の分析・検討を行うものであるが、その条件を整理するに際しては、ヨシ生育の良否を判断する基準的なものを設定しておくことが望ましい。すなわち、植栽成功の判定の拠り所となる評価尺度を概略的にでも定めておくと、ヨシの生育との関連において環境条件の善し悪しを比較する上で都合がよいと考えられる。
望ましいヨシ生育の姿については種々の考え方があろうが、先述(第3章)のように、本調査対象区域のヨシの平均的形状が既存資料による琵琶湖のヨシ形状と比べて概ね標準的分布範囲に収まっていたこと(図3.3.5参照)を踏まえ、ここでは便宜的に本調査区域全データの平均値を基準として採用した。
単純に言えば、ヨシが存在したコドラートのうち、「背が高く」「茎が太く」「密度の高い(多い)」ヨシ帯を最も良好なヨシ帯、逆に「背が低く」「茎が細く」「密度が低い(少ない)」ヨシ帯を最も不良なヨシ帯と考え、その判断の基準を全データの平均値としたものである。
ここに、全コドラートデータの平均形状値により、
草丈200.6cm以上 |
:「高」、 |
未満:「低」 |
|
茎径6.0mm以上 |
:「太」、 |
未満:「細」 |
|
密度51.6本/m2以上 |
:「多」、 |
未満:「少」 |
|
とし、その組み合わせにより各コドラートデータを次表のようにグループ分類した。
各分類群のコドラート数を図示すると図4.2.1のとおりである。
表4.2.1 コドラートデータのグループ分類
グループ分類 |
データ数 |
大分類 |
小分類 |
  |
ヨシ形状測定 |
底質サンプリング |
高多 |
高太多 |
植栽地 |
8 |
19 |
3 |
4 |
自生地 |
11 |
1 |
高細多 |
植栽地 |
4 |
5 |
3 |
3 |
自生地 |
1 |
0 |
低多 |
低太多 |
植栽地 |
6 |
8 |
2 |
2 |
自生地 |
2 |
0 |
低細多 |
植栽地 |
5 |
18 |
2 |
5 |
白生地 |
13 |
3 |
高少 |
高太少 |
植栽地 |
11 |
29 |
4 |
9 |
自生地 |
18 |
5 |
高細少 |
植栽地 |
2 |
7 |
0 |
1 |
自生地 |
5 |
1 |
低少 |
低太少 |
植栽地 |
6 |
22 |
0 |
3 |
自生地 |
16 |
3 |
低細少 |
植栽地 |
15 |
34 |
4 |
5 |
自生地 |
19 |
1 |
ヨシ無し |
植生有 |
植栽地 |
(14) |
(77) |
0 |
2 |
その他 |
(63) |
2 |
植生無 |
植栽地 |
(4) |
(16) |
[16] |
その他 |
(12) |
(注)・( )はヨシが無く形状測定していないコドラート数。
・[ ]は沖域の調査地点数(コドラート以外の地点)
・植栽地とは過去にヨシが植栽された場所を指す。
図4.2.1 各分類群のコドラート数
各分類群のうち、「高太多」と「低細少」はそれぞれ最上位と最下位として感覚的に理解し得るが、前表の並びはその中間の組み合わせに明確な順位を与えたものではない。ただ、1mコドラートでのヨシ湿重量データの分布を分類群ごとに表した図4.2.2によれば、各分類群の湿重量データにはそれぞればらつきはあるものの、平均湿重量でみると「高細多」を除き概ねその順番に並んでいる。このため、バイオマス的観点からすれば、分類群が大略この順位にあるとしても大きな矛盾はないように思われる。
なお、前節4.1の分散分析に基づく検討では、測線ごとに陸域と沖域の区分でヨシ生育指標データを平均し、地質・底質データとの対応関係を解析したが、本節では、地質・底質とヨシ生育指標を1対1のコドラートデータで対応させて検討した。
図4.2.2 分類群別湿重量(1m2あたり)の分布
(2)生育密度と重量の関係
図4.2.3に両者の関係を散布図にして示す。
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図4.2.3 ヨシ茎個体数密度と重量の関係
当然とも言えるが、湿重量と乾重量とで散布の傾向は類似しており、1m2あたりではヨシ茎個体数密度が高いほど重量が増加する傾向がある。その近似直線の勾配より分類群を比較すると、草丈の高いグループの方が低いグループよりも密度増加に伴う重量増加が顕著である。
ヨシ1本あたりで見ると、分布はかなりばらついており一定の相関関係は認められない。しかし、全体的傾向としては、ヨシ1本あたり重量の上限値はヨシ密度が低い場合に相対的に高く、ヨシ密度が高くなると相対的に低くなっているのがわかる。このことは、ヨシ密度とヨシ1本湿重量の関係における上限値には、ある一定の関係があること、すなわち、ヨシ個体の大きさ(1本あたり重量)に応じて、生育できる密度には限界があることを示唆しているように思われる。