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【調査成績概要】
 本年度は5月に反政府軍の反乱があり、特にバンギー市内での治安が悪いとの情報を高倍大使より戴いたので、8月に出かける予定であったが延期し、平成13年12月の乾季に調査期間を一週間に短縮して辻、下田の二人が出かけて現地調査を行った。特にパリとバンギー間のフライトで確実に運行されるのがエア・フランスの週1便のみであるために現地滞在を一週間に決めた次第である。またバンギー近郊のウワンゴ地区の治安が悪いと云う情報を高倍大使より連絡を戴いていたので、今回はブアール地区のケラ・セルジャン村とバイキ地区のバンザ村の検診と治療のみを行った。両村とも我々の検診を待っていたとのことで、受診者はケラ・セルジャン村で157名、バンザ村で131名と例年より多く、現地の往復および準備のために1〜2日を要し、検診出来るのは何れも1日のみであったために非常に多忙であった。
 調査の結果、厚層塗抹法とMGL法の併用による検便成績はケラ・セルジャン村では136名中蠕虫卵の陽性が35名(25.7%)「昨年度60.8%」、鉤虫卵陽性が29名(21.3%) 「昨年度45.7%」、マンソン住血吸虫卵陽性が7名(5.1%)「昨年度27.1%」であり、その他鞭虫1名(0.7%)「昨年度1.5%」、小形条虫1名(0.7%)「昨年度0.5%」の虫卵陽性者が検出された。またバンザ村では蠕虫卵の陽性は123名中23名(18.7%) 「昨年度50.8%」、鉤虫卵陽性が20名(16.3%) 「昨年度50.8%」、マンソン住血吸虫卵陽性が2名(1.6%)「昨年度は0」、蛔虫卵陽性が1名(0.8%)「昨年度0」、その他昨年度ケラ・セルジャン村で検出された一過性に排出されたと思われ肝鞭虫の虫卵陽性者も1名見出されている。
 消化管内寄生原虫嚢子の検査はMGL法による検便をケラ・セルジャン村とバンザ村の両村で行ったが、ケラ・セルジャン村では原虫嚢子陽性が131名中84名(64.1%)「昨年度63.3%」で、その中赤痢アメーバ陽性が23名(17.6%)「昨年度11.1%」、大腸アメーバ陽性が57名(43.5%)「昨年度47.2%」、小形アメーバ陽性が66名(50.4%) 「昨年度39.2%」、ヨードアメーバ陽性が40名(30.5%)「昨年度20.1%」、ランブル鞭毛虫陽性が19名(14.5%) 「昨年度9.5%」であった。またバンザ村では原虫嚢子陽性が114名中97名(85.1%)「昨年度42.9%」で、その中赤痢アメーバ陽性が29名(25.4%) 「昨年度17.5%」、大腸アメーバ陽性が44名(38.6%) 「昨年度27.0%」、小形アメーバの陽性が69名(60.5%) 「昨年度17.5%」、ヨードアメーバ陽性が49名(43.0%) 「昨年度12.7%)、ランブル鞭毛虫陽性が20名(17.5%) 「昨年度11.1%」であって、昨年度は原虫嚢子の陽性率がケラ・セルジャン村の方が高かったが、本年度はバンザ村の方が高く、全原虫嚢子陽性率も昨年度に比して42.9%→85.1%と高く、各原虫別にみても赤痢アメーバが17.5%→25.4%、大腸アメーバが27.0%→38.6%、小形アメーバが17.5%→60.5%、ヨードアメーバが12.7%→43.0%、ランブル鞭毛虫が11.1%→17.5%と何れの原虫陽性率も高率であった。
 血液検査によるミクロフィラリア陽性者はケラ・セルジャン村では151名中11名(7.3%) 「昨年度11.3%」で、陽性者11名中ロア糸状虫陽性が7名(63.6%) 「昨年度65.2%」と多く、逆にバンザ村では130名中55名(42.3%)「昨年度24.7%」がミクロフィラリア陽性で、この陽性者55名中51名(92.7%)「昨年度は100%」から常在糸状虫のミクロフィラリアが検出され、ロア糸状虫陽性者は21名(31.8%) 「昨年度は混合感染者の33.3%」であった。またマラリア原虫陽性はケラ・セルジャン村では151名中88名(58.3%)「昨年度57.6%」、バンザ村で130名中84名(64.6%)「昨年度80.8%」であり、バンザ村の方が高率であった。なおケラ・セルジャン村では熱帯熱マラリアが陽性者の54.5%「昨年度61.5%」、四日熱マラリア陽性者が86.4%「昨年度81.2%」で、バンザ村では熱帯熱マラリアが48.8%「昨年度62.7%」、四日熱マラリアが69.1%「昨年度78.0%」と両村の間で大差は認められなかった。なおマラリア感染者のうちケラ・セルジャン村では約41%、バンザ村では約18%が熱帯熱マラリアと四日熱マラリアの混合感染であった。
