はじめに
古来、滋賀県琵琶湖のヨシ群落は万葉集にも謳われるほど雄大な原風景を醸し、水辺の生き物を育み、人々の生活の糧として種々利用されてきた。ヨシ群落は、景観の保全、生態系の保全のみならず、風波による浸食から湖岸を守り、湖岸で反射する波を吸収して和らげるなど、湖辺を往来する船舶の航行安全面においても重要な役割を果たしているほか、近年では水質浄化という側面からもその機能が注目されており、その存在意義は高い。しかしながら、かつて琵琶湖の湖周に約260ha(1953年)と広大な面積を占めていたヨシ群落は、県域の発展に伴う湖岸の開発や護岸の整備によって約130ha(1992年)にまで激減し、現在ではその本来の環境保全機能と効用の有効性が著しく低下したと言わざるを得ない状況にある。
このような背景のもと、滋賀県ではヨシ群落の維持保全、回復を図ることを目的として、平成4年7月にヨシ群落保全条例が施行された。
当淡海環境保全財団では、ヨシを「守る」「育てる」「活用する」の3つを柱とする当該条例の主旨に基づき、滋賀県からの委託ならびに自ら推進する事業としてヨシの植栽、維持管理、活用に係る各種事業に取り組んでいるところであるが、ヨシの植栽事業においては琵琶湖の多様な自然条件にも起因して十分なヨシの活着が得られていないのが現状であり、その原因の特定と対策は、県民の期待に応える意義を含め、当財団はもとより滋賀県行政にも関わる重要かつ急務な課題の一つとなっている。
本調査研究は、当財団が今日までに実施してきたヨシ植栽の経験と実績ならびにヨシの生態的特性と植栽工法等に係る既存の知見を踏まえ、また現地で必要な情報を収集することにより、ヨシ植栽成否に係る工法及びその条件を明らかにし、今後の植栽技術の向上と植栽事業の効果的推進及び地域の環境保全に寄与することを目的として、日本財団からの助成を受けて実施したものである。
なお、本調査研究は当財団が東レエンジニアリング株式会社に委託して実施したが、同社が実作業を進めるに際し、立命館大学理工学部環境システム工学科教授の山田淳氏、京都大学大学院工学研究科教授の藤井滋穂氏(元立命館大学助教授)、立命館大学大学院博士後期課程の田中周平氏及び修士課程の松本宏之氏らより、数々の資料の提供、現地調査及びデータ解析の協力、調査の企画段階から成果とりまとめまでの一連の作業に係る助言・指導など、多大な助力を賜った。本紙面を借りて、ここに厚く御礼申し上げる次第である。
2002年3月
財団法人 淡海環境保全財団