第五回海洋文学大賞の選考を終えて
曽野綾子選考委員長(小説・ノンフィクション部門)
稔航一郎氏の「帆船の森にたどりつくまで」を私は少し不純な理由から推薦した。先の教育改革国民会議で、私は奉仕活動を義務づけることを提唱したが、強制はいけないと反対の火の粉を浴びた。しかしここには「ぼくの周りのものはすべて精密な虚構だった」主人公や、親に勝手に海に送られた少年たちが、結果的には雄大な生の実感を把握する経過が実証されている。
佐藤敏氏の「オールマン」は小説らしい小説で、もっと精緻に創られていればサマセット.モームの世界になる。永和久氏の「北緯三十度線」は終戦後の混乱の中で滅法明るい、前向きな群像を描き、清原つる代さんの「子捨て村」は明るくも暗くもない平明な日常生活が奇妙なリアリティを見せている。