 またケラ・セルジャン村で全検査を受診した人126名を比較すると、本年度の陽性率は88.1%と昨年度の陽性率93.0%および一昨年度の陽性率89.5%に比し大差は認められなかったが、一人平均の感染種類数は一昨年3.00種、昨年2.98種、本年2.81種と減少していた。またバンザ村での比較では、本年度98.2%、昨年度93.3%、一昨年度93.8%と陽性率はやや増加傾向が認められ、一人平均の感染種類数も一昨年3.26種、昨年2.87種、本年3.35種とやや増加していた。
 このようにケラ・セルジャン村では新しい受診者が増加しており、また乾季に検診したにも拘わらず、寄生虫の陽性率が減少しているのは長年にわたる住民に対する衛生教育により村民の一人一人が自分の健康は自分で守ると云う意識を持つようになった故ではないかと思われる。一方バンザ村で陽性率が増加しているのはジャングル内の村なので媒介蚊対策が困難であることに加えて首都バンギーに約100kmと比較的近くに存在するので人の交流が多いためではないかと思われる。
1) 検診対象
 ケラ・セルジャン村では157名の受診者があり、136名はその日に糞便の提出があったので厚層塗抹法による検便を現地で行い、蠕虫陽性者32名のうち鉤虫に対しては駆虫剤としてピランテル・パモエイトを、鞭虫陽性者に対してはメベンダゾールを、またマンソン住血吸虫および小形条虫陽性者に対してはプラジカンテルの投与を行った。バンザ村では131名の受診者があり、123名はその日に糞便の提出があったので、厚層塗抹法による検便を現地で行い、蠕虫陽性者の20名のうち鉤虫陽性者および蛔虫陽性者に対してはピランテル・パモエイトを、マンソン住血吸虫陽性者に対してはその場で投薬を行った。なお便量の少なかった15名(ケラ・セルジャン村6名、バンザ村9名)については厚層塗抹法のみを実施し、他の検体はケラ・セルジャン村の分はブアール病院の検査室で、バンザ村の分は現地の村の木陰でホルマリンによる固定のみを行って日本に持ち帰り、MGL法による処理をして検査を行った。またケラ・セルジャン村の151名およびバンザ村の130名の計281名についてはマラリアおよび糸状虫症検査のための血液塗抹標本を作製した。なおここ数年の検診でオンコセルカの検査結果が全員陰性であるので皮膚検査は行わず、またビルハルツ住血吸虫の陽性者もウワンゴを除き最近検出されていないので、尿検査も行わなかった。
2) 検診方法
 検診はケラ・セルジャン村およびバンザ村の両村とも受診希望者が多く、また滞在期間が短いこともあって従来から陽性者が多くみられる寄生虫種を検出し得る検便と血液検査のみを実施した。今回も晴天であった事から、ケラ・セルジャン村では健康手帳確認と血液塗抹標本作製は現地の木陰で行い、厚層塗抹法による検便および血液標本処理はブアール病院の検査室を借用して実施した。バンザ村での検診では厚層塗抹法による検便、糞便の遠心沈殿処理のためのホルマリン固定および血液塗抹標本作製はすべて野外の木陰で行い、MGL法の検体処理と血液塗抹標本の染色処理は現地に電気がないことおよび時間的な制約があったため、材料を日本に持ち帰って行った。われわれに同行したヤヤ医師は受け付けの手伝いをしてくれると同時に現地住民の寄生虫症以外の患者の診療を実施し、またバンザ村に同行された大使館の青山医務官も現地住民の病気の相談を引き受けて下さった。
a) 血液検査
 受診者のうちケラ・セルジャン村151名およびバンザ村130名の計281名の指頭血より採血した血液を使用して濃塗及び薄層の血液塗抹標本を作製した。これらの標本は風乾後日本に持ち帰り、濃塗標本は蒸留水で溶血して薄層塗抹標本とともにメタノール固定後、ギムザ染色を行ってミクロフィラリア、マラリア原虫などの検索を実施した。
b) 糞便検査
 ケラ・セルジャン村の136名およびバンザ村の123名については現地で厚層塗抹法による蠕虫卵検査を行うと同時にヌンクのチューブに糞便を入れてホルマリン固定をして日本に持ち帰り、MGL法(ホルマリン・エ一テル法)による遠心沈殿法を行って、蠕虫卵と消化管寄生原虫嚢子の検査を行った。なお便量の少なかったケラ・セルジャン村の6名およびバンザ村の9名の計15名については厚層塗抹法のみを実施して蠕虫卵の検索を行った。
3) 治療方法
 ケラ・セルジャン村、バンザ村で行った厚層塗抹法による検便で蠕虫卵陽性であった者には抗蠕虫薬を投与した。すなわち鉤虫卵、蛔虫卵陽性者に対しては日本から供与薬品として持参したピランテル・パモエイトであるコンバントリンを、鞭虫卵陽性者に対してはサイアベンダゾールを、マンソン住血吸虫卵および小形条虫卵陽性者に対してはプラジカンテルを投与した。なおケラ・セルジャン村およびバンザ村の両村とも昨年度の検診結果で糸状虫のミクロフィラリアが陽性であった者に対しては現地で購入したジエチルカルバマジンを、赤痢アメーバが陽性であった者にはメトロニダゾールを、マラリア原虫が陽性であった者にはクロロキンを投与した。その他ブアール病院、バンザ村の診療所にはピランテル・パモエイト、サイアベンダゾール、プラジカンテル、クロロキン、メトロニダゾールを供与して、ブアール病院では医師と看護士に、バンザ村の診療所では看護士に寄生虫症の患者が検出された場合には投薬を実施するように依頼した。
4) 検査成績
 糞便および血液の各検査成績をまとめると以下の通りである。
A) 糞便検査による蠕虫卵検査成績
 厚層塗抹法のみでの糞便検査により見いだされた寄生蠕虫卵陽性者の成績を纏めたのが表1である。即ち全検査者259名の中厚層塗抹法による蠕虫卵の陽性者は52名(20.1%)であった。その中ケラ・セルジャン村では136名中32名(23.5%)、バンザ村では123名中20名(16.3%)で、ケラ・セルジャン村の陽性率がやや高かった。またケラ・セルジャン村とバンザ村の検体で行った厚層塗抹法とMGL法の成績を纏めた蠕虫卵検査結果は表2のごとくで、259名中58名(22.4%)が陽性で、その内訳はケラ・セルジャン村で136名中35名(25.7%)、バンザ村で123名中23名(18.7%)であり、両検査法を併用した場合でもケラ・セルジャン村の方がバンザ村の陽性率より高かった。なお厚層塗抹法のみが陽性であったのはケラ・セルジャン村で鉤虫5名、鞭虫1名および小形条虫1名であり、MGL法のみが陽性であったのは鉤虫7名であった。またバンザ村でも厚層塗抹法のみが陽性であったのが鉤虫5名(うち1名は回虫卵も検出)およびマンソン住血吸虫1名であり、MGL法のみが陽性であったのは鉤虫3名であった。従って常々記しているごとく、蠕虫症検診の際には厚層塗抹法と遠心沈澱法であるMGL法の両検査法を併用することが必要であることが示された。
 参考までにケラ・セルジャン村の近年の蠕虫卵陽性率を比較すると1995年度は60.8%、1999年度は39.9%、昨年の2000年度は60.8%、本年度は25.7%であり、一方バンザ村における過去の陽性率は、9年前31%、8年前32%、7年前40%、6年前32%、4年前39%、3年前20%(但し厚層塗抹法のみ)、一昨年度36%、昨年度50.8%(厚層塗抹法のみでは20.6%)、本年度18.7%(厚層塗抹法のみでは16.3%)とその陽性率は検査時の季節にもよるが、毎年変動がみられている。しかしケラ・セルジャン村の検診を最初に実施した1977年度および1979年度の陽性率が鉤虫のみをみてもそれぞれ74.4%、93.8%であったことと比較すると、確実にその陽性者は減少している。これは基幹病院であるブアール病院の検査技師の技術が我々の技術移転によりレベルアップしたことと調査団が供与した遠心器および顕微鏡も常備され、使用されるようになったことに加えて村民の衛生に対する意識が向上したことによるものと思われる。なおバンザ村では最初に検診を行った1988年度および1989年度の鉤虫陽性率がそれぞれ48.8%、50.2%であって、現在の陽性率と大差は認められていない。これは先にも記したごとくバンザ村がジャングル内の村で媒介蚊対策が困難であることおよび首都バンギーの近くに存在するので人の交流が多いためではないかと思われる。
 以下に各蠕虫症について,厚層塗抹法およびMGL法による検便成績について述べることとする。
 
a) 鉤虫症
 中央アフリカ共和国における寄生蠕虫疾患のうち最も高率に見いだされたのが鉤虫症である。ケラ・セルジャン村では136名中29名(21.3%) 「昨年度45.7%」、バンザ村では123名中20名(16.3%) 「昨年度50.8%」が鉤虫卵陽性であり、何れも昨年度より低率であった。これは本年度は12月と乾季に入ってからの調査であったことに加えて、昨年度は5月からの雨季の雨量が例年よりも多かったために高率であったためと推測される。陽性者に対してはピランテル・パモエイトであるコンバントリンの投与を行ったが、鉤虫症対策としては雨季と乾季の変わり目の年2回の投薬が好ましいと判断される。
 
b)鞭虫症
 鞭虫感染者はケラ・セルジャン村で136名中1名(0.7%)「昨年度は1.0%」のみが検出されたが、バンザ村では本年度も123名の検査を行ったが1名の陽性者も見出されなかった。なおこのケラ・セルジャン村における陽性1名は厚層塗抹法でのみ虫卵が検出され、MGL法では陰性であった。現地での厚層塗抹法による検査で鞭虫卵が陽性であったので、ブアール病院長にメベンダゾールを渡して投与を依頼した。
 
c) 蛔虫症
 蛔虫感染者は厚層塗抹法によりバンザ村で123名中1名(0.8%)が陽性であったのみで、ケラ・セルジャン村からは厚層塗抹法とMGL法の両法併用検査でも陽性者は認められず、全体では259名中1名(0.4%)が蛔虫感染者であった。この蛔虫感染者は鉤虫も陽性であり、MGL法では両種とも虫卵は検出されなかった。この蛔虫卵陽性者に対しては鉤虫にも有効であることからピランテルパモエイトであるコンバントリンの投与を行った。
 
d) 肝鞭虫卵陽性者
 昨年度はケラ・セルジャン村の住民の便からMGL法により肝鞭虫卵が1名検出されたが、本年度はMGL法のみならず厚層塗抹直接法でもバンザ村の1名(0.8%)から肝便虫卵が検出された。本来は鼠の肝臓に寄生しているものであり、一過性のものではないかと思われるが、昨年度ケラ・セルジャン村で陽性であった患者に対して鼠を食するか否かについての問診を行ったが、問診の結果、鼠は食していないとのことで、その感染経路は不明である。効果については不明であるが、念のために昨年度陽性であったケラ・セルジャン村の1名の患者および本年度陽性であったバンザ村の1名に対してはメベンダゾールの投与を行った。
 
e) マンソン住血吸虫症
 厚層塗抹法でマンソン住血吸虫卵が陽性であったのはケラ・セルジャン村で136名中5名(3.7%) 「昨年度10.6%」、バンザ村で123名中2名(1.6%) 「昨年度は0」であり、厚層塗抹法とMGL法の併用検査ではケラ・セルジャン村で136名中7名(5.1%)「昨年度27.1%」、バンザ村では123名中2名(1.6%)であった。従ってMGL法を併用することによりケラ・セルジャン村で2名の陽性者が新たに検出されたことになる。バンザ村ではMGL法で新たに検出された症例はなかった。参考までに1979年以降毎年経時的に検診を行っているケラ・セルジャン村の過去の成績を眺めてみると、35.9%、27.4%、26.0%、13.2%、19.8%、14.4%、19.1%、13.5%、16.1%、10.3%と減少し、ゲリラ出現で3年間検診を行わなかった1991年には26.1%と以前の陽性率にまで戻り、その後は11.9%、17.9%、12.4%、17.5%(1995年)となり、政情不安により再び3年間の検診を休止した後である一昨年は16.4%、昨年は27.1%と殆ど陽性率の変化は認められていなかったが、本年度は5.1%と非常に低率となっていた。以上のごとくマンソン住血吸虫症の診断にはMGL法が優れているが、過去の例をみても厚層塗抹法も併用する方が好ましいと考えられる。最近中央アフリカにおいても道路が整備されて他地区との交流が頻繁となり、バンザ村の例にもみられるごとく、元々その地区に居住している住民を駆虫しても他地区から患者が転入して虫卵を散布する機会が多くなっているので、診断された患者の治療のみならず、中間宿主対策無くしては完全撲滅は困難であると思われる。マンソン住血吸虫卵陽性であった者に対してはプラジカンテルを投与した。
 
f) 条虫症
 本年度も厚層塗抹法でケラ・セルジャン村で1名(0.5%)から小形条虫卵が検出されたが、この陽性者は昨年度の患者とは異なっていた。なお小形条虫卵はMGL法では検出されていない。虫卵陽性者に対してはプラジカンテルを投与した。
B) 糞便検査による原虫嚢子検査成績
 ホルマリンエーテル遠心沈殿法すなわちMGL法による消化管寄生原虫嚢子検査成績を纏めた結果は表3のごとくである。即ちケラ・セルジャン村では131名中原虫嚢子陽性者は84名(64.1%)「昨年度は63.3%」で、バンザ村では114名中陽性者は97名(85.1%)「昨年度は42.9%」であり、両村の合計では245名中181名(73.9%) 「昨年度は58.4%」と昨年度に比し本年度高率であるのはバンザ村の陽性率が約2倍となっていたことである。その内訳は赤痢アメーバ嚢子陽性がケラ・セルジャン村で23名(17.6%)「昨年度11.1%」、バンザ村で29名「昨年度17.5%」の計52名(21.2%) 「昨年度12.6%」であり、大腸アメーバ嚢子陽性がケラ・セルジャン村で57名(43.5%)「昨年度47.2%」、バンザ村で44名(38.6%)「昨年度27.9%」の計101名(41.2%)「昨年度42.4%」、小形アメーバ嚢子陽性がケラ・セルジャン村で66名(50.4%)「昨年度39.2%」、バンザ村で69名(60.5%) 「昨年度17.5%」の計135名(55.1%) 「昨年度34.0%」、ヨードアメーバ嚢子陽性がケラ・セルジャン村で40名(30.5%)「昨年度20.1%」、バンザ村で49名(43.0%)「昨年度12.7%」の計89名(36.3%) 「昨年度18.3%」であり、またランブル鞭毛虫嚢子陽性はケラ・セルジャン村で19名(14.5%) 「昨年度9.5%」、バンザ村で20名(17.5%) 「昨年度11.1%」の計39名(15.9%)「昨年度9.9%」であった。ケラ・セルジャン村での原虫嚢子陽性率は昨年度63.3%、本年度64.1%とほとんど同じで、また各原虫別の嚢子陽性率も何れも昨年度と大差が認められなかったが、バンザ村では原虫嚢子陽性者が昨年度42.9%、本年度85.1%であって、その中赤痢アメーバは昨年度17.5%、本年度25.4%、大腸アメーバは昨年度27.0%、本年度38.6%、小形アメーバは昨年度17.5%、本年度60.5%、ヨードアメーバは昨年度12.7%、本年度43.0%、ランブル鞭毛虫嚢子陽性者は昨年度11.1%、本年度17.5%と何れも本年度の方が増加していた。これらの消化管寄生原虫嚢子陽性者181名に対しては来年度にメトロニダゾールあるいはチニダゾールを投与する予定である。
C) 血液検査成績
 血液検査はブアール地区ケラ・セルジャン村の151名とバイキ地区バンザ村の130名の計281名について実施し、糸状虫のミクロフィラリアとマラリア原虫の検索を行った。その成績は表4および表5に示すごとくである。
 
a) ミクロフィラリア検査成績
 ミクロフィラリア検査成績は表4に示すごとく、ケラ・セルジャン村とバンザ村で採血した合計281名の中66名(23.5%)「昨年度14.9%」が糸状虫陽性であり、その中常在糸状虫陽性が56名(19.9%) 「昨年度11.6%」、ロア糸状虫陽性が21名(7.5%) 「昨年度7.6%」であった。これらの陽性者66名の中常在糸状虫のミクロフィラリアのみが陽性であったのは45名(68.2%) 「昨年度48.8%」、ロア糸状虫のミクロフィラリアのみが陽性であったのは10名(15.1%)「昨年度21.9%」、両種のミクロフィラリアが陽性であったのは11名(16.7%)「昨年度29.3%」であった。この両種混合感染者11名は全検査数からみると3.9%「昨年度4.3%」となる。ケラ・セルジャン村で採血した151名の中11名(7.3%)「昨年度11.3%」が糸状虫陽性であり、その中常在糸状虫陽性が5名(3.3%) 「昨年度6.9%」、ロア糸状虫陽性が7名(4.5%) 「昨年度7.4%」であった。これらの陽性者11名の中常在糸状虫のミクロフィラリアのみが陽性であったのは4名(36.4%) 「昨年度34.8%」、ロア糸状虫のミクロフィラリアのみが陽性であったのは6名(54.5%) 「昨年度39.1%」、両種のミクロフィラリアが陽性であったのは1名(9.1%)「昨年度26.1%」であった。この両種混合感染者1名は全検査数151名からみると0.7%となる。一方バンザ村では採血した130名の中55名(42.3%)「昨年度24.7%」が糸状虫陽性であり、その中常在糸状虫陽性が51名(39.2%)「昨年度24.8%」、ロア糸状虫陽性が14名(10.8%)「昨年度8.2%」であった。これらの陽性者55名の中常在糸状虫のミクロフィラリアのみが陽性であったのは41名(74.5%) 「昨年度66.7%」、ロア糸状虫のミクロフィラリアのみが陽性であったのは4名(7.3%) 「昨年度0」で、両種のミクロフィラリアが陽性であったのは10名(18.2%) 「昨年度33.3%」であった。この両種混合感染者10名は全検査数130名からみると7.7%「昨年度8.2%」となる。以上の成績を眺めてみると糸状虫陽性者はジャングル内に存在するバンザ村の陽性率は42.3%とサバンナに存在するケラ・セルジャン村の陽性率7.3%より高率であり、特に常在糸状虫ミクロフィラリアの陽性率がバンザ村では39.2%とケラ・セルジャン村の3.3%より高く、ロア糸状虫の陽性率も各々10.8%、4.6%とバンザ村の方が高かった。これらの糸状虫症患者に対しては来年度にジエチルカルバマジンを投与する予定である。
 
b) マラリア原虫検査成績
 マラリア原虫検査成績は表5に示すごとく、ケラ・セルジャン村とバンザ村で採血した合計281名の中172名(61.2%) 「昨年度63.8%」がマラリア原虫陽性であり、その中熱帯熱マラリア陽性が89名(31.7%) 「昨年度39.5%」、四日熱マラリア陽性が134名(47.7%) 「昨年度51.1%」であり、本年度も卵形マラリア原虫陽性者は検出されなかった。これらのマラリア原虫陽性者172名の中熱帯熱マラリア原虫のみが陽性であったのは38名(22.1%)「昨年度35名19.9%」、四日熱マラリア原虫のみが陽性であったのは83名(48.3%)「昨年度38.1%」、両種のマラリア原虫が陽性であったのは51名(29.6%) 「昨年度42.0%」であった。この両種混合感染者51名は全検査数からみると18.1%「昨年度26.8%」となる。ケラ・セルジャン村で採血した151名の中88名(58.3%「昨年度57.6%」がマラリア原虫陽性であり、その中熱帯熱マラリア原虫陽性が48(31.8%)「35.5%」、四日熱マラリア原虫陽性が76名(50.3%)「昨年度46.8%」であった。これらの陽性者88名の中熱帯熱マラリア原虫のみが陽性であったのは12名(13.6%) 「昨年度18.8%」、四日熱マラリア原虫のみが陽性であったのは40名 (45.5%) 「昨年度38.5%」、両種のマラリア原虫が陽性であったのは36名(40.9%) 「昨年度42.7%」であった。
 この両種混合感染者36名は全検査数151名からみると23.8%「昨年度24.6%」なる。一方バンザ村では採血した130名の中84名(64.6%)「昨年度80.8%」がマラリア原虫陽性であり、その中熱帯熱マラリア原虫陽性が41名(31.5%) 「昨年度50.7%」、四日熱マラリア原虫陽性が58名(44.6%) 「昨年度63.0%」であった。これらの陽性者84名の中熱帯熱マラリア原虫のみが陽性であったのは26名(30.9%) 「昨年度22.0%」、四日熱マラリア原虫のみが陽性であったのは43名(51.2%) 「昨年度37.3%」、両種のマラリア原虫が陽性であったのは15名(17.5%) 「昨年度40.7%」であった。この両種混合感染者15名は全検査数130名からみると11.5%「昨年度32.9%」となる。以上の成績を眺めてみるとマラリア原虫陽性者はケラ・セルジャン村で58.3%「昨年度57.6%」、バンザ村で64.6%「昨年度80.8%」と本年度も昨年度と同様にバンザ村の方がやや高率であったが、昨年度ほどの差異は認められなかった。なお熱帯熱マラリア原虫の陽性率はケラ・セルジャン村で31.8%「昨年度35.5%」、バンザ村で31.5%「昨年度50.7%」と昨年度はバンザ村の方がやや高率であったが、本年度はほとんど同じであり、また四日熱マラリア原虫陽性率はケラ・セルジャン村で50.3%「昨年度46.8%」、バンザ村で44.6%「昨年度63.0%」とほとんど同率であった。これらのマラリア原虫陽性者の中昨年度受診し、陽性であった者に対しては現地でクロロキンを投与し、一部の陽性例にはメフロキンを投与した。本年度陽性を呈した者に対しては来年度にクロロキン、あるいはメフロキンまたはアルテミシンを投与する予定である。
D) 全検査受診者の検査成績
 健康手帳を配布し、毎年検診を実施しているケラ・セルジャン村およびバンザ村で厚層塗抹法とMGL法による糞便検査と血液検査のすべてを受診したのは、新しい受診者を含めてケラ・セルジャン村では126名、バンザ村で114名であり、その陽性者の検出寄生虫の種類を纏めたのが表6および表7である。
 ケラ・セルジャン村では126名中111名(88.1%) 「昨年度は199名中185名(93.0%)」で何れかの寄生虫に感染が認められ、陰性であったのは15名(11.9%) 「昨年度7.0%、一昨年度10.5%」であった。全体的にみると、1985年の成績では全検査受診者全員で何らかの寄生虫感染が認められていたのが、1995年での陽性者は94.5%、1999年で89.5%、2000年に93.0%、本年度(2001年度)は88.1%と徐々にではあるが、寄生虫症患者が減少していることが判る。陽性者の内訳は1種類の寄生虫感染者が18名(14.3%)「昨年度14.1%」、2種類が18名(14.3%)「昨年度21.1%」、3種類が26名(20.6%) 「昨年度20.6%」、4種類が30名(23.8%) 「昨年度17.6%」、5種類が14名(11.1%)「昨年度11.6%」、6種類が4名(3.2%)「昨年度6.0%」、7種類が0「昨年度1.0%」、8種類が1名(0.8%)「昨年度0.6%」および9種類が0「0.6%」の感染者であった。このケラ・セルジャン村での1人平均感染寄生虫の種類は2.81種と昨年度の2.98種類および一昨年度の3.00種類に比べて減少していた。
 一方バンザ村では全受診者114名中何らかの寄生虫に感染が認められたのは112名(98.2%)と昨年度の60名中56名(93.3%)、一昨年度の97名中91名(93.8%)に比し増加が認められ、寄生虫が全く検出されず陰性であったのは114名中2名(1.8%)「昨年度6.7%、一昨年度6.2%」であった。陽性者の内訳は1種類の感染者が12名(10.5%) 「昨年度18.3%」、2種類が15名(13.1%) 「昨年度21.7%」、3種類が36名(31.6%)、4種類が27名(23.7%)「昨年度18.3%」、5種類が13名(11.4%「昨年度11.7%」、6種類が5名(4.4%) 「昨年度1.7%」、7種類が3名(2.6%)「昨年度3.3%」、8種類の感染者が1名(0.9%) 「昨年度は8種類以上の陽性者は0」で、バンザ村での1人平均感染寄生虫種類は3.35種類と昨年度の2.87種類および一昨年度の3.26種類に比し増加していた。このようにバンザ村で陽性率が高いのはジャングル内の村なので媒介蚊対策が困難であることおよび首都バンギーに近いために人の交流が比較的多いことによるためではないかと思われる。
5) 考 察
 中央アフリカ共和国では現在も約11ヶ月の給料遅配が続いているために政情は不安定で、5月に反政府軍の反乱があり、特にバンギー市内での治安が悪いとの情報を高倍大使より戴いたので、8月に出かける予定であったが、延期していたところ11月中旬になって高倍大使およびヤヤ医師から政情がやや落ち着いているので現地調査に来ては如何かと云う連絡を戴いたので、12月に調査に出かけることにした。出発前に高倍大使より万一場合にはブアールからカメルーンに出国することも考えた方が良いのではないかとのアドバイスを戴いたので、日本で予めカメルーンのビザも収得して出かけた。また現地滞在の検査期間も通常は2〜3週間であるが、現在パリとバンギー間のフライトはエア・フランスとエア・アフリカが週1便づつあるが、エア・アフリカの航空機が11月下旬に故障し、完全に運行されるのは1機のみとなり、予定通りに飛ぶのはエア・フランスのみであるとのことなので、丁度1週間と短縮し、派遣団員も小回りが効くと云うことで辻、下田の二人が出かけて調査を行った。政情はやや流動的ではあるが比較的落ち着いており、特に首都のバンギー以外の地方では例年と変わらず問題はなかった。空港には高倍大使ご自身が迎えに来て下さり、また保健省の第一地方医務局長のヤシポ医師は日曜なのに出勤し、局長室で我々を待っているなど調査の受入態勢は万全であった。
 バンギーに到着後、高倍大使、ヤヤ医師、ヤシポ局長などと話し合いの結果、ケラ・セルジャン村およびバンザ村での検診は昨年度と同様に問題がないが、ウワンゴ地区の状況は悪く、外国人が入るのは避けた方が良いとの判断で、本年度は日本出発前に計画した通りにケラ・セルジャン村とバンザ村の検診を実施した。その結果ケラ・セルジャン村では蠕虫卵の陽性率は厚層塗抹法とMGL法との併用で、25.7%と昨年の60.8%および一昨年の39.9%よりも低率であった。一方原虫嚢子の陽性率は64.1%と昨年の63.3%や一昨年の67.8%とほとんど変わりはみられなかった。また血液検査の結果は糸状虫ミクロフィラリアの陽性率は7.3%と昨年の11.3%や一昨年の陽性率12.3%とやや低率ではあるが、有意の差は認められず、マラリア原虫の陽性率も58.3%と昨年の57.6%や一昨年の60.0%と殆ど同じであった。なお全検査を受診した人は126名でその中何らかの寄生虫が陽性であったのは111名(88.1%)と昨年度の93.0%や一昨年度の89.5%よりはやや低く、一人平均の感染種類数も一昨年度が3.00種類、昨年度が2.98種類、本年度が2.81種類と減少傾向がみられている。なお本年度も健康手帳保有者と初診者との間で陽性率には有意差は認められなかった。これはこれまでに実施した衛生教育が役立っており、新しく越して来た人達に対しても郡長始め一般村民が注意を促しているからだとのことである。一方バンザ村では蠕虫卵の陽性率は厚層塗抹法とMGL法との併用で、18.7%と昨年の50.8%、一昨年の37.1%よりも低率であったが、乾季で村への往来が容易であるために他地区から来た新しい受診者が多かった故で、原虫嚢子陽性者は本年度85.1%と昨年度の42.9%、一昨年度の64.9%よりも高率であった。なおバンザ村での血液検査成績を過去3年間の成績と比較すると、糸状虫ミクロフィラリア陽性者は一昨年度が119名中46名(38.7%)、昨年度73名中18名(24.7%)、本年度130名中55名(42.3%)であり、その中ロア糸状虫陽性者は一昨年度14名(11.8%)、昨年度6名(8.2%)、本年度14名(10.8%)、常在糸状虫陽性者は一昨年度44名(37.0%)、昨年度は18名(24.7%)、本年度51名(39.2%)、両種混合感染者は一昨年度12名(10.1%)、昨年度6名(8.2%)、本年度10名(7.7%)であった。またマラリア原虫陽性者は一昨年度が119名中65名(54.6%)、昨年度が73名中59名(80.8%)、本年度が130名中84名(64.6%)であり、熱帯熱マラリア原虫陽性者は一昨年度40名(33.6%)、昨年度37名(50.7%)、本年度41名(31.5%)、四日熱マラリア原虫陽性者は一昨年度45名(37.8%)、昨年度46名(63.0%)、本年度58名(44.6%)、両種混合感染者は一昨年度20名(16.8%)、昨年度24名(32.9%)、本年度15名(11.5%)であり、本年度も卵形マラリア原虫陽性者は検出されなかった。以上のごとくケラ・セルジャン村では糸状虫は常在糸状虫とロア糸状虫はほとんど同じに感染していたが、バンザ村では常在糸状虫感染者が多く、マラリアではケラ・セルジャン村、バンザ村とも四日熱マラリア原虫感染者の方がやや多かった。
 なお中央アフリカ共和国、特にケラ・セルジャン村において新しい受診者が増えているにも拘わらず、寄生虫の陽性率の極端な増加がみられず、寧ろ減少傾向がみられるのは、住民に対する衛生教育とともにこれまで現地の検査技師に検査技術の移転を行った成果であると思われる。このように現地の看護士および検査技師が独自に寄生虫の検査、診断が出来るようになり、また衛生士が衛生教育の手法を会得したのは継続されている笹川記念保健協力財団の寄生虫対策調査が徐々にではあるが効果を現わしているからだと判断される。しかし中央アフリカ共和国の経済破綻により慢性的な薬剤不足と医療従事者に対する給料遅配の問題があるので、今後は現地で調達出来る生薬など植物から抽出する薬剤の検討も必要ではないかと思われる。ただ疫学的にみても当分の間はこれらの検討と並行して、例え今回のごとく短期間であっても笹川記念保健協力財団の調査団による検診および治療を継続することが必要であると考えられる。
 なお本年度は丁度バンギー大学の学位審査の時期と重なったこともあり、バンギー到着した日に医学部長からヤヤ医師を通じてその審査委員になることを依頼された。他には象牙海岸、ベナン、カメルーン、コンゴの3カ国の医学部教授が参加するが、日本の教授が加わってくれれば、よりインターナショナルになるからと依頼された。3年前に一度出席した時にはフランスやベルギーの教授も審査に加わっていたのであるが、今回はアフリカ関係以外は全て欠席であるので、と云うことであった。1週間と云う短い日程で多忙であったが是非にと頼まれて引き受けたところ、バンギーから帰った日の夜に教授会で決まったからと主査となる眼科関係の論文と第一副査となる外科関係の論文が届けられた。翌日が審査の日と云うことで夜に査読をして質問事項などの整理をし、翌日の午前1題、午後1題の論文審査を無事に済ませた。2日後に国立会議場でパタセ大統領出席のもと、学位授与式があったが、外国人の審査委員が一人づつ紹介され、式典最後の大統領挨拶の中で、「日本は笹川記念保健協力財団を始めとする医療援助があり、また日本政府からも多くの援助をして貰っているが、今回の学位審査に日本の教授が参加してくれているごとく、日本は物質的な援助のみならず技術援助もしてくれていることに感謝する」と出席者約500名の前で特別に名指しで挨拶してくれたことは感激であった。大統領が退席される時にも各人と挨拶されたが、その折りにも「毎年わが国のために来てくれて有り難う。頭の中にはいつも長年継続してくれている笹川記念保健協力財団に対する感謝の気持ちがあります」と固い握手をしてくれた。その夜医学部主催のレセプションが行われたが、レセプション開催の前に中央アフリカ政府より今回学位審査に携わった外国人教授達に叙勲があり、辻にも他の教授よりグレードの高いPalmeAcademie(学術功労勲章)のOfficieが授与された。その際にも国務大臣より笹川記念保健協力財団のこれまでの援助に対する感謝が述べられた。








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